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4.人間の住む街

次回更新は、5月1日金曜日の予定です。

  魔王秘書官の春陽には、特に仕事はない。召喚した責任感からリズウェルが保護しているだけである。いわばリズウェルの義務感と言っても良い。

 

 春陽は、魔王城の図書室に籠ると資料を読み漁る。本条春陽の経験上、新しい仕事を覚えるのに準備期間は一、二ヶ月は必要である。担当する仕事が変わっても一、二ヶ月で、新しい仕事のために必要な法律や政策を覚えることが出来る。

 リズウェルの話から、この世界も並行世界も地球と極端に社会制度が異なっているとは思えない。

 そうであれば、この世界の法律や仕組みも一、二ヶ月程度で覚えることが出来るはずである。

 図書室には、リズウェルの侍女が食事を運んでくれた。侍女は、異様に胸がデカく、リズウェルほどではないが、露出の多い恰好をして、お尻から小さな尻尾が生えているように思えたが、春陽は読書に熱中していたので無視することにした。

 この世界では、朝晩の2食しか食事を取らない。リズウェル達は、人間と同じものを食べているようだったが、「人間を捕食しない」という保証はない。

 春陽自身が、魔王城の魔族の食事になる可能性もある。しかし、魔王城にいてもこの疑問は解消されないであろう。

 人間の世界に行かなければ、魔族のことはわからない。

 日に何度か、リズウェルが暇つぶしに図書室に様子を見に来た。

 「人間か、食べられないことはないぞ。お主は、食べられたいのか?」

 リズウェルが、真顔で春陽に告げる。

 図書室にあった人間の料理法というレシピ本を見つけた本条は、当事者の魔王リズウェルに人間を食べるのかと尋ねた。

 「冗談だぞ」

 少し怯えた顔を春陽がするとリズウェルが慌ててフォローする。

 「その本は禁書であろう。昔は、魔力を高めようと人間を食べようとする魔族もいたが、今は犯罪じゃからな」

 「安心しました。美少女ロリババアの養分になる気はないので」

 「お主、余は、人間を捕食できなくはないのだぞ」 

 

 リズウェルは、知性のある魔族は人間を食べないこと。人間も魔族を食べないと言った。

 リズウェル達、魔族から人間に攻撃を仕掛けることはない。人間も魔王領を攻撃しなければ、反撃されないので攻撃しない。

 この世界では、人間と魔族は、共存しているわけではないが、いつも戦っているわけではないという。

 その日は、午後にリズウェルが図書室にやってきた。リズウェルは、図書室に入ると春陽の横の椅子に黙って座っている。

 図書室には数万冊の本がある。魔王城の図書室は、魔王の許可がなければ入ることは出来ない。魔王城で働く魔導士や魔族達のための図書室や資料室は地下室にあった。魔王城の魔王用図書室は、魔王とその側近のために作られた特別な図書室である。

 魔王図書室の本の整理は文官の魔導士の仕事である。しかし、春陽が集中できるようにリズウェルは春陽以外の立ち入りを禁止した。春陽は、一人きりで本を読み続けていた。

 

 リズウェルは、たまにこの世界のことを話してくれた。かつて、魔王城には四天王や宰相がいたという。けれど、異世界から魔王の召喚をする必要があるくらいの人材不足である。 

この百年の間、リズウェルが一人で統治し、宰相補佐の魔族が宰相の代理を務めていた。

 「なぜ、人間と争うのですか?」

 「人間とは争っておらんぞ。我ら魔族は、神と勇者と争っておるのだ」

 春陽は、リズウェルの答えを聞くと、困惑する。

 「この世界の人間も、並行世界の人間も愚かではない。我々が人間を攻撃したり、人間を捕食していれば戦争になるであろうが・・・」

 リズウェルの説明を信じるとすると全ての元凶は神らしいのだ・・・。

 人間も魔族も学習する。そして、この世界でも棲み分けが成立しているのだという。

 人間も魔族も、体系は異なるが魔法が使える。魔王はかなり強い。強くなければ魔王になれない。人間の世界にはいくつかの国がある。魔族は、魔王領全土を統治する魔王がいる。

だが、人間には統一国家は存在しない。魔王領もいくつかの種族ごとの自治国や自治領があった。しかし、人間と魔族が戦っていた太古の時代に初代魔王が魔王領を統一した。

 魔王リズウェルは、初代魔王の子孫らしい。

 「世襲で魔王をやる必要は感じんがな」

 魔王リズウェルは、自分より強く優秀な魔族が出てこれば、魔王を退くつもりであるという。

 人間の方が、魔族よりも人口は多い。しかし、統一国家があるわけではない。 

人間の王も、人間の世界の領地を拡大したいと考える。しかし、歴史上、人間の世界が統一されたことは一度もないという。

 

 この世界の女神アレスを崇める宗教国家もあり、たまに魔王領に攻撃をしてくるが、他の国の王が従わないという。

 「他の並行世界も同じようなものじゃ。それじゃから、無知な勇者を地球から召喚して魔王討伐に向かわせのであろうな」

 人間の王も、無益な争いは好まない。魔王領を奪っても、使い道がないからである。しかし、この世界の神が定期的に勇者を召喚してくる。神意にそむき神と戦うのも面倒である。 

