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王祖が残していた物 上

 ファンテール王国からの予期していた攻撃は僕の居ない間に処理され、僕は別の理由でジオゼルグ、ヨルムンガンド、スルトを連れて領都である王祖の迷宮に帰還した。そこには既に全員が帰還している状況で、殆どの処理が終わっている。ツェーヴェが無理をしたと言うので少し過剰に叱ってしまったが、最後はこれでもかと褒めた。彼女のおかげで仲間の被害は最小限だったのだから。

 そして、それから一時間程かけて戦功や捕虜の扱いなどを話し合い。エリアナから直接は関係ないけれど……と相談された。それが……。

 『ジオちゃんのくれた迷宮核なんだけど、正直こんなに処理できないの』。という事だった。迷宮には迷宮のルールがあることは以前から解っていることだ。説明書的な魔素板の存在もありはするが文言が古めかしく難解。説明する気があるのか謎な説明書を解読しても、この辺りはまだ解ってない。それが迷宮の位階上昇についてだ。

 魔境も迷宮も同じことなのだが、主と繋がり一心同体である。主認定している迷宮核の成長傾向や配置可能な施設傾向も種族や個人で変わるものだ。これは僕の予想なのだけど、迷宮の位階上昇は主の位階に依存している可能性がある。人間のエリアナの位階が上がるかは解らないが、現状は触らない方がいい。そうなると宙に浮く大量の迷宮核。城の倉庫に大量に保管されていた。


「正直こんなにあっても……迷宮を各所に配置して、トロッコや各種施設を敷設してもまだこれだけ余ってるの」

「ふ~ん。なら、僕の縄張りに保管しとく?」

「え?」

「この前報告したでしょ? 僕の縄張りに迷宮核の生る大樹が生えたって」


 それから改めて魔人衆と主要な族長を集めて会議を行う。一応、迷宮核が欲しいかを聞いただけだけど。エルフ族とドワーフ族が一個ずつ研究用に。妖精族が面白いからと各族に一個ずつ……。他はツェーヴェとエリーカの研究者コンビが個人研究ように2人で一個。これでもまだ100個以上ある。『超巨大サンドワーム』が収奪していた国家規模の魔素はこれだけの量だったのだ。大きさも様々ではあるが、大きな物でも直系50㎝、小さい物だと5㎝もない。迷宮を維持している迷宮核は一律直系1mなので、何かの理由で不完全なんだと思う。

 それを魔法の鞄に詰め込んで来たいと言ったメンバーを連れて、爆走トロッコをさらに改造した快速トロッコに乗って僕の縄張り『黒鋼の森』へ。

 僕の作っておいた僕の『迷宮(マイハウス)』の地下に行きつく。そこで停車し、結構な人数になっている同行者がそこで降りる。条件は自衛できない者はこの中から出ない事。エリアナは除くけど。迷宮核をここで管理する理由もちゃんと教える。長く生きているカレッサでも実際に見ると驚きが隠せないようだ。ゴードンさんもワクワクが止まらないらしい。以前に来たツェーヴェやエリーカもこんな感じだった気がする。ここはいつも変わらない。僕でも濃いと感じる魔素に満ちていて、静謐の空気の中を魔素結晶の葉が触れ合って涼やかな音が響いている。体温のある生き物の気配はこの大樹の周辺にはほとんどない。


「ふ、不思議なところだね」

「そうだね。僕もここは普通の場所ではない気がする。魔素も異様に濃い。まぁ、理由はなんとなくわかるんだけどね」


 エリアナから預かった迷宮核を僕の迷宮にしている大樹に向けて出すと、その全てが最初からそこに生っていたかのように大樹へくっついていく。このオリハルコンの大樹がどういう存在かは主である僕にもよくわからない。それでも害がない物であることは解る。

 黒の森であった頃、あそこは魔境とは言えどもかなり魔素の滞留は薄かった気もした。

 それから僕が黒の森を燃やし尽くし、主になった時にあの大樹が生えて来たんだ。何かこの一連の行動に関係しているのだろうとも思う。それに主の僕にはわかるけれど、そこかしこに生えているアダマンタイトやミスリルの樹木が徐々に枯死している。それも回収。土地が適度に魔素に満ち、荒野だったあの土地が肥沃な土地に生まれ変わっている気もするし。……とはいえ、ここはまだまだ危険だ。仮に移入者を入れるにしても魔人級からになる。

 僕がとんぼ返りする理由になった大暴走。その影響かかなり魔物の密度は低い。そして、王都の方面への拡張が加速した気がする。不思議ではあるけども。その辺りの調査は今日は行わない。エリアナのお願いはとりあえず終了。あの大樹にくっついた迷宮核はいずれ成長し、ちゃんとした大きさになると思う。何千年かかるかは知らないけど。


「それで……セリアナさん? 帰って来てすぐに秘密のお願いですか?」

「え、えぇ……。申し訳ないのだけど、王都跡を少し調べて欲しいの。できれば私とエリアナを連れて」

「……相当危険ですが?」

「そのリスクを負ってでも探さなくちゃいけない物があるかもしれないの」


 まったく……。この親子は。ちゃんと先に話してくれたらそれに合わせて予定を組んだと言うのに。エリアナの警護にはツェーヴェとヴュッカ。セリアナさんにはスルトとゲンブを付けて再び僕の縄張りへ向かう。警護メンバー以外にもいろいろ探りを入れるため、妖精家守(ハウスキーパー・ゲッコー)家令家守(シルキー・ゲッコー)のイオをタケミカヅチと組み合わせて配置してある。空からの別動隊だ。

