王祖が残していた物 下
僕が裏表紙で見つけたのはまさかの現代語で書かれた文言。
『よくここを見つけたね。そんな君は私のように捻くれた者なのだろう。そんな捻くれ者の君にお願いがある。この日記を後ろからこの向きに読み直してみて欲しい。そうすれば、私の言いたいことが解ると思う』
……という、酷く頓智めいた……それこそ捻くれた言葉だった。ご丁寧に……血文字であとから書き残された年月日付きで。
この人物の様相からその当時の国王なのだろう。念のためツェーヴェにその方法で読んでもらうと、驚きの事実がいくつか解った。古代語と僕らが言っているいくつかの人語の内の1つは、現代語を右に四分の一回転させた形とほとんど同型だったのだ。もちろん記号の全てが符合しているわけではない。多少は時間の経過で筆記様式の変化はあるようだが、それでも比較的簡単に読めるようになった。
そして、その内容も驚くべき物だったことは言うまでもない。まさか日記を横に倒して裏表紙から読み直すだけでこんなことになろうとは……。
「まさか、そんな……」
「人間ってホントに面倒ね。王祖の血がまさか意図的に絶やされていたなんて」
「嫉妬……ですかね? そんなに力を奪い取ることが重要だったのでしょうか?」
おおよそ500年ほど前、このからくり日記を記した王様がどうしてこのような手段をとり、ここで亡くなっていたかを、かなり細かく記されていた。王祖が建国してしばらくは人心も割れず、それなりに平和な国家だったようだ。しかし、いつごろからか、その平和な国の中に不穏な空気が漂い始める。王祖による集権に異を唱え、複数の権力者がその力を簒奪することを考え始めた。
その結果この王様は暗殺されかけ、ここで最後の血文字の日時を記したからくり日記を残し息絶えてしまった。ここに入れるのはそもそも王祖の血をつなぐ者のみ。その事実を知る物もここに入ることができないので知ることさえなかったのだろう。そして、この王様の願いを聞き入れた一部の歴代国王や、ファンテール王国は『王祖の残り香』と自身たちを称した『白金髪に金瞳』の者により、1つの謀が秘密裏に行われていった。
『王祖が残した物』という言い方でいいいのかは解らないけど、王祖がこの王国の安寧の為、民や忠臣が平和に過ごせるようにと残した遺物を……彼らはとある場所へ移し始めたのだ。
「私の住処にあった魔道具……全部私の収集物じゃなかったんだ」
「そこはちゃんと管理しましょうよ。ツェーヴェ姉様……」
うん。そうだよね。ホントにそうだよ。大雑把にもほどがある。
ある意味、それもカモフラージュになったと考えるべきかもしれないけど。ツェーヴェがあそこに大量の書籍や高価な魔道具を積み上げていたことを、何代か前に存在した『王祖の残り香』達は知っていたようだ。利用したというよりは森の主に託したとも取れる。『王祖の残り香』の中には追手が付き、死んでしまった者もいたのだろう。それすらツェーヴェは趣味の範囲で収集していた。
おかしいとは思っていたけど、ツェーヴェ自身が既に伝説に片足突っ込んだ存在だから違和感が弱かったのかもしれない。僕が使っている凄まじい魔道具の数々。あれの性能って下手すれば世界を揺るがしかねない性能だったんだな~ッて……。僕は今頃考えを改めた。
最後の一ページを読み終えたツェーヴェが急にその白骨の衣服を捲る。もうほとんどボロボロで触れば崩れてしまう程劣化しているようなものだ。高級品だっただろうからこれだけ長く形が残っていたんだろうけど……。
「へ~。この人は余程これを他の人間に読ませたくなかったみたいよ」
「これは?」
「『王祖の歴文』?」
「たぶん、王祖の血筋がちゃんと力を維持してきた時に残された遺物の物品リストと、その条件のような物だとおもうわ」
「じゃ、これはエリアナに渡しておくわ。たぶん、これもエリアナにしか読めないと思うし」
うん。セリアナさんは読めなかったけど……なんで僕は読めるんだ? まぁいいや。とりあえず。ここでやることはまだ終わっていない。名前すら書き記さず、本当に必要なことと、詳しい年号しか残さなかったこの王様をちゃんと弔ってあげなくちゃいけない。僕が持っていた布に遺品を全て詰める。遺品といっても、彼が記した通りに滅んだファンテール王国が歩むだろう末路を予見した日記、彼が帯剣していた業物だっただろう剣の柄とボロボロの鞘だけだけども。もう、日記も必要ないしね。一応、形だけファンテール王家の王墓に彼の遺骨を埋葬する。……あの墓に入りたいかは本人にも聞けないので解らないけど。
それから、エリアナにはもう一仕事? いや二仕事ある。
まず、この城の地下にあった死んでしまっている迷宮核を吸収すること。別にここを手に入れても特に何の得にもなりはしないが、王祖の末裔として、彼女にも思うところがあったのだろう。僕らが何を言うともなく、彼女は迷宮核を吸収した。それとどういう死に方をしたのか想像もしたくないが、聖剣を握ったまま、腐敗ではなく乾燥し続けたようなリックスの遺体から聖剣を回収する。聖剣は……何だろう。喜んででも居るのか……。エリアナが握った瞬間に一度美しく光を上げ、直ぐに何の反応も見せなくなる。一応ゾンビ化されても困るので、周囲にある腐乱死体をスルトの地盤溶解で焼き、地面ごと溶かして王都でのことは終了。
