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12.魔王リズウェル、精神汚染される

 「魔王領では、魔王様には状態異常魔法ラブ・アタックを魔族がかけることが出来ません。勇者や大賢者でも、状態異常耐性がある魔王様に状態異常魔法ラブ・アタック

をかけることは出来ません」

 「他の魔族の状態異常はどうやって治すんですか?」

 「『偉大なる魔王の名の元に状態異常を治せ。リズウェル』でございます」

 リズウェルの名前そのものが状態異常を治す呪文なのか。

 「偉大なる魔王の名の元に状態異常を治せ。リズウェル」

 リズウェルの目は相変わらず虚ろである。

 「偉大なる魔王の名の元に状態異常を治せ。リズウェル」

 リズウェルは目が虚ろなまま、春陽を見つめている。

 「全員、部屋から出てください」

 「春陽、新魔王万歳」と呟く魔導士や宰相補佐を部屋から追い出すと春陽はため息をつく。


 「状態異常を治せ、春陽の名の元に」

 淡い光がリズウェルを包み込む。

 顔を真っ赤にしたリズウェルが言った。魔法をかけられていた時の記憶はおぼろげながらあるようである。

 「これからどうするのじゃ、春陽よ。余は魔王を替わってもよいぞ。何なら余と結婚するか?」

 「これ以上、話をややこしくするのはやめましょう。私は魔法を使えるだけで、戦闘力は人間並みのはずです。魔王になっても、他の魔族に殺される危険性があります」

 「余が守ってやるぞ」

 「本末転倒です。魔王領の役職はなしの方が良いでしょう。玉座の間に集まっていた魔族達には、忘れて貰いましょう」


 「余は春陽と結婚しても良いのじゃが・・・」

 リズウェルは宰相補佐を通じて、「忘れるのじゃ」と書いた勅書を発行した。

 リズウェルは、先代の一人娘、初代魔王の子孫というだけでなく、実力制魔王としても魔王領最強らしく、誰も逆らうものはいなかった。

 「実力制魔王?」

 「うむ。誰でも魔王に挑む権利があるのじゃ。四天王や宰相も余が返り討ちにして、任命した者達じゃな」

 「相変わらずの謎の脳筋ルールですね。その四天王達は?」

 「老衰で死んだ者もいれば、人間との戦いで敗れ去ったものもいるな」

 魔王は不死である。そのため、時間の感覚が人間よりも悠長なのだ。先代の魔王が死んだあと、人間達は簡単な銃火器や集団戦の戦略を発達させた。

 魔王感覚の数百年は、人間の数週間である。しかし、数百年の間に人間の武器や魔法、戦術が進化した。

 美少女ロリ魔王リズウェルは強い。リズウェルを倒すには、異世界から召喚した勇者が必要なのであろう。


 とはいえ、数十名から数百名のA級冒険者を軍が支援して攻撃すれば、四天王クラスであれば勝てるのだ。

 現在の空位の幹部達は、百年前、教皇が率いる魔王討伐軍によって殺されたのである。


 聖戦は、魔王領に打撃を与えたが、人間達にも大きな打撃を与えた。元々、領土拡張戦争を続けていた人間達は、魔王領侵攻に成功した後、仲間割れをはじめた。

 人間の世界の領土は、土地が余っていた。そのため、魔王領を占領したとしても、占領地に入植する人間がいない。そして、教皇が死ぬと聖戦は自然消滅した。よくある話である。

 その後、魔王領に再侵攻が行われなかったのは、人間達にも魔王領を占領するメリットがなかったからである。

 それは、他の並行世界でも同じであった。だから、どの並行世界でも神はよそ者の事情がよくわかっていない地球人の召喚勇者に魔王を討伐させるのだ。

 「リズウェル。四天王に昇進できそうな魔族はいますか?」

 「いないな。強い魔族は聖戦で討伐されてしまったのじゃ」

 「それなら、四天王の養成所を作りましょう」

 「四天王の養成所?。四天王を鍛える的な訓練所か。無意味じゃぞ」

 「なぜですか?」

 「強い魔族は育つのに時間がかかるのじゃ。百年、二百年の長い月日をかけなければ四天王クラスの魔族は成人せぬのだ」

 「子供の魔族ならいるんでしょう?」

 「少しならな」

 春陽は、魔王領の防衛のために思いついたことがあった。

 魔王城に勤務する魔導士を集めると百名以上いた。この国のインテリ階級は、魔王城で働いているのだろう。

 春陽は、魔導士達に魔王城の広場に、土や粘土を運ばせる。

 

 魔導士達は、器用に魔法を使って運んでくる。魔導士達は、ローブで顔を隠しているが、身長の高さが異なる。一メートルの魔導士もいれば、数メートルの魔導士もいる。魔力に秀でているものを魔王城で雇用しているのであろう。


