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15.おっさん、ワイバーンをリクルートする

 魔王領の立て直しを決意した春陽が最初に視察に訪れたのは、魔王リズウェルの直轄領である。リズウェルは春陽に過保護である。魔王リズウェルは、は、シャドーと呼ばれる影妖精の魔族を春陽の案内人につけてくれた。護衛は、春陽を魔王城に引き留めるための方便であったから、護衛はいない。魔王リズウェルも同行すると、ゴネにゴネた。そういうところが春陽には、可愛らしくも思えたが、

 「魔王が来たら、私が知りたい情報が手に入りません。我慢してくれませんか」

 春陽が頭を下げて頼むと、

 「すぐに帰って来るのじゃ」

とリズウェルは魔王城で留守番をすることに納得してくれた。

 影妖精のシャドーは、男女の性別がわからない。文字通り影の妖精である。透き通る声、中世的な容姿、なんとなく女性のような気もするが、影妖精に性別はないらしい。

 魔王直轄領では、農作物を育てていた。魔族は狩猟民族なので、牧畜の習慣がないという。

 シャドーは、宰相補佐の部下である。魔導士とはまた異なる存在らしい。春陽は、視察の最中、シャドーを質問攻めにする。

 魔王城で働いているのは、数百人程度の魔族だという。30人の魔族の行政官。そして、魔王リズウェルが保護している淫魔族、いわゆる大半がサキュバスとインキュバスの執事、侍女達である。魔族が不足しているとはいえ、魔王城にしては雇用人員が少なすぎないか?

 「魔族の代わりに獣人族を雇うことは、出来ないのですか?」

 「春陽様、魔族は力が全ての生き物です。自分より弱い生き物の言うことを聞きません・・・」

 春陽は頭を抱えて、唸る。

 「それ矛盾していませんかね?。魔族は行政官個人の命令ではなく、魔王リズウェルを通しての命令でも逆らうのですか?」

 シャドーは、春陽の問いかけに答えることは出来なかった。

 そんなやり取りをしながら、春陽は、探知魔法サーチで一角ウサギを見つける。一角ウサギだけでなく、食用になる魔獣達を麻痺魔法パラライズで捕獲していく。

 「麻痺魔法パラライズ麻痺魔法パラライズ

 「春陽様、楽しそうですね・・・」

 麻痺魔法パラライズの連続詠唱を笑みを浮かべながら連呼し、一角ウサギを狩りつくす春陽に、シャドーが若干、ドン引きをしている。春陽も感覚がマヒして来ているのかもしれない。

 春陽は、それから、魔王領の農地を見て回った。農作業は魔族が鍬やスキで耕していた。

原始的というか、普通に仕事をしている。魔族達が、作っているのは麦や大豆のような作物である。

 「農業高校出身じゃないからな・・・」

 人事院と総務省の国家公務員合同研修で、農林水産省の技術官僚と農業の世間話をしたことがある。官僚の殿様研修と揶揄される地方視察で農業を体験したことはある。しかし、春陽は農作物を一から育てたことはない。二毛作や連作障害、世界史や公務員試験程度の一般常識ならあるが、どこまで異世界で通用するのだろうか。そもそも、地球の土と同じ組成なのか?

 春陽は、農地に行くと、魔導士に教えて貰ったゴーレムの作り方で人間サイズの作業用ゴーレムを一体作った。

 「人型でしたら、私も作れますよ」

 案内人のシャドーも作業用ゴーレムを土をこねて作ってくれた。春陽が作ったゴーレムよりも、パワーは弱く、小さめだったが、それでも農作業をするくらいであれば支障がないように思えた。

 春陽は、作業用ゴーレムに農作業を手伝わせることにした。だが、この広大な農地を耕すのにどれくらいのゴーレムが必要なのだろうか。

 視察先の広い農地には一人、二人の魔族がいる。どう考えても、魔族一人当たりが耕す畑が広すぎるのだ。

 数十ヘクタールの農地を十人前後の魔族で耕している。東京ドームが確か四.七ヘクタールである。東京ドーム最寄りの後楽園駅を乗り換えでしか利用しない春陽には、東京ドームの大きさで説明されても実感がわきづらかった。春陽は数回しか、東京ドーム全体を歩いたことはない。それでも、東京ドームが広いことだけはわかった。