後は北方貴族の領地の状況を見に行ってもらった妖精家守達からも報告をもらう。
「魔素が極端に薄いので、通常の魔物は消滅していました。近隣領の被害もそれなりに大きいですが、我々が手を出すほどではないかと」
「ありがとう、イオ。皆疲れただろうから、魔境の上を経由しながら城にお帰り」
「御意にございます。それでは、失礼いたします」
「うん。ちゃんと休むんだよ」
タケミカヅチに頼んでゲッコー部隊は先に帰還。僕らは、もの悲しそうな表情をしているセリアナさんが満足するまでは、ここに居ることにしている。彼女にとっては生まれ育った場所であったのだ。どんな境遇であっても悪い思い出だけだった訳でもないと思う。先ほどの父王との会話もそうだが、ヨハネスさんやハーマさんと過ごした思い出もあるだろうし。
僕らは各々時間をつぶした。
日記を残した王様の綿密な行動計画を『王祖の残り香』の皆さんは、忠実に再現したようで本当に何もない。いや、何も無くはないか……。彼らが一切触らなかった様で金銀財宝は大量にあったけど、金銀財宝がたくさんあっても本当に必要な物が一切足りてなかったんだろう。だからこの国は亡びたんだ。
逃げ延びた北方貴族がどうするのかは知らないが、この分じゃすぐに音を上げるだろう。ここの財宝を目当てに墓泥棒紛いのことをするかもしれないが、先に回収させてもらう。一応、王家の血筋で最後の生き残りはセリアナさんだ。それに国は滅びてるんだから、誰が使おうが文句はないでしょ。それなら、セリアナさんに考えてもらうのが僕としては正解だと考えるからね。
「ありがとう。もういいわ」
「そうですか? なら、今日はもう遅くなりそうなので、僕の隠れ家で一泊しましょう。無理な移動は負担にしかならないので」
それに関しては全員が賛同し、行きよりも速度を優先した。ツェーヴェとヴュッカがセリアナさんとエリアナを背負い、僕とゲンブ、スルトで周辺警戒。人族の親子はやはり気を張り詰めていたし、いろいろ盛りだくさんだったので、ツェーヴェとヴュッカの背中の上で寝息を立てていた。セリアナさんには特に思うところは多かっただろう。元王族で、自国の滅びを目の当たりにしたんだから。
……しかも、それが王祖の血筋の願いであったこと。建国の祖を裏切った国民や臣下をそれだけ重い怨嗟で呪っていたのだろう王様の存在。
あの王様の日記からはそれだけの執念を感じた。国を豊かに、危機から救う……。その為に用意されていたあらゆる道具が迷宮主の居室にあったはずだった。一個も残ってなかったけど。それに、あの城自体が迷宮だったことには驚かされたよ。迷宮主であったあの王様が機能を停止させてしまったため、迷宮国家はその年代から衰退したのだろう。シルキーの言っていたこととも合致するし、ある意味歴史の探求だったね。
「それで全てあったの?」
「ありましたけど……。いくつかクロが原型を留めない改造をしていて……」
「も、申し訳ないです」
「別にいいわよ。エリアナも使える訳じゃないんだし……。貴方はもう、私達の旦那さんなのよ? 使っちゃいけない道理はないわッ♡」
あぁ、いつものセリアナさんに戻って安心できた。だけど、この人が元に戻ったとなると僕の自由は減るよな~……。
それに僕はまだ一つ足りないと思っている。王祖が残した物って言うのは何も遺物だけじゃない。ツェーヴェの蔵書に多くある、歴史小説や勇者の冒険譚には必ずとある存在が現れる。『黒龍』の存在だ。僕の中では黒って色はあまり良いイメージは無い。邪悪で、何かを隠してそうな陰湿なイメージのある色合いだ。自分の体色のことはこの際棚上げで。
その黒龍に関する書籍や行方を記した秘文などが存在していると思ったのに……。
セリアナさんが懐古に浸っている中、僕は僕で腑に落ちないそれを探し当てる為にいろいろ探していた。けれど、ついに見当たらなかった。500年前の王様関係でもなかったと思うし、そもそも初代の王の頃以来の話となっている。どこかで失われてしまったのか……。それとも意図的に歴史の中から消されてしまったのか。別に僕も必ず黒龍の所在やその後の行動、……死んだ場所を知りたいわけじゃない。けれど、気になるんだよね。これだけしっかりと管理されていた遺物や情報なのに、黒龍のことだけが綺麗に抜け落ちているなんておかしくない? 意図的に隠されているとしか考えられない。
「今日も疲れた~」
「そうね~。最近は大きな問題は起きてないけど、実務は多いものね」
「それよりも、僕はこの後の方が付かれるよ。領地の統治に必要だからって許容しているけど……」
「え~? いいじゃないの~。美人の女性に囲まれて……英雄色を好むとも言うわよ?」
僕は英雄でもなければ、色も好んでないけどね。ツェーヴェ、まだ執務室だから落ち着きなさい。抜け駆けすると他の皆から責められるよ?
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後115日~120日
主人 エリアナ・ファンテール
身長120㎝
全長16㎝……身長9㎝
取得称号
NEW ・歴史の探求者 ・自身の???を探す者
取得スキル
NEW +スルースキル
~=~




