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動き出した者達

カツカツと足音を鳴らし部屋を回る石田はテーブルに広げた資料とPCに触れてから盛大なため息をこぼした。


夕暮れの赤い斜陽をブラインドで遮り幾つも監視カメラの拡大写真や証言情報を前に一度天井を見あげる。


「最近はしゃいでるガキ共がいる事、武藤さんから事前に聞いていたんだって?」

「・・・。」

「トクリュウ『オーメン』か、カリスマ溢れる傑物を失った残党と思っていたけど中々手を焼かせる方達だったとは。」


六のゾロ目をモチーフにしたエンブレム写真を手にしたアンリは、未だ視線を合わさない石田を見る。


「彼等がはしゃいでる理由は調べられた?」

「はい。年始めから始めたボスの興行、その管理組織を探る目的で『オーメン』残党の活動が活性化しています。」

「・・・ふーん。」

「おそらく、今の纏め役が神崎夫妻へのコンタクトを目的に末端のガキ共を遊ばせ縄張りを荒らしているのが理由かと。」


ギィ、と椅子を鳴らし重心を傾けたアンリは指で机を叩きながら思考をする。


初興行終了後から県内が荒れ始めた事から俺達に近い組織に口の軽い奴がいるのはわかっていたが他組織への介入が面倒だとほっといたのが悪かったか。

とはいえ、多喜川さんの組か宮城の鬼島組長の部下の場合、俺から手を出せば今の関係を維持出来なくなる。


それでも探りだけはしとこうか、と決め石田に言う。


「どこの介入かわかる?情報の流失元とか。」

「間に幾つか人を挟んでいるようで探れてません。ただ、流失元はおそらく多喜川の組で囲っていた半グレです。」

「理由は?」

「初興行後直ぐの介入があった為、その時点で興行関連の情報を把握している者は絞れます。

まず、興行で死んだ澤村の紹介者はマナ。ボスの報復の怖さを知るマナが軽率な行動をするとは思えません。」


ふむ、と先を促すアンリの仕草を受けた石田は一つ呼吸をする。


「平木は多喜川からの紹介で攫う際に半グレを使っています。

監視社会である都内での拉致を指示されるのは切り捨て前提とした頭の悪いゴミ共です。

そいつらが揉め事なくソリーゾファイナンスへ引き渡せた所をみるに、予め提供先に神崎夫妻がいる事は聞かされていたと考えるべきでしょう。

また引き渡し場所が県内にて行われた事で活動拠点のおおよその当たりを付けられたと判断出来ます。」

「確かにその程度の要領しかないゴミ共なら金欲しさに情報を売るか。流石探偵業、一応の筋としては納得出来た。」


立ち上がったアンリは資料に指を触れる。


「この荒れた県内のお片付けはアマネさんを主として任せるよ。それの完遂をもって彼女を二代目にし俺とサラは隠居する。」

「・・・。」

「組織結成前からの献身、非常に助かっている。そのお礼に隠居時に俺とサラの秘密を教えよう。

貴方がコソコソ嗅ぎ回っている秘密をね。」


ゾクリ、と背筋に冷汗を感じる石田はアンリの目を見れず震える身体を押し留める。


「そう反応されると脅しみたいじゃないか。

これはなにも知った後に殺そうって話じゃない。

ご褒美に答えを教えるからこちらに向けられているリソースをお片付けに注いでね。ってお願いだ。」

「何の事かわかりませんが全力を尽くします。」

「ハッハッハ、この状況でしらを切る胆力に免じて『勘違い』にしておこう。

俺達は多喜川さんに接触して元から潰して来るからアマネさんをよく導いてやってくれ。」


机を横切り石田の肩を叩いたアンリは気楽な雰囲気で言葉を続ける。


「それと・・・手が空くならでいいんだが、海側のエリアで学生相手にタカりや脅迫している奴等がいるらしい。

先日友人が世話になった関係で探しているんだ。こちらもお願い出来る?」

「確保もですか?」

「・・・難しいなら顔と大まかな行動範囲だけでも良い。

情報として武藤さんから監視カメラ映像を回させるよ。」

「了解です。必ず探し出します。」


期待しているね。と言葉を残したアンリが事務所から出た瞬間、緊張から解き放たれた石田はその場に座り込んだ。







澄み渡る大空を天に仰ぎ見る空港展望台。

着陸姿勢の飛行機が徐々に近づく中、数人のカメラを持つ人やはしゃぐ子に手を引っ張られる夫婦がいた。


「お〜近いねぇ。デカいねぇ。俺もカメラ持ってくれば良かったなぁ。」

「佐田さん、先日羽田で沢山撮ってませんでした?」

「アレとこれはまた別モンよ。空に憧れる男のロマンってわかんねぇかなぁ。」


フードを被った男、佐田が取り出したスマホで撮影する横でため息をこぼした女は、着陸直後とあって展望台に少し人が増えて来た為一度周囲を警戒する。


無頼連合、神崎夫妻、都内と県内の本職・・・敵は多いのにこの人は・・・。


柵から身を乗り出し撮影する男の背を守りながら両横を見れる位置に移動しながら県内の情勢を思う。


大小様々な組織があるが注意しなくてはならないのは本職の組ではなく2つの反社組織。

特に最大動員数が県内最大規模で神奈川近郊にホームを置き、東部から中部にかけて強い影響力を持つ無頼連合。

そして昨年に無頼連合と死者を出す抗争をした狂人神崎夫妻を代表とした反社集団。

おそらく中部から西部周辺に潜伏している神崎夫妻はその組織全体が秘匿されている為構成員も幹部もよくわからないのが問題だ。


末端兵を使い自称構成員を攫って拷問した限りでは仕事により複数の班に別れている事。

他班の情報も直属の上役も不明で連絡はTelegramを用いている事がわかっている。


着陸を終え滑走路を移動する飛行機に大勢の興味が移りゆく中振り返った佐田と視線が合う。


「どした〜?ほらほらエリさんももっと楽しもうよ。」

「はぁ、チームも荒れ、県内も荒れ、新しいトップは遊び人。私は気が気でないのです。」


ハッハッハ、と笑う佐田はエリと呼んだ女性を横に抱き寄せカメラを構える。


「荒れた方が楽しいじゃないの。静寂、平穏、協調、んなつまんねぇ生き方に意味ないってね。」

「反社らしい生き方ですが長生き出来ませんよ。」

「いいさいいさ。倒れる時は周りを巻き込んでこそよ。

それにガキ共使って県内を荒らしてる限りサツに目付けられんのが嫌な奴等は大きい動きは出来ねぇ。かえって安全ってモンだ。」


スマホをしまい、展望台から駐車場へ続く通路へ促した佐田は、疎らに列を作る他の観光客に続きながら言う。


「神崎も土屋もサツにしょっぴいてもらおうぜ。あいつら余罪あり過ぎて死刑まで行くだろうから組織も乗っ取れるさ。」


両手を広げた佐田は天を仰ぎみる。


「屑共が消え、組織を得て、金も増える。

あぁ、俺の人生は希望に満ちているじゃねえの。」


不敵に笑う佐田の背に続くエリは、去年おこした呂久村を失脚させる為だけにオーメンと無頼連合をぶつけた狡猾な立ち回りを知っている。

だからこそ今の言葉が虚実ではなく宣言だと理解しその補佐を誓った。

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