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1話  拳王の襲撃

 

 しばらく北の方角に歩いていた。

王都も遠くなり、景色が見渡すかぎりの草原になったときだった。


「な、なんだ!?」


 いきなり叩きつけるような瘴気が一行を襲った。

カインもおもわず目を閉じて身を守るように両手をあげて体を丸めた。

情けない格好だとは思ったが、全てを投げ出して逃げてしまいたくなるような圧迫感が支配していた。


 薄目を開けて周りを確認すると、岩男は頭をかかえてうずくまっており、お姫様は…貴族たちがうずくまっている側に輿ごと投げ出されていた。



「あっはっはっはっは! いいざまだなぁ、人間たちよ!!」


 息をするのもつらい瘴気のなか、何者かの嬉々とした声がおびえる人たちにかけられる。


「カインッ、覇気を出せっ!!」

剣術の先生の言葉に、カインははっとして腹に力をこめた。


「うおぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉおぉぉお!!」


 カインの渾身の叫びに空気が震える。カインはそのまま己の頬を張った。



「うしっ!」

まだ足先に震えが残るものの、カインはしっかりと足を大地に踏みしめて瘴気の正体をその目で確認した。


 そこには、禍々しい笑みを浮かべた見上げるような大男が立っていた。

その引き締まった鋼のような体もさることながら、ひときわ目をひいたのはその腕。

丸太のような太いうでが、右に5本、左に5本、それぞれ別の構えをしてうごめいていた。


「あ、あれはっ、魔王直属配下の魔将軍のひとり『拳王ドガース』だっ!!」


 カインの背後から村人の誰かの声がした。

カインが振り返ると、村人たちは全員伏せながらも顔を上げ、しっかりとカインと拳王ドガースを見守っていた。


 村人たちの強いまなざしとその変な姿勢に、カインは武者震いをした。

僕の背後には守るべき人々がいるんだ! 決して引くもんか!!

カインは剣をかまえて目の前の大男と対峙した。


「ほう、この魔王軍最強である俺の覇気を受けて立っていられるとは、貴様、なかなかの男のようだな!」

ドガースは一番上の腕を組みながら、余裕の笑みをうかべてカインを見下ろした。

しばらく、ドガースの余裕の笑みとカインの決死のにらみがぶつかりあった。



「こういうのは弱い敵からぼちぼち出て、じょじょに成長してからアンタみたいな強い敵がでるのがお約束だろ!!」

カインの背後から震えた声が上がった。


 カインとドガースが村人のほうを見ると、村人たちはサッと下を向いて口笛を吹き出した。

カインは村人たちの必死の援護に、涙がにじんだ。

ちなみに岩男と姫はいまだそこらへんに転がっているはずだ。



「あっはっはっはっは!! 最初から最強の力を出して敵を再起不能になるまでぶっ潰す! 戦いではごく当たり前のことではないか!!」


 更に増す瘴気と覇気に、剣を握るカインの手をじっとりと汗がつたった。

正直いって目の前の大男に勝てるような気は全くしない。

今のカインを支えているのは、背後の村人たちの存在のみだった。


「…その理屈でいうなら、一番最初に村を襲ったガウネルが一番強いってことになるんじゃ…」


 カインの背後からの言葉に、張り詰めていた空気が更に凍りついた。




「…ふっ」

沈黙をやぶったのはドガースだった。



「はっはっはっはっはっはっは…!! …や、ヤツは我ら四天王のなかでも最弱なのだ! 奴を倒したからといっていい気になるなよっ!!」

ドガースは胸を反り返らせて笑った。

だが10本の腕が小刻みに震えているようにカインには見えた。


「確か魔将軍って3人じゃなかったっけ…?」



 もはや覇気や瘴気がうすれ、どことなく小物臭が漂ってきたような気がカインにはした。

なんだかやれるような気がしてきた!


 カインは気合を入れて剣を構えなおした。


「…くっ…、ぐはっはっはっはっはっは!! よい面構えになったではないか、小僧! 貴様の力を見せてみるがいいっ!!」

「ぐっ!!」

カインを威圧感が襲う。


やはり小物臭がしても、魔将軍は魔将軍であった。


「我がすべて叩き潰してくれるわぁっッツ!!」

「!!」


 カインがドガースの姿を確認したときには、すでに重い拳が目の前に迫っていた。

瞬時に剣で防いだが、ドガースの重い拳は剣を構えたカインごと吹き飛ばした。

声もなく木の葉のように宙に舞うカイン。

そのまま無様に地面に叩きつけられた。


「…ぐぅっ!」

たたきつけられた身体も痛んだが、それよりも拳を受け止めた剣と腕がしびれて感覚が無くなっていた。


このままでは剣を振るえない!!


カインはその身を地に伏せたまま焦ってドガースを見上げた。

ドガースは涼しい顔で笑っていた。


「ふっ、俺がその気になれば貴様など今の一撃で殺せた。なぜそうしなかったかわかるか?」

カインは起き上がることもできぬまま、まだ気が折れたわけではないこと示そうとドガースに睨み返し唇を強くかみしめた。


「圧倒的な力の差により己の無力を思い知らせ、絶望にゆがませた顔を楽しみ、そして踏み潰すためよぉぉぉっ!!」


 力なく倒れ伏すカインの目の前で、大人の胴ほど大きい足が振り上げられる。

その足先まで何かの力がみなぎっているのを、カインはビリビリと肌を刺すような覇気から感じた。


「魔王にさからう愚かな勇者よ、さらばだぁぁああああああ!!」


 腕の回復もかなわぬまま、カインは目前に迫る凶悪な足をただ睨みつけることしかできなかった。



ドスッ!!


カインの視界は血で真っ赤に染まり、時が止まった……。



「?」

いや、時は動いており、カインの顔には絶えず血が吹きかけている。


 顔の血をぬぐってよく見ると、振り上げられたドガースの足に、木の杖が貫通していた。


 最近この杖が血をすうのを見たことがある…。

カインがゆっくりと村人のほうを見ると、ガッツポーズをした母の姿があった。


 なぜかその隣には、同じくガッツポーズをしている村長の姿もある。


 足を振り上げたまま止まっているドガースを見上げると、その頭は矢のようなもので隙間なくびっしりと覆われていた。


「………」

カインがゆっくりと村長を向いてよくよく見ると、その手に大きな弓のようなものを持っていた。


「だぁーっつはっはっはっはっは!! 見たか、移動式バリスタ『クロスボウ』の威力を!! とある世界ではその凶悪な威力により、戦時中においても使用を禁止された素敵な武器だぁ!!  だぁーっつはっはっはっはっは!!」


 この場ではどう見ても、血走った目で叫んでいる村長が一番の悪役に見えた。


「…ぐっ、…貴様ら、一対一の戦いに、…卑怯であるぞ……」

このダメージを受けてまだ生きているのはさすが魔将軍といえたが、そのダメージは甚大なものでありもはや息も絶え絶えであった。

あれ?

カインはなんだか既視感を覚えて首をかしげた。


 決して文章をコピーしたわけではない。





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