佐田 ①
昼下がりの陽光が葉群から覗く高い松の根元に3人の男がいた。
防風林として植生された沿岸近くの高台の上だ。
呻き声を洩らす男達は誰もが顔を腫らし、口元や鼻から血を横溢させ幹に力無く寄りかかっている。
「はいはい喧嘩強いね君達。でも俺の方が強い。だろ?」
近くに聞こえる潮騒の音に負けない声量を作る佐田は拳に刺さった歯を抜き、ペットボトルの水で洗い流しながら陽気な声色で続ける。
「俺が勝ったんだ。敗者のグループはオーメンの傘下、で良いよね?」
「・・・クソ。」
悪態をついた端の男に蹴りを入れた佐田は、ん〜?と笑いながら3人と視線を近くする為腰を曲げた。
「なになに?聞こえなかったよ。」
「傘下・・・入ります。」
「良かった良かった。了承取れたんでこれからのお話進めようか。」
3人を正座させたままの佐田は3人の免許証の写真とスマホ番号を登録しながら言葉を作る。
「チーム入会金で1人20万用意してね〜。もちろん君達の組織の部下全員。15人だったかな?」
「んな無茶な!?」
「一ヶ月あげるからカツアゲでも強盗でもなんでもやりなよ。用意出来なかった奴は用意するまで追い込むし、脱退する時も倍額用意させるから逃さないよー。」
ポンポンと肩を叩き笑う佐田は、震える3人を落ち着かせるよう言葉を続ける。
「まぁまぁ、うちで賞金かけてる奴らもいるんだ。攫うか仕留めるかで1人100万出すよん。」
Telegramを用い写真を3人のスマホに送ってから返すと、スマホ画面に写る者達を確認した3人のうち1人が心当たりのある顔に気付き青褪めたまま声を震わせた。
「れ、連合・・・?この人ら無頼連合の幹部達だ!?」
「せ〜かい。お見事。」
パチパチと拍手した佐田は必死に何かを囀る男達を無視しながら静かになるまで待ってから言う。
「元気いっぱいだね〜で、やれる?誰でもいいぞ100万だ。」
「む、無理無理無理っす!?勘弁して下さい!!無頼連合に歯向かえばうちらのような弱小軍団殺されちまいますって!?」
「またまた〜君達程度がはしゃいだ位で連合は本気にならないって、たぶんだけど。
まぁ嫌なら良いよ。最後の2人は連合じゃないけどどうだ?」
佐田はスクロールしながら前回の無頼連合開催の興行映像をスクショした荒い画面の男女を見せる。
「名前はアンリとサラ。裏社会じゃ神崎夫妻の通り名で知られた半グレだ。
こいつらも1人100万出す。なんならこいつの組員に繋がる情報なら50万で買ってやる。」
マジっすか?と呟いた3人は佐田と同様自分のスマホ画面でアンリとサラを確認する
「男はともかく、女はエライ美人っすね。目を引く風貌なら見落としはしないか・・・?」
「反社なら変装位はしてそうだが・・・それより胸だろ。このおっぱいで判断した方が良さそうだ。」
「マジだ!デケー・・・豊胸か?わかんねぇが特徴あるのは助かるな。」
3人は神崎の事を知らないようで、言葉を交わし合いながら画像を何度も確認していく。
「あの、下の者にも写真見せて良いですか?とりあえず繁華街とか当たってみようかと思うんすけど。」
「良いよ。集金日までに用意するなり人狩りするなり頑張んな。
襲撃する際は連絡してくれ。金持って行くからよ。」
ジャリッと砂を噛む足音で背を向けた佐田は駐車場に向け歩き出す。
「そうそう、何かミスしても俺の事言うなよ〜。お喋りさんは殺しちゃうゾ。」
3人の返事を待たず、じゃね、と手を振った佐田はエリを待たせている車へと向かった。
コンコン、と短く車の窓をノックする音の後、定型通りの挨拶を受けたエリはドアを解錠し助手席に乗り込んできた佐田を見る。
怪我は・・・拳だけ。大事なさそうで良かった。
「タオルありますので押さえてください。」
「ありがと〜。いやいや3人がかりだったから少し頑張っちゃった。」
タオルを拳に巻き縛る事でシートを汚さないよう止血した佐田はシートベルトを締め背もたれを倒す。
「次は誰〜?今日なら疲れてないしもう一組やってもいいかな。」
「その前に報告が1件、先程東京の倉持から連絡がありましたよ。
若頭から呼び出しを受けた。との事です。」
「ありゃ〜俺達に情報流したのバレた感じ?」
車をゆっくりと発進させたエリは頷く。
「どうやら組管理の格闘技施設で話を聞く流れらしくなんとか逃げるから助けてくれ、と。どうします?」
「ん〜っても彼等はもういらないからなぁ。」
興味なさそうにリクライニングの角度を調整する佐田は思考を進める。
俺としてはもう少し県内荒らしたいんだよね〜。
その為にガキ共が進んで犯罪行為に手を染める為の理由として入会金を高めに設定した。
期日までに金を用意出来ない奴らはクスリの売人としても使えるし、県内が荒れているうちは警察を警戒する無頼連合は強みである構成員も動けない。
長くは続かないし穴もある運用だとわかっているが、手足となるガキ共が可哀想な程アホ過ぎて複雑な取り決めは理解出来ない以上、わかりやすさは重要だしな。
「とはいえやりたい放題になるにはまだまだ刺激が足りねぇよなぁ。倉持使って遊べるか?」
「・・・何故格闘技場なんでしょうか?
見せしめの拷問、尋問ならもっと人目のつかない部屋や山中でいいと思うのですが・・・。」
「・・・。」
それはそうだ。と僅かに顔をあげた佐田は額に指を当て頷く。
見せしめなら血飛沫対策にビニールで囲った部屋や水回り設備のある地下室やガレージで行うのが一般的だ。
にも関わらずわざわざ規模が大きく設備が足りない興行施設を使う意味は・・・見せしめに観覧客を呼ぶのか?
「・・・場所の目処はついてる?」
「2つあります。総合格闘技のジムかアングラ興行用の格闘技施設。どちらも組のフロント企業が運営しているようで。」
「オッケー。なら観に行こうよ。助ける云々はほっておいて、出入口の監視で関係者の割出し位は出来るでしょ。」
ガキ共を追い込む事より面白くなる予感に笑みをこぼす佐田は握った拳に視線を落とし言う。
「あ〜エリさんエリさん、先に薬局寄ってくれる?歯刺さったから膿みそうでさ〜。」
「・・・一度セーフハウスに寄ります。道中に一つありますので。」
「お、じゃあ得物も持ってこっと。ボウガンか銃器ある所なら楽できるんだけど?
それとも潰したガキ共が管理していた遊び部屋?」
「昔からオーメンが管理してる売春要員を飼っている部屋です。
簡単な医療品ならある筈ですが、管理が厳格な得物類は期待しないほうがいいかと。」
そっかぁ~。と気の抜けた佐田の声を了承と受け取ったエリはアクセルを踏み高速ICまでの道を脳裏に浮かべ車を走らせた。