 魔族は、生産効率が悪すぎるのだ。魔族一人で東京ドームと同じ面積を耕している。

 魔王領には、土地はある。土地はあっても、農作物を作る魔族が少ない。

 「ゴーレムって、人型じゃなくても作れますよね?」

 案内人のシャドーに確認をすると、春陽は、耕作機型のゴーレムを作ることにした。

 ごくごく典型的なキャリア官僚の春陽には、ウイキペディアのように網羅的な知識はある。広く浅く、知識がある。それが、典型的な日本の官僚である。確か、耕作機はこんな構造で形だったなと、耕作機をイメージしたゴーレムを創造クリエイトする。

 想像することが、魔法の基本である。想像イメージし、創造クリエイトするのだ。

 「耕す部分は、金属にしないと無理か・・・」

 春陽は、紙にメモをする。紙は高級品である。羊皮紙は、書きづらい。リズウェルから記録用に、紙の束を貰ってきたが、金貨数十枚するという。紙も量産化が出来れば、産業になるなと、高級紙にメモをした。

 「耕作機型のゴーレム。耕作の自動化」

 いや、待てよ。この状態は、アメリカやオーストラリアみたいなものだよな。

 「シャドー。魔王領にワイバーン部隊みたいなのはいますか?」

 春陽はシャドーに、確認をする。

 「ワイバーンですか?魔物ですね。ワイバーンを飼いならしている魔族もいると思いますが・・・」

 「ワイバーン部隊で大規模農業の実施」

 春陽は視察メモに書き加える。

 

 数日かけて、魔王直轄領を視察すると春陽は魔王城に戻る。

 「ワイバーンか・・・。難しいな」

 執務室で、春陽から、ワイバーンの農業利用を伝えられたリズウェルは、顔をしかめる。

 「ワイバーン部隊は、プライドが高い。戦闘部隊じゃ。空から麦や大豆のタネをまくとは思えん」

 「ガルゴ将軍ですか・・・。リザードマンのガルゴ将軍がワイバーンを率いておりますが、戦闘以外の動員は拒否するのではないかと・・・。一応、魔王城に来るように連絡をしてみますが」

 同席をしていた宰相補佐が、ガルゴ将軍に魔王城への召喚命令状を送ってくれた。

 翌日の午後、リザードマンのガルゴ将軍が魔王城にやってきた。ガルゴ将軍はデカい。

 二メートル前後の巨大な二本足歩行の、緑色のマッチョなトカゲである。だが、顔はイケメンだった。ハンサムなトカゲというのもシュールである。

 「飛龍部隊に農作業をさせる。さすがに魔王様のご命令でも無理でございます」

 「そうじゃよな。余もそう思う。呼び出して、悪かったな」

 「ガルゴ将軍。ワイバーンと直接、交渉をさせて貰えませんか。それで無理なら自前でワイバーン部隊を作りますから」

 春陽が提案する。ガルゴは、春陽を一瞥すると鼻で笑う。

 「魔王様の御客人の異世界人の人間ですか。ワイバーンと話せるのでしたら、ご自由にどうぞ」

 魔王城の庭には、ガルゴが乗って来たワイバーンがいる。

 春陽は、ガルゴやリズウェル達とワイバーンの前に行く。

 「私の言葉がわかりますか?」

 「人間か。わかるぞ」

 「あなたがワイバーン部隊の長ですか?」

 「違う。長は、兄だ」

 「そうですか。お兄さんと話をさせてください。ワイバーンの皆さんには、魔族のために農作業を手伝って貰いたいのです。そのかわりに、対価として、皆さんの好きなものを好きなだけ食べさせます。魔族や人間、獣人は無理ですが、家畜や魔獣なら必ず用意します」

 ガルゴ将軍が驚く。

 「春陽殿、貴殿はワイバーンと意思疎通ができるのか?」

 「大変、不本意なことではありますが、魔王と大賢者の適正持ちですから・・・話せますよ。ワイバーン部隊に農作業を強制する気はありません。交渉が決裂したら、同じ条件で新しくワイバーンを集めて農作業をやらせます」

 「うむ、族長である兄に相談してみよう」

 ワイバーンの話を要約して、ガルゴ将軍に伝えた。

 ガルゴ将軍は考えさせて欲しいとその日は、ワイバーンを連れて帰って行った。

 

 翌日、ガルゴが二頭のワイバーンを連れて戻って来た。昨日も魔王城にやってきたワイバーンの族長の弟とワイバーンの族長である。族長と弟の二頭のワイバーンは二十頭のワイバーン部隊を率いてきた。ワイバーンの声は、意外にも可愛らしい。甲高い声で、ピーとさえずるのである。

