031
境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
学校所有の10人乗りワゴンが「湯の星」駐車場に到着。
祖母がそれをホクトとミナミに知らせ見送る。
ミナミがドアを開け乗り込むと
「サクラちゃんいないんだ。」
「藤家は全員でお出かけ。」
霧山アンが答える。
「まあそのお陰で車移動になったんだけど。」
今回の引率は相原リョウコ一人。
全員揃うと1台では乗り切れない。
その後ろからホクトが乗り込む。
霧山ユリの姿も見えない。と思ったが助手席にいて
引率の相原リョウコと打ち合わせをしている。
「最初はハヤタ農園で。」
「じゃあ林道通って行きましょう。」
麓からは山の登り口で温泉街ともう一方に分かれている。
そこまで戻るよりは学校脇の林道を通る方が早い。
木々に挟まれた道は何度か蛇行し開けた場所へ出る。
ホクトの感想は
山里と表現する以外の言葉が判らないほどの「これぞ田舎」。
田畑と点々する民家とビニルハウス。
畦道、用水路、軽トラ、農業用トラクター、麦藁帽子。
木造の大きな古い家の広い庭に車を止めると
玄関から男性が大きな犬を引き連れ現れる。
子供達が車から降りて担任が並ばせるのを待って
「ハヤタ農園のハヤタです。62歳です。」
「本日は社会科見学名目の強制労働お疲れ様です。」
子供達に悪意を込めた皮肉を言って笑わせようとしたが
全く耳に届いていないのはお腹を向けて寝転がる大きな犬を撫でまわしていたから
水田に連行された一同。
「もうすぐ穂がでます。」
「で、今の内に稲以外の草を退治したい。」
ハヤタ氏が水田に入り、水の中に手を入れる。
稲と稲の間から草を抜き取り
「クワイとかヒエとかありますが、まあ稲以外は抜いちゃって。」
ジャージか汚れてもいい服装と言われた理由が判った。
「体験したい人。」
ハヤタ氏が挙手を求めるが広い田んぼを目にして子供達は怯む。
その中ミナミが挙手したので全員驚くのだが
「私撮影担当なので。」
結局霧山ユリとホクトの中学生2人が指名され
2人は裾を膝までまくり上げて水田に入り
手を突っ込み手探りで雑草を抜く。
「じゃあこの一列やってみようか。」
指差す田んぼの先ははるか遠く。
「イヤイヤまさか。機械的な道具とかありますよね。」
霧山ユリの質問に
「あるけとー。まずは手作業でしょ?」
「軽トラに何やら積んでいたの見ましたから。」
ハヤタ氏は渋々軽トラから除草機を降ろす。
稲株を挟むようにスコップ的な板があり、
その後方に巻き取る用のローラー状の刃。
「あるじゃあないですか。」
「あるけどー。農家さんの大変さをね。」
「今回そーゆーのは求めてないので。」
ハヤタ氏とユリのやり取りの間、
ホクトは隣の水田に入り手を突っ込む。
少しまさぐり手を上げるが何も持っていない。
ユリがハヤタ氏から除草機の使い方を聞いている最中、
「あのー、質問いいですか?」
「なんでしょう。」
ニコニコするハヤタ氏にホクトは悪意なく
「どうしてこっちは除草剤を使わないのですか?」
「言っちゃうの?それ言っちゃうの?」
畑では夏野菜の収穫に追われる。
「普段はもっと早い時間に収穫します。」
「すぐに暑くなるのでうんざりしますからね。」
敷地内の納屋に案内され
「収穫した野菜は納屋で選別と洗浄、出荷の準備。」
納屋にはたたまれた段ボール。
ミナミは首から下げた大きなカメラを使って撮影を続ける。
ユリがそれを見て
「建物全体と、あと地形も撮っておいて。」
「チケイ?」
「風景。一周ぐるっと。」
意図は判らないがまあいいか。
「で?どうする?野菜の収穫は?」
すっかり不貞腐れる大人気ないハヤタ氏。
それを「大人気ない」と本人に言い放つ霧山ユリ。
妹霧山アンが慌て
「どうして野菜は朝に収穫するのですか?」
ハヤタ氏はニヤリと笑い
「良い質問です。」
「実は全ての野菜を朝採りするわけではありません。」
「果菜類、葉菜類によって時間帯を変えています。」
「果菜類、実を食べる野菜は朝」
「葉菜類、葉っぱを食べる野菜は夕方」
「それぞれの野菜に適した収穫時間があります。」
「科学的な根拠はなんやかんやありますが」
「食べて美味しい瞬間に収穫してあげないと」
「野菜が可哀想ですからね。」
などと、もっともらしい事を言って子供達を感心させてから
「とは言っても、野菜は収穫した瞬間から鮮度が落ちる。」
「いちばん美味しいのは収穫直後だと知れ。」
「さあ子供達よ。野菜を狩るのだ。」
トマトとキュウリを収穫し洗って食べる子供達。
射手ヒロはトマトをじっと見つめてからハヤタ氏に質問する。
「あの、収穫された野菜はすぐに売りに出されるのですか?」
ハヤタは「うーん」と唸ってから
「採れた場所と売る場所によるけど」
「一般的なスーパーだと収穫の翌日か翌々日になるね。」
「そうですか。」
トマトを見ながら肩を落とすヒロに
「安心しなさい。」
「テングランドにはその日に収穫した野菜を届けている。」