 王都へ向かう時はどうしても地上を移動になるからね。ここが凄く危険なんだ。

 魔物の気配は凄く薄い。けれど、油断はできない。僕ら魔人だけならそれほど危険でなくとも、ピンヒールが武器の人とその娘だからね。武芸の心得は無いと考えた方がいい。あのピンヒールはめちゃくちゃ痛いけども……。しばらく歩いて、歩き疲れて靴擦れしている2人をツェーヴェとヴュッカが背負って走る。……最初からこうしておけばよかった気がする。

 それから2時間程背中の2人を気遣って走り、王都の残骸らしき場所に到達。

 酷い臭いだ。淀んだ空気に腐臭が立ち込めている。大暴走の本当の悲惨さはここなんだよな。大暴走で破壊しつくされた都市はそのまま放棄せざるを得ない。魔物に食い荒らされたり、殺されたまま放置された遺体はそのままだ。生き残っていたとしてもそこからの脱出は不可能と考えた方がいい。誰にも看取られず、餓死する未来しかない。大暴走した魔物が跋扈する瓦礫の中で。


「ここですね。王城跡です」

「……あの、この方は?」

「おそらく、国王リックスです。……馬鹿なことを。聖剣を引き抜いたのですね。最後の最後まで愚かな王だったのでしょう」

「聖剣?」


 聖剣か。王祖の時代に神より賜った神器だと言われているが、なんでかツェーヴェの蔵書の中にあった『錬金の極意』という古代ドワーフ語で書かれた本の中にレシピがあったけどな。今の僕と他の名工名匠の手を借りれば再現は可能だと思う。

 セリアナさんがまだ、姫として王城に居た頃に父親の先々代国王から聞いたことがあるらしい。

 このファンテール王国の王祖の資格は、単なる外見の変化ではないと。その資格が無くては宝物庫にある救国の器を使う事はできない……と。セリアナさんのお父さんは詳しくは語らなかったが、資格の無い王が即位することが国に悪影響があるかもしれないと言っていた。王祖の資格のある者は必ずその世代に1人は生まれる。どれだけ少なくなろうとも、人が人として生きることを諦めていない間は必ず生まれると。

 その父王の予言めいた言葉をエリアナが生まれた時に、セリアナさんは思い出したそうだ。先々代のことについても未だに考えさせられる点があると言う。セリアナさんがガハルト公爵家へ降嫁する事が決まり、王城を去った後に父の急死を聞いた。どうかんがえても不自然なのだ。父は健康だったし、そんな理由もない。なら、謀殺されたか何かの理由があり姿を消した可能性がある。セリアナさんはそれを調べたいというのだ。


「父は口数が少なくて、あまり多くは語らない人だったの。それに私は所詮は資格のない姫。父の子の中で一番可愛がられていたらしいけれど、私も王家の秘密については聞いた事はないわ」

「意外と広い宝物庫ね~」

「いや……。これって……」


 僕は独特な違和感を感じた。そして、リックスが壊したのだろうか? 魔物が侵入して壊したにしては綺麗すぎる。聖剣が刺さっていたのだろう祭壇の奥に……見慣れた扉を模した壁を見つけた。見た目はあくまでも石のブロックを積み上げた行き止まりだ。しかし、その壁のブロックには美しい扉を模したレリーフが施されている。僕は……エリアナを連れてその前に立ってもらう。そして、開いた。

 エリアナ本人はもちろん、セリアナさんやツェーヴェ、ヴュッカ、ゲンブにスルト……。そこに居る全員が驚きで他人にはお見せできない表情をしていた。

 うん。気持ちは解る。しかし、僕はその中でも違和感を感じてしまう。その中には死んだ迷宮核と埃が積もった玉座……。そして、もう数百年は経っているだろう白骨が鎮座していたのだから。死体や白骨に耐性のないエリアナは僕の後ろに隠れたが、セリアナさんは構うことなく前進し、恐れることなくその白骨の膝の上に乗っていたボロボロの本のような物を掴んだ。それを読み始めたセリアナさんは両目を見開いて注意深くページを捲りながら急ぐように読みふける。セリアナさんが驚くんだ余程のことが書かれて……。


「ごめん、ツェーヴェちゃん。読めないから読んでくれない?」

「……」


 周囲の全員からセリアナさんへの冷たい視線が突き刺さる。さすがのセリアナさんでもこれにはたじろぐが、直ぐに反論。古代語なんて読める人が珍しいのだから。うん。まぁ、それは間違いない事ですけどね? それなら最初から読めるツェーヴェに代読してもらえばよかったのでは?

 まぁ、こんな不毛な言い合いはやめておきましょうか。今度こそ、本命のツェーヴェが奇妙な表情をする。

 そして、今度はエリアナを呼んで読んでもらうが……特に変化なし。読めないからね。ツェーヴェが読んでも単なる日記でしかないという。こんなところにいかにもな臭いを漂わせる書物ではなかったと……ツェーヴェはかぶりをふる。


「私でもお手上げよ。読むことはできるけど、普通の日記だったと思うわ。人の日記を読むのって……なんか罪悪感があるのよね」


 ツェーヴェのいう事は最もだけど。これがカギだという事はここに居る皆が思っている。僕もどうにか読めないかを考えて、裏表紙を見た。……うん。解った。これはなんというか。凄い離れ業をしたもんだ。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後115日~120日

主人 エリアナ・ファンテール

身長120㎝

全長16㎝……身長9㎝

取得称号

NEW ・悪運も幸運も ・魔境の活用者


取得スキル

NEW +収納術


 ~=~


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