第四話
書けば書くほど自分とあこがれの作家さんとの隔絶した差を感じる今日この頃、、、
誠の声が途切れた。 部屋の中に、静寂が落ちる。
秒針の音が、やけに大きく響いた。
自身は体験したことがないはずなのに、なぜか情景を実際に見たことがあるかのように感じた。
悠真は、喉が乾いていることに気づいた。不思議と口の中が砂が入り込んだみたいにざらついている。
「……そんなことが、あったんですね」
自分の声が震えているのがわかった。 凛も、膝の上で握った手をぎゅっと固くしている。
誠はタバコに火をつけ、 部屋に紫煙をたなびかせる。
「爆撃は、あれが最初じゃ。 だが……兆しはもっと前からあった」
悠真は思わず顔を上げた。
「兆し……?」
誠は、壁にかけられた古い地図を指さした。 色あせた紙には、国境線が何度も書き換えられた跡がある。
「国と国の間で、睨み合いが続いとった。 資源の取り合い、領土の争い、 政治家同士の駆け引き……」
誠は淡々と語る。 怒りでも悲しみでもなく、 ただ“事実”として。
「わしらは学生じゃったからな。 どこか遠い世界の話だと思っとったからな。 まさか、自分の町が巻き込まれるとは…… 誰も思っとらんかった」
凛が小さく息を呑む。
「……じゃあ、戦争って…… ある日突然、始まるんじゃなくて…… 気づいたら近づいてきてた、ってことですか」
誠はゆっくり頷いた。
「そうじゃ。 わしら民衆が気付くころにはには、もう逃げ場はなかった」
悠真は、胸の奥がざわつくのを感じた。
誠の語りは、ただの昔話じゃない。 “現実”だ。
誠はタバコを灰皿に押しつけ、 再び口を開いた。
「……話を戻そうか。 爆撃のあと、すぐに奴らは来た。 帝国軍がな」
風鈴が、かすかに鳴った。
悠真は息を呑む。 誠の目が、再び“あの日”を見ていた
黒煙の向こうから、 規則正しい足音が近づいてきた。
金属の靴底がアスファルトを叩く音。 そのリズムは、まるで心臓の鼓動を奪いに来るような、 冷たく、無機質な響きだった。
「……誠、あれ……」
千春が震える指で、通りの先を指さした。
帝国軍の兵士たちが、 煙を割って姿を現した。
灰色の外套。 無表情な面頬。 銃口だけが、わずかに揺れている。
彼らもにんげんだとわかっているような気もするがのに、 ヒトの“気配”がまったくなかった。
まるで、 呼吸も、感情も、 すべて削ぎ落とされた“機械”のようだった。
「……ロボットみたいだ……」
思わず漏れた僕の声は、 自分でも驚くほど小さかった。
兵士たちは、 逃げ惑う住民を一瞥することもなく、 淡々と、冷徹に、 町を“処理”していく。
「男はこっちだ!」
怒号が響いた。
大人の男たちが、 次々と壁際に追い立てられ、 両手をついて後ろ向きに並ばされていく。
「やめろ!俺は何も――」 「黙れ!」
銃床が振り下ろされ、 男が地面に崩れ落ちた。
千春が息を呑む。 僕の袖を掴む手が、痛いほど強くなる。
「誠……帰ろう……ここ、危ない……」
帰る場所なんて、 もうどこにもないのに。
そのとき、 耳に刺さるような泣き声が聞こえた。
「おかあさん……おかあさん……!」
振り返ると、 瓦礫のそばに小さな子どもが座り込んでいた。
まだ幼い男の子。 両手で、 瓦礫に埋もれた女性の手を握っている。
その手は、 まだ温かいのだろう。
男の子は必死に揺さぶりながら泣いていた。
「起きてよ……ねえ……!」
千春が口元を押さえた。 涙がこぼれそうになっている。
僕は動けなかった。 足が地面に縫い付けられたみたいに。
帝国兵の一人が、 その子どもに近づいた。
銃から手を離したグローブが握られ、振り上げられる。
「やめろ……!」
気づいたら叫んでいた。 声が震えていた。
兵士は、 僕の方へ無表情に顔を向けた。
その目は、 人間の目じゃなかった。
怒りも、哀れみも、迷いもない。 ただ“任務を遂行するための器官”のような、 冷たい光だけが宿っていた。
千春が僕の腕を引いた。
「誠、だめ……!逃げよう……!」
僕は息を呑み、 子どもから目を離せないまま、 千春と一緒に路地裏へ駆け込んだ。
背後で、 兵士の足音が規則正しく響く。
その音は、 まるで世界が“別のもの”に書き換えられていく合図のようだった。
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