そこで、慣例的に勇者が召喚された時のみ魔王討伐軍が結成されるという。

 「ルーティン・ワークというやつじゃな」

 数百年前に先代の魔王は、女神が召喚した勇者によって討伐された。リズウェルの父親である。

 「人間を憎いとは思わないのですか?」

 「あちらにはあちらの事情があるからな。それに魔王は死なぬ。いずれ先代も復活する」

 「しかし、そうすると初代魔王はまだご健在なのでは?」

 「長く生きた魔王は、望めば冥界に行けるからな。初代魔王は、冥界で暮らしておるよ。余は冥界には行けぬから、父上に会ったことはないがな」

 死んだ魔族が暮らす冥界があるという。

 「そうですか」

 春陽は、少し寂しそうな横顔のリズウェルを見た。

 それから、春陽は一か月間、図書室で書物を読み漁った。

 図書室でこの世界の概略を学んだ。

 

 春陽は、リズウェルの魔王謁見の間に向かう。

 「リズウェル、人間世界を旅したいのですがダメですか」

 魔王リズウェルの側に控えていた宰相補佐が苦々しげに口を挟む。

 「春陽殿、貴殿は魔王様のご寵愛が深いからと言って増長しすぎですぞ。あなたは神に狙われているのです」

 「うむ。そうじゃぞ。危険ではないか?」

 心配そうな顔で、リズウェルが言った。

 「その心配はないと思います。もしも女神が、私を殺せば、邪神になってしまう。人間に私が魔王の仲間だと言って殺させる可能性もありますが、それをやったら神ではなく邪神になってしまう。この世界の神がどのような扱いを受けているかわかりませんが、私のいた世界と同じように神を人間が敬っているのなら、神として絶対に越えられない一線はあるはずです」

 春陽は、リズウェルにそう答えたが、ギリシア神話や北欧神話の神々は割とえげつないなと思った。そう言えば、エジプト神話の女神ハトホルも酒に酔って人間を大量虐殺したなと不安を覚えた。

 「わかった。魔王領の国境を越えたところに人間の王国がある。そこに行ってみるがよい」

 リズウェルは、旅費とこの世界の人間の服、そして、馬車を春陽に用意してくれた。

 

 国境までは三日、それから馬車で二日、そこに人間の住む町があった。

 リズウェルから貰った地図に沿って、春陽は馬車で街道を進んでいく。

 魔王領と人間の世界の境界線に獣人族が生活している集落がある。境界領というらしい獣人族達が住む境界領を越えると、人間の世界である。獣人は、魔族でもなく、人間でもない。亜人と呼ばれていた。

 亜人は、人間の世界で暮らすものも、魔王領で暮らす者もいた。人間の為政者も獣人が人間の世界で生活をすることを黙認していた。そこで、リズウェルは、魔王城に出入りしている犬の獣人族の商人のコルドに春陽の案内を頼んだ。魔王御用達商人である。

 「春陽様、あそこに見えるのが人間の町、オルエドです」

 「ありがとうございます」

 「オルエドは、獣人族にも寛容な町ですから、ご案内しますよ」

 途中の獣人族の集落、境界領では、人間も魔族も獣人も一緒に暮らしていた。人間語も魔族語も獣人語も、発音が多少違うことはあっても共通言語を使っている。

 なまりのように、同じ言語から派生した地方語があるが、人間も魔族も獣人達も同じ言葉を使っていた。

 魔王城の図書館で神話を読んだが、この世界には、言葉を与えた神がいない。人や魔物が創成された時から、言語を使っていた。

 魔物の拠点の魔王城に神典がある事にも驚いたが、相互理解のために人間の神典も収集しているのだという。

 

 春陽が、人間の世界、オルエドに来た目的は二つある。一つは、魔王城の資料が正しいのかを確認することである。春陽は、魔族に都合よく改竄された資料を読んでいた可能性もある。そして二つ目の目的は、リズウェルの話が本当なのかを人間の視点から確かめる必要があった。

 リズウェルも春陽に同行をしようとしたが宰相補佐が必死に止めた。春陽もリズウェルの同行は拒否した。

 

 リズウェルは、人間に化身できる。化身できるが、大賢者や大神官はリズウェルの正体を見破ることが出来るであろう。王都等にしか魔王の正体を見破れる人間は存在しないと言われたが、ロリババアとはいえ、春陽の面倒を見てくれた美少女魔王のリズウェルを危険にさらしたくなかったのである。



5.おっさん、ギルドで塩対応される

春陽がギルドに到着した。時間は18時ぐらいだろうか、受付嬢は帰り支度をはじめている。

 「あのギルドに登録したいのですが」

 「え?」

 春陽より少し若い受付嬢は、不信感にあふれた目で春陽を見る。

 20歳を過ぎてから、冒険者に登録する人間は、この世界では少ないのであろう。

 受付嬢は、それでも愛想笑いを浮かべると春陽に説明をしてくれた。地味な顔だが、美人である。


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