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第七話

書きたいときに書いてしまえ



「誠、見ないほうがいい」


千春の声は震えていた。 けれど誠は、目をそらせなかった。


瓦礫の影に座り込むあの子ども。 うつろな目。 血のついた女性ものの服を握りしめたまま、 風に揺られても、ちのにおいに惹かれた虫が肌に止まっても、微動だにしない。


胸の奥が痛む。 息が詰まる。 何かが、ゆっくりと壊れていく。


その時だった。


――怒号。


「動くな!壁に手をつけ!」


誠と千春は反射的に振り向いた。


校舎の外壁の前で、 見覚えのある背中が押しつけられていた。


「……先生……?」


誠の声がかすれる。


そこにいたのは、 よく仲良くしていた、社会科の佐伯先生だった。 いつも穏やかで、 授業中に冗談を言ってクラスを笑わせてくれた、 あの佐伯先生。


今は両手を壁につかされ、 顔を横に押しつけられ、 銃を向けられている。


「反抗行為の疑い」 「生徒を扇動した疑い」 「夜間外出の疑い」


帝国兵が淡々と読み上げる。


疑い。 ただの疑い。


それだけで、 人はこうして壁に押しつけられる。


「ち、違います……私は……!」


せんせいが言いかけた瞬間、重くて、かたい 銃床が背中に叩きつけられた。


鈍い音。 先生が膝をつく。


千春が誠の袖を掴んだ。 指が震えている。


「誠……やめて……行こう……」


誠は動けなかった。 足が地面に縫い付けられたみたいに。


見ていることしかできない。


そして目をそらすこともできない


げんじつ 


帝国兵は無表情だった。 怒りも、迷いも、哀れみもない。 ただ“任務を遂行する機械”のように、 彼の腕を後ろで縛り上げる。


「連行する」


短い命令。 それだけで、 先生は引きずられるように歩かされていく。


誠は拳を握った。 爪が掌に食い込み、皮膚に傷をつける。


「……なんで……」


声にならない声が漏れた。


千春は泣きそうな顔で誠を見上げた。


「誠……お願い……行こう……」


誠はようやく視線を動かした。あのひとの背中が遠ざかっていく。 その向こうで、 子どもがまだ座り込んでいる。


世界が、 音を立てて変わっていく。


誠は千春の手を握った。 震えていたのは、 千春だけじゃなかった。


二人は歩き出した。 学校へ向かって。 でも、 もう“学校へ行く”という感覚ではなかった。


そこにあるのは、 かつての学校の形をした、 別の何かだった

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