060
境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
杜人イズミ 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
黒式団
ワイアール 男性 40代 アラブ系
サイモン 男性 30代
ビブロス 女性 愛称ミリー
ザラブ
ベル 女性 20代 海洋学者
メイツ 女性 日本人
ナックル 男性 若造
夕食、入浴も済ませてあとは明日に備えて寝るだけ。
夜も更け旧家然とした橘家の庭に
あまりに似合わないキッチンカー。
ホクトは月明りを頼りにキッチンカーに乗り込み
明日のシミュレーションを繰り返す。
「もう寝ないと。不安?」
橘ユイがそれに気付いたのは
モッツァレラチーズとオリーブオイルが
明日の朝届くのをホクトに伝えようと客間を訪れたからだ。
「不安です。お金をもらうからにはちゃんとしないと。」
「練習たくさんしたって聞いたよ。大丈夫。」
「キッチンカーでは実際焼いてません。」
材料が揃わず試食もしていない。
「明日の朝一で届けるって。」
ここまで拘る必要があったのだろうか。
天城マヤは「いつでも作れる」売り物としてのピザを目指していた。
今回のこれは何もかもが特別た。
「何もかも特別にしたのはね」
「野咲先生と一緒に考えて決めたの。」
「マヤちゃんの悩みを先生から聞いて」
「普通に作るだけでは解消されないって。」
「答えはホクト君も言ったでしょ。」
答え?
「状況が特別だった。」
消防隊員に振舞ったピザは材料も焼き方も特別ではない。
特別だったのはその状況。
「それならもっと特別にしてやろうって。」
「こだわれるだけこだわって、徹底的にね。」
ここまで言って、橘ユイは深呼吸して
「ごめんなさい。」
「ホクト君には先に言うべきでした。」
頭を下げた橘ユイに呆気にとられていたが
「それは無理ですよ。」
天城マヤはずっと隣でメモを取っていた。
本人の目の前で語ったところで
理解も納得も得られないだろう。
「明日は朝からチーズの準備とかあるから」
「今日はもう寝なさい。」
橘ユイに促され家に入ろうとしたが
橘ユイの妹がチーズを携え現れ
小分け作業に追われ結局夜更かしをする。
そして当日、早朝。
朝5時にモッツァレラチーズとオリーブオイルが届く。
「私はひと眠りしてか祭りに行く。」
届けた本人はとっとと帰ってしまうが
ホクトと寝ぼけ眼で起き出したマヤとでチーズを小分けにする。
7時過ぎに射的屋が相変わらずの恰好で現れ
キッチンカーを神社から下った公園まで運び
駐車場内での販売かと思っていると
「特別に許可を取って公園内に置ける。」
「結果的に駐車場から最前列で特等席だ。」
「さて火を入れるか。温度を見て薪を調整してくれ。」
石窯を扱った事のあるホクトに任せ
本人は自身の運営する屋台の設営。
予熱の間、ホクトとマヤは改めて作業の流れを確認。
「分担は明確にしましょう。」
狭い作業場所。火も包丁も使う。
「支度は全部任せます。」
マヤは生地を広げ、ソースを塗り、チーズを乗せる。
ホクトはそれを焼き、取り出し、切り分ける。
助っ人にはそれを包んで提供と会計。
「その助っ人は?」
「営業開始には来てくれる。でしょう。」
8時になり、9時になり
石窯の温度も上がり
「このまま400から500度をキープ。」
「火加減の調整はこのペレットを使います。」
ホクトはピザピールを調理台に置き
「早速作ってみましょう。」
「はいっ。」
マヤがピザ生地を乗せ、形を整える。
トマトソースを塗り、チーズを乗せる。
ホクトがそれを石窯へ。
いくつかある砂時計を一つ返す。
「この間にマヤさんは次のピザを用意してください。」
ホクトは時折ピザを回転させ
砂が降りきるのを見て石窯から取り出す。
調理台の上に置き、オイルをかけ、
仕上げにバジルを散らす。
ホクトがナイフで半分の半分。
「朝食、いや試食しましょう。」
厳選された食材。
遅めの朝食。
初めてのキッチンカー。
調理に携わった実感。
これから同じものを他人に売る緊張感。
他にもあったのかもしれない。
もしかしたらそのどれも必要なかったのかもしれない。
天城マヤはこのピザの味を生涯忘れない。
ホクトはもっと冷静に
これならお金を払う価値はあるかなと味を分析。
美味しくないわけはない。
ただそれでも橘ユイの言う「特別感」は
天城マヤにだけではなく
お祭りの屋台を巡る人全員が少なからず抱くはずだ。
「美味しいピザが食べたいなら専門店へ行け」
などと言うつもりはないし
「専門店よりも美味しいピザ」
などと適当な事を言うつもりもない。
これならまあ、クレームは出ないかな。程度には仕上がった。




