9.おっさん、メイド喫茶で領主ラビスを救う
「この格好で入れますかね?」
「そういう店じゃないから、大丈夫だ」
地球の有名ハンバーガーチェーン店に似た内装の店は、富裕層の店らしく傭兵が二人、警護をしていた。
A級冒険者のラビスは顔なじみなのか傭兵達も頭を深々と下げる。
ファストフード店に似た店内に入ると、メイド服を着た店員が二人を迎える。
「御主人様、お嬢様、お帰りなさいませ」
異世界文化汚染か、ため息をついて苦い顔をする春陽を見て、ラビスは何かを察したように苦笑いをした。
ラビスは無言で、春陽を店内に連れて行く。
メニューを見るとハンバーガーが銀貨五枚、牛丼が銀貨五枚だった。
「店を変えませんか?この店、ぼったくりですよ」
ラビスに耳打ちをするが、
「そういうな。奢るから」
と押し切られてしまった。
「オムライス、『萌え萌えきゅん』も『ハート・マーク』や『愛情注入』もなしでお願いします」
「春陽、勇者料理に詳しいな。ただ、そのサービスは王都の高級店でしかやっていないんだよ」
「それは良かったです」
ラビスも、春陽と同じものを頼んだ。
「明日も、アナコンダ討伐に行くんだが、春陽、隠していることがないか?」
「ラビスも隠し事がありますよね」
春陽が微笑む。
「目が笑ってないぞ」
「生まれつきです。ジャンケンしましょうか。どうせ知っているでしょう?」
「グー、チョキ、パー?か」
「ジャンケン・ポン」
春陽がグーを出し、ラビスはパーを出した。
「私の負けですか。ラビスは、最低でもオルエドの領主かその後継ぎ。場合によっては、オルエドより大きな領地の貴族、または上級貴族か王族ですよね。質問される前に応えておきます。私は勇者ではありませんよ」
「勇者ではなくても、春陽は異世界からの転生者ではあるわけか?金髪碧眼も偽装魔法だな」
「そこは、黙秘します。で、ラビスは王族ですか。オルエドの領主ですか?」
「両方、正解だ。私はリース辺境伯。オルエドは飛び地の辺境伯領だ。本名は、ラビス・ロベリア。 王弟の長女で、ロベリア王国の王位継承権は五位だ。異世界人なら、ラビスと呼べばいい」
ちょうどいい。人間相手の探知魔法の実験に使えると春陽は、探知魔法を使ってみることにした。
王位継承順位五位、微妙な立ち位置ではあるが一応、ラビスは王族である。護衛なしで町をうろつかせるはずがない。
やはり、店内のメイドは全員が護衛。店外にも三十人、春陽を敵と認識している人間がいる。
町全体では、百人が春陽を敵と認識している。
この百人全員がラビスの護衛とは限らないが、マークしておこう。
ラビスを敵と認識しているのは、何人いるのだろう?
「小さな声で、ぶつぶつ唱えていて不気味だぞ」
三十人、ラビスを敵と認識している人間が町の中にいる。そして、その中の五人は明確な殺意を持っている。
その人物が、ここに近づいて来る。
オムライスを持った、メイド服の店員が笑顔で近付いてくる。
オムライスをラビスの前に置き、懐からナイフを一瞬で取り出すのが見える。
春陽は、立ち上がり、メイドを魔法で拘束しようとした。その瞬間、店内にいたメイド全員が、スカートの中に隠していた剣を抜いて、春陽の首に刃を突きつける。
「ラビス、そのメイドは暗殺者です。ナイフに毒が塗ってあるはずです」
春陽が五人のメイドに剣を突き立てられた瞬間、ラビスを狙っていたメイドは自分の首をナイフで突く。
「ラビス。護衛のメイドを下がらせてください」
「メイド達は、私の護衛なのか?すぐに春陽を開放しろ」
ラビスが命じるとメイド達は剣を素早くガードルに装着した鞘に入れる。
「上位回復魔法」
春陽は、自害を試みたメイドに上位回復魔法をかけるが間に合わない。一瞬、痙攣した後にぐったりと倒れた。
春陽は、蘇生魔法は、まだ使えない。
春陽が使える最上級の回復魔法を再度、唱える。傷口はふさがったがメイドは息をしていない。春陽は、心臓マッサージをするが、顔から血色がなくなっていく。
春陽は、メイドが持っていたナイフに無毒化魔法をかける。
店内の騒動を聞きつけて、三人人の衛兵が店内に駆けつけてきた。
春陽は探知魔法を発動させている。春陽に敵意があるものを黄色、ラビスに敵意があるものを紫色、春陽に殺意があるものを黒色、ラビスに殺意があるものを赤色にして表示させる。脳内にレーダーのようなものが見える。
メイド達は、黄色である。春陽には敵意があるが、他のメイド達はラビスには殺意も敵意もない。衛兵は、黒色と赤色である。