 「ワイバーンの族長である。貴殿が我らと話が出来る人間か。弟から話を聞いた。貴殿の提案は、断る。いや、我らが農作業をするのは構わないのだ。だが、我々は戦闘部隊。農作業に戦闘用のワイバーンを使えば、魔王領の戦力が落ちるのだ。それよりもワイバーン部隊が協力するゆえ、農作業用のワイバーンを捕獲すると良い」

 「わかりました。ありがとうございます」

 「春陽殿、ワイバーンと話はついたのか?」

 「はい。新たにワイバーンを捕獲することに協力してくれることになりました」

 ワイバーンの族長が頷く。

 「うむ、弟を残していこう」

 こうして、魔王城に二十頭のワイバーン部隊と族長の弟が残ることになった。

 春陽が、ワイバーンと話が出来るとわかってから、ガルゴ将軍が協力的になった。

 ガルゴ将軍は、ワイバーンと話せないらしい。それで、ワイバーン部隊を率いてきたのだ。なかなかに立派なリザードマンではないか。

 野生のワイバーン捕獲のために、配下のワイバーン部隊を春陽に貸してくれることになった。

 ガルゴ将軍は、ワイバーンの族長に乗ると帰って行った。

 「そうだ。皆さんは、食事は、どうされますか?」

 「我々の食事ですか。いつもは、狩りで捕獲するのですが・・・」

 「それなら、捕まえに行きましょう」

 春陽は、ワイバーンにまたがる。

 「春陽殿、ゆっくり飛びますが、念のために命綱をつけてください」

 ワイバーンの指示通りに、春陽は族長の弟に命綱をつけて乗った。そして、二十頭のワイバーンを率いると空に飛び立った。

 「何を狩りますか。ちなみに一角ウサギはあの山にいますよ」

 「一角ウサギ、それは御馳走ですな」

 上空から、一角ウサギの群れが探知魔法サーチに引っかかった。一角ウサギに麻痺魔法パラライズを春陽はかけまくる。

 「一角ウサギはどれくらい必要ですか。お一人あたり、十羽でいいですか?」

ワイバーンが地上に近付くと、浮遊魔法フライで一角ウサギ引き寄せ、ワイバーンの身体に吊るしていく。

 魔王城の上空に来ると、ワイバーンが尋ねた。

 「一角ウサギの数が多いですな。ワイバーンは見た目に反して、実は小食でしてな。一頭あたり、一、二羽いただければ十分なのです」

 「では、残りは、一角ウサギの牧場で育てましょう」

 「牧場ですか?」

 春陽は、魔導士に作らせた作業用ゴーレム達に柵を作らせると、ワイバーンが食べ残した一角ウサギを飼育することにした。

 探知魔法サーチで青く光ったのが雄、赤く光ったのが雌であろう。一角ウサギが繁殖する速度は早い。魔物は魔力を与えれば、活発に繁殖していくと魔導士が言っていた。

まずは食事だ。作業用ゴーレム達にさらに巨大な柵を作るように指示をする。それから、一角ウサギを炎魔法ファイアで焼いて、族長の弟のワイバーンに味見をさせる。

 「美味ですな」

 部下のワイバーン二十頭にも一角ウサギを丸焼きにして提供する。

 春陽の空中浮遊魔法フライで、捕獲した一角ウサギを魔王城近くの牧場まで運ぶと炎魔法ファイアで痺れた状態の一角ウサギを焼き上げる。

 六十羽の一角ウサギが空中に浮かんだまま、調理されている。

 魔王城から、広場の様子を見ていたリズウェルが呟いた。

 「地獄絵図じゃな」

 春陽は、香ばしく焼きあがった一角ウサギをワイバーン一頭につき三羽ずつ支給した。

 それから、数えてみると食べ残しの一角ウサギは四十羽いた。春陽は、雄雌二十羽ずつを牧場に放す。

 春陽は、新しく作った牧場で飛び回っている一角ウサギに魔力を与えた。一角ウサギ達は、嬉しそうに飛び跳ねている。

 「危ない薬でも与えておるようにしか見えんな」

 魔王城から、牧場まで様子を見に来たリズウェルが苦笑した。

 「人聞きの悪い。しばらく様子を見てみましょう」

 そこに、魔導士がやって来る。

 「春陽様。ワイバーン用の住居はご指示通りに作らせました」

 作業用ゴーレム達に作らせた巨大なログハウスが魔王城の外に作られていた。

 春陽は、ワイバーンの族長の弟、この群れのリーダーに確認をする。

 「住処は、こういう感じでよろしいですか?」

 「上々ですな」

 「では、明日は野良ワイバーンをリクルートにいきましょう」

 ログハウス前で、ワイバーン達と別れると、春陽はリズウェルと魔王城に入って行く。


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