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2話  暴走

「誰も一対一なんて決めてないし、最初から最強の力を出すって言ったのはそっちじゃんよ! 俺たちはカインが生まれたときから、全力でカインを守ると誓ったんだ! 俺たち村人がカインの力だ!!」


「みんな…」

カインはなんだか胸に熱いものがこみあげ、鼻の奥がつんとしてきた。



「き、きさまら…、……これが…仲間の力というのか………」


 力なくつぶやかれたドガースの言葉に、カインが言葉を返そうとしたそのときだった。


「うるさいぞー! 弱いものいじめしようとしたくせにー!」

「そうだそうだ、お前の母ちゃんデメキング~!!」

子供たちがいっせいにそこら辺の小石を投げ始めた。


「あ…ちょっと、今なんかいい感じだったんだけど…」

カインはおろおろと村人と、イガグリ状態の頭で立ち尽くすドガースを交互に見た。



「…うっ……」


 ひとつの小石がドガースに当たったとたん、カインの目には確かに『クリティカルヒット』という文字が浮かんで見えた。

ドガースはそのまま地響きを立てて倒れてしまった。


 カインが村人のほうを見ると、石を投げていた子供たちの中にイサベラがいて、その頭上に『特殊スキル:女神の祝福 (効果)幸運度の上昇』と見えたような気がした。

だがカインがもう一回目をこすってイサベラを見ると、おかしな表示はすでに見えなくなっていた。


「………」

カインは息絶えたドガースを見た。


 …きっと、彼はなんか決めゼリフがあっただろうに、最期に言うことができなかったなんて…



 カインは思わずドガースの側でひざまつき、死者への祈りをささげた。

目を閉じているカインの耳元を風が通り抜け、「ふっはっはっはっはっは! この程度で俺に買ったと思うなよ! あの世で会おう!」という声が聞こえたような気がした。

空耳で聞こえた小物臭の漂うセリフに、口に出して言わなくて良かったね…とカインは万感の思いをこめてその場をあとにしたのであった。




「姫、大丈夫ですか?」

カインがいまだ地面につっぷしている姫に声をかけると、「ふんだりゃあぁあぁぁああ!!」と謎の叫び声をあげて姫は飛び起きた。

その妖精のように愛くるしかった顔は憤怒の表情にくずれ更に泥にまみれており、カインは顔の崩れかけたゾンビのようだと思ったがあえて黙っていた。



「顔の崩れかけたゾンビみたいだね」

背後で村人たちの笑い声が聞こえたが、姫の耳には泥が詰まっていたようで反応はなかった。


「ふ、ふふ。伝説の勇者というわりには、ずいぶんと手間取っていたようですね…」

静かに耳の中の泥をかっぽじってだした姫は、一応慈愛の表情をはりつけて囁いた。



 その瞬間、背中に叩きつけられるような殺気を感じ、カインは目を見開いて背後を振り返って剣をかまえた。


 こ、この殺気はドガースか、もしくはそれ以上の!?



 いやな汗が背中をつたうカインの目に飛び込んできたのは……どす黒い殺気をにじませながら小石をこれでもかと振りあげるイサベラの姿だった。

しかも小石にはなにやら特殊付与が次々とされているようで、カインが冷や汗をながしながら見守るうちに小石はビックバンを起こしそうなくらいに凝縮されたナニカに変貌していた。


(イサベラァアアアア!! 駄目、お姫様を●したら絶対ダメェェエエ!!)

カインは高速で首を横に振り続け、イサベラに必死にアピールした。



 イサベラはそんなカインをしばらく眺めていたが、ふっと息を吐いて表情を和らげた。

そして持っていた小石にこめていた気を解き放ち、そっと足元に落とした。

見た目はただの小石に戻っていたが、落ちた瞬間に地響きがおき、村人もカインも耐え切れずに地面に倒れた。


 このときカインは姫を、いやイサベラが罪を犯すのを防ごうとしただけだが、実際には世界の崩壊を防いだのである。

このときにカインは伝説の勇者の名にふさわしい働きをしたのだが、その偉業に気付いたものは残念ながら誰もいなかった。




「…ふっ、全てが終わったのか?」

皆がいまだ起き上がれないなか、最初から伏せていたためにダメージの少なかった岩男が一番に起き上がってきた。


「なんだなんだ、その無様な格好は!? それで伝説の勇者とは聞いてあきれるわ!!」

地に倒れているカインの姿を見て、岩男は嘲笑の笑みを浮かべながら叫んだ。


「す、すいません。緊張が解けて腰が抜けちゃいました…」

カインは顔を上げながらいまだ震えている脚をさすって笑った。

今だけはなんと言われようが、危機を乗り越えた満足感でカインはいっぱいだった。



「ふん、鍛え方がたりんのだ! このわしを見よ! 鍛えられた芸術のようなこの肉体を!!」

そこで筋肉ダルマはマッスルポーズをとってみせた。

カインは満ち足りた気分のまま微笑んで岩男を見上げていたが、背後からのすさまじい殺気に身が引き締まる思いで飛び起きた。


 こ、こんなときにまた敵襲なのか!?


 カインは弛緩した心身を叱咤しながら剣を構えた。

その目に飛び込んできたのは―――――

邪悪な輝きに眼を光らせた、カインの父親の姿だった。


 筋肉は肥大し身体がひとまわり大きくなり、鋭くとがった犬歯がむき出しになったその顔は獣じみていた。

荒い息を吐き、カインが見守るなかどんどん凶悪なオーラは肥大していく。


「バ、バーサク化!? 」

村の誰かの焦った声が、呆然と父の変化を見守るカインの耳に届く。


 もはや優しかった父の面影はなく、一頭のケダモノがそこにいた。


「と、父さん!! 」

カインは悲痛な叫び声を上げるが、父の反応はなかった。



 バーサク化のきっかけはカインを侮辱されたことであったが、一度バーサク化をすれば岩男だろうがカインだろうが認識はできなくなる。

あとは動くものがなくなるまで止まらない、心無き殺戮マシーンと化すだけだ。


 カインは考えうるなかでの最悪の相手に恐怖した。

気絶させればいいのだろうが、目の前の明らかに凶暴な父にかなう気がしない。

命をかけて戦うしかない…。

カインは悲しい決意をして剣を握る手に更に力を込めた。



 ザッシュゥゥウウウウウウウ!!


 カインの目の前で、父は顔から噴水のように血を噴出した。

「…え…?」


 驚くカインをよそに、父は血しぶきを上げながらどっと地に倒れふした。

その背後に、母が杖を構えてひっそりと立っていた。

「カイン、父さんのことは母さんにまかせてね!」

母はカインにウインクを投げかけた。


 母さん…いま、父さんの顔半分が吹き飛んでなかった…?


 カインの動体視力は衝撃的な事実をしっかりと捉えていたが、きっと動揺のせいだとスルーすることにした。




 カインは飛び散る血飛沫に悲鳴をあげている村人たちに背を向け、倒れてちびりかけている岩男と気を失っている姫にそっと微笑みかけた。


「今日はもういろいろと疲れました…。ここで野営をしましょう」


 カインの儚げな微笑に、筋肉ダルマとそこらに散っていた貴族の子息たちはただただ何度もうなずくのみだった。




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