表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第八話

教室の扉を開けた瞬間、 空気が変わったのがわかった。


黒板の前に、帝国兵が立っていた。


灰色の軍服。 無表情の面。 肩にかけた小銃が、教室の空気を圧迫している。


黒板には新しい教科書が積まれていた。


『帝国史概論』 『帝国語 初級』 『帝国統治下における市民の心得』


誠は眉をひそめた。


「……なんだよ、これ」


千春は小さく首を振る。


「わからない……でも、嫌な予感しかしない」


帝国兵が無機質な声で言った。


「本日より、帝国式教育を実施する。  反抗的態度は処罰の対象とする」


教室の空気が凍りついた。
















授業が始まると、 帝国の歴史を称賛する文章が読み上げられた。


「帝国は秩序をもたらす」 「帝国の統治は正義である」 「帝国に従うことは市民の義務である」


誠は吐き気がした。


だが、教室の中には―― その言葉に頷く生徒がいた。


「……帝国に逆らっても仕方ないよ」 「従っておけば安全なんだし」 「うちの親も、帝国の人に挨拶してた」


そんな声が、ひそひそと聞こえてくる。


千春は机の下で拳を握っていた。


「……なんで、そんなこと言えるの……」


誠は答えられなかった。 怒りと、理解できない気持ちが胸の奥で渦巻いていた。


















休み時間。 廊下で怒号が響いた。


「お前だろう、帝国の悪口を言っていたのは!」


帝国兵に腕を掴まれているのは、 誠のクラスの男子だった。


「ち、違う!俺は何も――」


「証言がある」


証言。 密告。


誠は息を呑んだ。


その“証言”をしたのは、 同じクラスの生徒だった。


目が合うと、 その生徒は誠から視線を逸らした。


「……なんで……」


千春が震える声で言った。


「なんで、友達を売るの……?」


誠は答えられなかった。 でも、胸の奥で何かが軋む音がした。


帝国兵は男子を連れて行った。 泣き叫ぶ声が、廊下に響く。


誰も止められない。 誰も助けられない。


助けようとすれば、 次は自分が連れて行かれる。


それが、この学校の“新しいルール”だった。




















授業に戻っても、 誠は教科書の文字が頭に入らなかった。


帝国の歴史。 帝国の正義。 帝国の秩序。


全部、嘘だ。


全部、押しつけだ。


全部、奪うための言葉だ。


誠は拳を握った。 爪が掌に食い込む。


「……ふざけんなよ……」


小さく呟いた声は、 自分でも驚くほど低かった。


千春が心配そうに覗き込む。


「誠……?」


誠は首を振った。


「なんでもない」


でも、胸の奥では 確かに何かが芽生えていた。


怒り。 拒絶。 反発。


そして―― 抗う意志。
































放課後。 誠と千春が帰ろうとしたとき、 校門の前で帝国兵が生徒を取り囲んでいた。


「身分証を見せろ」 「荷物を開けろ」 「反抗的態度は処罰する」


誠は睨みつけた。 兵士の無表情が、 機械のように見えた。


その瞬間――


背後から低い声がした。


「……おい、坊主。睨むだけなら誰でもできるぞ」


誠は振り返った。


そこに立っていたのは、 黒い外套を羽織り、 タバコをくわえた青年だった。


年齢は二十代前半。 目つきは鋭いのに、どこか静かだ。


彼は帝国兵に向かって声をかけた。


帝国語だ。しかし誠には何を言っているのかがわからない。


しばらくすると兵隊たちは彼に敬礼をし、

他の生徒のほうへ向かっていった。


この人も帝国人(しんりゃくしゃ)なのか?


「ここで突っかかっても死ぬだけだ。  怒りはしまっておけ。使いどころを間違えるな」


誠は言葉を失った。


青年はタバコを指で弾き、 灰を落とした。


「……お前みたいな目をした奴を、昔も見た。  抗う気があるなら――生き残れ」


そう言って、 青年は人混みに紛れて消えた。


誠は立ち尽くした。


胸の奥で、 怒りが、恐怖が、 そして何か別のものが、 静かに燃え始めていた。



感想、評価、ブクマをしていただけると考査が近いなかさぼって書いている作者の励みになるんで

ぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