 「春陽、何をする気じゃ?」

 リズウェルは、洗脳魔法ラブ・アタックが解除された後も、四六時中、ストーカーのように春陽に付きまとっていた。

 「ゴーレムの材料です」

 リズウェルは、呆れた顔で春陽を見る。

 「春陽よ。ゴーレムは勇者の神聖魔法で簡単に破壊できるのだぞ」

 「勇者は、ゴーレムを破壊する神聖魔法を百回、二百回も連続で使えますか?勇者は、そこまで規格外な存在なのですか」

 「いや、魔力が無限大の勇者などおるまい。春陽が異常なだけじゃ」

 「だったら、材料や魔法、術者をバラバラにしてゴーレムを作ればいい。百体、二百体、一千体のゴーレムを勇者様ご一行は破壊できますか?ゴーレムには火の属性、氷の属性、土の属性、木の属性、金属の属性があります。魔法は火、水、土、風、闇の系統がありますよね」

 「系統を無視して魔法を覚えられるのは、賢者、大神官、勇者、魔王だけじゃ」

 「ゴーレムは土のゴーレム、火のゴーレム、金属のゴーレム、氷や水のゴーレム、系統が違うゴーレムのチームで行動させます。そして、大賢者である私と魔王であるリズウェルが魔導士の魔法を上書きします。そうすれば系統を無視した魔法の上書きが理論上は出来るはずです。理論上ですが・・・」

 「じゃが、術者である余を倒せば、ゴーレムは弱体化するぞ」

 「それでも、超強力なゴーレムが、普通のゴーレムになるだけですよね」

 「普通のゴーレムでも普通の人間相手なら十人ぐらいと戦えます。一万体のゴーレムは十万人の人間の兵士の相手をすることが出来ます。聖戦で攻めてきたのは何万人ですか?」

 「二十万人じゃな。もっとも、内輪もめで半年後には五万人になったが・・・」

 「一体のゴーレムを作るのに必要な時間は、どれくらいですか?」

 春陽は、春陽の側にいた魔導士に尋ねる。

 「材料をゴーレム達に用意させるとしても、中心となる魔核は魔導士一人が一日、一個か二個作るのが限界かと・・・。魔核を作るのに膨大な魔力を消費しますから・・・」

 「そうですか。とりあえず、作ってみましょう」

 魔導士達は、魔王城の作業用のゴーレムを使って、土や粘土、金属を数メートルの人の形に加工していく。加工が終わると、魔導士達は、祈り始めた。

数時間後、五種類のゴーレムが二十体ずつ誕生した。

魔導士達は回復のため、サキュバス侍女達が用意した椅子に座っている。

 「リズウェル」

 春陽はリズウェルの手を引っ張るとゴーレムに近付いていく。春陽が手を繋ぐと、リズウェルは頬を染める。

 「リズウェルの好きという感情は、洗脳魔法ラブ・アタックの副作用です」

 「春陽は、余のことが嫌いか?」

 「好きですよ。好きですが、リズウェルの恋愛感情は魔法による一種の呪いなんです」

 「春陽が余のことを嫌いではないのなら、結婚をしても良いのじゃが・・・」

 「魔法が完全に解除されれば、その感情は変わりますよ。さあ、ゴーレムに魔法の上書き」

 リズウェルは不服そうに、頬を膨らませながらも、 

 「ああ、上書きの強化魔法じゃな」

 「魔力強化ロード・エナジー。魔王の盾となれ。リズウェル」

 リズウェルは、一体、一体のゴーレムに強化魔法をかけ、パワーアップさせていく。

 二十体目のゴーレムでリズウェルは座り込む。

 「休憩じゃ。余でも二十体が限度じゃぞ」 

 サキュバス侍女達がリズウェルを、豪奢な椅子に座らせた。

 「お疲れ様です。交替しましょう」

 春陽は、リズウェルが強化したゴーレムに手をかざす。

 「魔力強化ロード・エナジー。理不尽なるものの盾となれ」

 「春陽よ。お主の名前を唱えねば、二重強化にはならぬぞ」

 「仕方ない。二重強化。倍する力となれ。春陽の名の元に」

 春陽は、残りのゴーレム達を見た。

 「まとめてやれるんじゃないかな?ゴーレム・チーム集合」

 春陽の周りにわらわらと集まって来たゴーレムに向かって唱える。

 「魔力強化ロード・エナジー。倍する力となって理不尽なるものより守る盾となれ。春陽の名の元に」

 春陽は、強化された土のゴーレムの肩に座る。

 「ちょっと、怖いですね。やめましょう」

 春陽は広場で休息している魔導士に声をかける。

 「お疲れのところ、申し訳ないです。集まって貰えますか?サキュバス侍女の皆さん達は、魔導士の皆さんに肩を貸してあげてください」

 疲労困憊した魔導士達がヨロヨロと集まってくる。

 「魔力回復エナジー・リゲイン。春陽の名の元に」

 魔導士達が驚いた顔で、春陽を見る。

 「春陽よ。余にもその魔法をかけてくれるか?」

 座っているリズウェルに、春陽は片手をかざす。

 「魔力回復エナジー・リゲイン

 「なぜ、春陽の名前を唱えぬのじゃ・・・。手抜きじゃぞ」

 「恥ずかしいですよ」

 「春陽が恥ずかしがって、術者の名を唱えるから、全回復ではなく、半回復かしておらぬ」

 春陽は渋々、呪文を唱える。

 「魔王リズウェルの魔力を疾く回復せよ。春陽の名の元に。魔力回復エナジー・リゲイン

 「春陽よ。この魔力回復魔法エナジー・リゲイン、並行世界の魔王でも使えるものはいないのではないか」


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