継承の条件
「え、ザキさんブチギレ案件ですか?」
後部座席から通話するアマネの声は車内の空気を一段は重くし緊張により張りつめさせていた。
その場にアンリもサラもいない状況であっても2人のやり方を見知った者は恐ろしい前触れと理解しているからだ。
「えぇ、えぇ、了解です。石田さんは怪我とか無いですよね?ね?」
「〜〜〜。」
「あぁ、良かった。そりゃザキさんも八つ当たりはしないか。」
「〜〜〜。」
「あ、そうなんですね。はぁ、了解です。ザキさんからお金も受け取り人員増やせる目処もついたので縄張り管理は任せて下さい。」
数度の会話のラリーを終えたアマネは通話を終え、ルームミラー越し目が合った運転席の部下に会釈をする。
「うるさくしてごめんね。」
「あ、いえ、全然・・・あの、自分が聞いて良い内容でした?」
「ん〜〜まぁ大丈夫でしょ。貴方が口外しなければね。」
乾いた笑いの部下からミラー越しの視線を切ったアマネは車窓に通り過ぎる街並みを目で追いながら思う。
あの穏やかで余裕を失わないザキさんがキレるのは想像出来ないなぁ。
何か問題が生じても直ぐに対策や改善を指示出来るあの人が本気になるのは・・・。
過去に知り合ったラズとカイネの会話を思い返し、あ、と声を漏らしたアマネは口元を手で覆う。
ザキさんはサラさん以外を知人、他人問わず消費して良い人的資源と捉えているって言っていた。であるなら、今一番キレてるのはサラさん?
サラさんが望むからザキさんが動き出す事にしたって事は・・・これは止まらないか。
「少しマズイ事になりそうなのでボスに会います。いつものコンビニで降ろして下さい。」
「わ、わかりました。」
縄張りの管理を任されている以上、早めに情報収集と方針確認をした方が良いと判断したアマネはアンリへ訪問の連絡と滞在しているセーフハウスの確認をする。
カタカタとキーボードを叩き仕事を進めていたアンリはドアをノックする音に顔を上げた。
ガレージ付きのセーフハウスの2階にて作業の一区切りを終えたタイミングでゆっくりと立ち上がりながら入室を促す言葉を作る。
「どうぞ。」
「失礼します。」
会釈と共に扉を開けたアマネを確認したアンリはソファを一瞥するが、うたた寝をしているサラの姿を見てテーブルへ促した。
「こちらですまないね。TVを観ながら寝るなって言っているんだが・・・。」
「いえいえそんな、急な来訪でしたし私はなにも。」
「ありがとう。話があるって事だけど長くなるなら何か飲むかい?」
椅子を引く動作で恐縮するアマネを座らせたアンリがバーカウンターを示すが慌てて首を横に振ったアマネは言う。
「手短に済ましますので大丈夫です。
その、ザキさんが少し荒れていると伺いまして・・・。」
「俺が?」
「はい。その・・・違うんです?」
対面に座り腕を組むアンリを見るアマネは、アレ?と首を傾げる。
自身が口にした言葉とは違い、落ち着きと配慮をもって接してくれているアンリの姿に怒りが読み取れないからだ。
あれ〜?石田さん、この人全然怒ってなさそうだけどなんだったの?
脳裏に疑問が浮かぶが答えが出るより早く声が来る。
「石田さんが唆したのかな?困った人だ。」
苦笑するアンリにホッとしたアマネはそれでも細心の注意を払っておこうと思い続く言葉を待った。
「俺は常々紳士的な振る舞いを心掛けている。どのような状況でも感情を前に出して行動する程幼稚ではないつもりだ。理解してくれるね?」
「は、はい。」
「とはいえ、少しばかり気がかりがあるのは事実だ。最近県内で若者同士の衝突が多い事は憂慮に堪えない事とは思わない?」
う、と言葉に詰まるアマネは縄張りの管理不足による叱責を受けるのかな?と身構えた。
「すいません・・・その、前に頂いた資金で買収進めてますので・・・。」
「うんうん、県内の情勢調整はアマネさんにお任せするから頑張ってほしい。
近々、俺達の情報を漏洩させている東京の半グレは始末するから数カ月程で落ち着くとは思う。」
「始末ですか?」
うん、と頷いたアンリが気怠げにため息をつくのを見るアマネは喉を鳴らす。
「多喜川さんの組で囲っている子達らしくてね。どう処理するか悩ましい所だ。」
「そ、その組と抗争なんて・・・ハハ。」
「そうならないよう調整してるよ。
多喜川さんを通じて組に確認をとってるし、証拠関連の確認と処理前の手続き待ちなの。」
5人いるからね。と続けたアンリは五指を一つずつ曲げていく。
「半グレ君達を差し出すのは彼等の組として任せていた仕事や繋ぎとか困るだろうし、なによりメンツがある。
とはいえウチも先方も組織体力的に抗争は避けたいから1.2週間位で折り合いつけた対応に落ち着くさ。」
「そちらはザキさん達に任せて良いんです?」
「良いよ。アマネさんは仕事と県内に注力してくれ。今回の件が落ち着いたら俺とサラは隠居して帰る予定だからしっかり実績作るようにね。」
スマホの画面に6桁の番号を記しアマネに見せたアンリは下のガレージを示す。
「メンテナンス用具の戸棚を開けると底が隠し戸になっている。そこがうちの武器庫だから好きに使うと良い。」
「うぅ・・・必要ですかね?」
「さぁ?はしゃいでるガキは数が増えると過激になる。彼等に使わなくとも状況次第では土屋さんとも協議するからそっちは手ぶらじゃ話し合いもさせてもらえないよ。」
状況を想像したのか嫌そうに顔を顰めたアマネは頷く。
「ありがとうございます。」
「うん、ミスをして捕まる事があれば銃器を処分して完黙しなさい。外の証拠は消してあげるから。」
「えぇ〜捕まる前に助けてくれないんですか?」
「拘留や調書を取られる程度なら人生の彩りだよ。そう思えないなら捕まらない立ち回りをしなさい。」
仕方ない。と覚悟を決めたアマネは立ち上がる。
「ザキさん。隠居するなら不動産とか全部下さい。皆に比べ私のセーフハウス全然足りてなかったので。」
「ハッハッハ、良いよ。土地と建物の権利書も用意しておくし組織内の利権も整理しておこう。
他幹部への連絡もスマホで統一したから代替わりに気付かれる事も無く貴女がボスだ。もっともきちんと県内のお片付けが出来たならね。」
「了解しました。ザキさんの憂慮を取り除き勇退させましょう。」
「頼もしい言葉だ。期待しているよ。」
頷いたアマネは、先ずは県内を荒らしている者達の上役を探る為、過去の上司斉村にも連絡を取る事にした。