「衛兵三人も暗殺者の仲間です。ラビスに近付けないでください」
春陽が叫び、メイド達がラビスの前に立ちふさがる。
メイド達と衛兵が同時に剣を抜き、戦闘状態に入った。
メイド達も戦闘訓練を受けているのだろう。ラビスは道楽であったとしても、A級冒険者、ラビスを狙うならそれなり以上の暗殺者を雇うはずである。
「麻痺魔法」
春陽は、メイド達と戦っている衛兵三人に麻痺魔法をかける。
怯んだ衛兵をメイドが切り殺そうとする。
「麻痺魔法」
メイド達にも麻痺魔法をかけ、すぐに全員に拘束魔法をかける。
店外にあと一人、暗殺者が残っている。
春陽の脳内の探知魔法に巨大な黒色と赤色の点が見えた。
点の大きさは、グレートベアよりはるかに大きい。
「魔法使い?」
春陽の脳内の殺意の点が大きくなる。
「我が身を守れ、防御魔法」
春陽が、巨大な防御魔法を店内にかけた瞬間、巨大な爆炎が店を燃やし尽くす。
町の重要区間、しかも領主のいる高級店に魔法が放たれたのだ。店外は大混乱である。
衛兵隊や守備兵に偽装していたラビスの警護隊が集まってくる。
春陽なら、ラビスを警備隊ごと、先ほどの爆炎魔法で暗殺するであろう。
数十人の警備兵を守るだけの防御魔法を使えるかどうかがわからない。ほとんどの魔法を初めて使うのだ。
敵意を持って春陽を取り囲む警備兵にラビスが叫ぶ。
「春陽は、召喚勇者だ」
警備達は、ラビスと春陽を守るように暗殺者の前に立ち塞がった。
守らなければいけない対象が増え、春陽には邪魔だった。
「また、暗殺者が魔法を使えば、警備兵を守り切れません。ラビス、私と一緒に逃げてください」
ラビスと春陽は、警備兵とメイドを残し、外に出る。
店が燃えている。
少し先に噴水と広場があった。
春陽は、ラビスを噴水まで走らせる。
「魔法が来ます。防御魔法」
春陽は、ラビスと自分に防御魔法をかける。
巨大な爆炎魔法で広場は、焼け尽くされた。
春陽の脳内の赤い点と黒い点が重なり合った巨大な点は、町から去っていく。
逃亡用の馬でも用意していたのだろうか。
春陽は、魔法を連続して使うことが出来る。大賢者だからだ。しかし、通常の魔法使いは、巨大な魔法を一、二回使えば魔力が枯渇するはずである。
そのことは、魔法書に書いてあった。同じことを教会長からも教えられた。
ラビスが、春陽を転生勇者と考えたのは、春陽の尽きることがない膨大な魔力と王家に伝わる転生勇者に対する知識からであろう。
紫色、すなわちラビスに敵意があるものが、町から去っていく。
いや、まだ五人がオルエドの町の中に残っている。
「ラビス様」
馬に乗って、四十歳くらいの筋肉質のイケメン騎士が広場にやって来た。
「ライアン」
ラビスがライアンと呼ばれた騎士に近付いていく。
「春陽。オルエドの領主代行のライアンだ」
春陽は、ラビスの手を掴み静止する。
「ラビス、私の魔法を信じますか?」
「ああ」
「その男も、ラビスに敵意を持っています。暗殺者の仲間です。拘束してください」
とっさのことに、呆気にとられた顔をしているラビスにライアンが切りかかろうと剣を抜いた。
「麻痺魔法」
ライアンの剣が、ラビスを斬りつける瞬間、春陽はライアンを麻痺させた。
オルエドの警備兵がやって来て、ライアンを縄で縛りつけた。
「自決しないように口に猿ぐつわをしてください」
春陽は警備兵にそう指示をした。
春陽は、ラビスと探知魔法でラビスに対して敵意がなかった警備兵を連れて、町に残った 残りの紫色の人物を拘束していく。
「その前に、町が大火事になっていますね。天の恵みのごとく災禍を取り除け、消火魔法」
春陽が、手をかざすとまだ燃えている店を水が包み込む。
火事が町中でなければ、「二酸化炭素を出して消した方が早いんだけどな」と思いながら、春陽は消 火を見届けラビスに切りかかった警備兵を縄で拘束させると、負傷したメイドさん達に上位回復魔法をかけて傷を直していく。
「ことごとく異常を消し去れ、状態回復魔法」
ラビスが不思議そうな顔をして尋ねた。
「春陽、毎回、魔法の呪文が違うのはなぜだ」
「ああ、それらしいことを言えば魔法になるみたいです。ウンコでも爆炎魔法になりますよ。やってみましょうか。巨大なウンコ」
ウンコと唱えると町の上空に巨大な炎の柱が浮かび上がる。
「お前なあ・・・」
呆れ顔のラビスを無視して、「ウンコ、ウンコ」と連発して空に爆炎魔法を放つとラビスから軽く殴られた。
春陽は、ラビスに頼んでオルエドの城門を閉じさせ、探知魔法でラビス暗殺の首謀者達を拘束していった。




