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第十話

テスト期間だぁ

その日の放課後、誠は家に帰る気になれなかった。


胸の奥がざわついていた。

帝国式の授業。

密告。

連れていかれた生徒が、

二、三日後にあざだらけで戻ってくる現実。


そして――

あの黒い外套の青年。


帝国兵に敬礼され、

帝国語で何かを話し、

兵士たちを追い払った男。


敵なのか、味方なのか。

侵略者なのか、それとも――。


誠は気づけば、

学校とは反対方向の道を歩いていた。


夕暮れの町は、

一週間前とは別の世界みたいに静かだった。


焼け焦げた匂い。

黒く煤けた壁。

軍靴の音だけが遠くで響く。


そのとき――

視界の端に、見覚えのある影が動いた。


黒い外套。

タバコの煙。


誠の心臓が跳ねた。


「……あの人だ」


気づけば、足が勝手に動いていた。


青年はゆっくりと歩いていく。

帝国兵の巡回ルートを避けるように、

人通りの少ない路地へ、さらに奥へ。


誠は距離を保ちながらつけていく。

胸が痛いほど鼓動している。


(何者なんだ……?

 帝国の人間なのか……?

 でも、あの目は……)


青年は古い雑居ビルの前で立ち止まった。

看板は半分落ち、窓は割れ、

誰も使っていないように見える。


誠は息を潜めて様子をうかがった。


青年はビルの脇にある、

薄暗い階段へと消えていった。


地下へ続く階段。


誠は迷った。


(行くべきじゃない。

 でも……知りたい。

 あの人が何者なのか……)


誠は一歩、階段に足をかけた。


その瞬間――


「……つけてくるなら、もっと上手くやれよ」


背後から声がした。


誠は凍りついた。


ゆっくり振り返ると、

青年がそこに立っていた。


いつのまにか、

誠の背後に回り込んでいた。


タバコの煙が、

薄暗い路地にゆらめく。


青年は誠を見下ろし、

口の端だけで笑った。


「坊主。

 好奇心で死ぬには、まだ早いぞ」


誠は喉が乾いて、声が出なかった。


青年はタバコを指で弾き、

灰を落とした。


「……で?

 何の用だ?」


その声は、

帝国兵の無機質な声とは違っていた。


冷たいのに、

どこか人間の温度があった。


誠はようやく言葉を絞り出した。


「……あなたは……

 帝国の人間じゃ、ないんですか」


青年は一瞬だけ目を細めた。


そして――

ゆっくりと首を横に振った。


「帝国の犬なんかじゃねえよ。

 俺は――“こっち側”の人間だ」


誠の心臓が大きく跳ねた。


青年は階段の方へ顎をしゃくった。


「来るなら来い。

 ただし、覚悟を持ってな」


誠は息を呑んだ。


この瞬間が、

自分の人生を変えることを、

本能で理解していた。


感想、評価を下さると定期考査で頭ぷすぷすさせてる作者が大変喜ぶと思います。

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