一方その頃
一方その頃。
「【従者の集会】を始めます」
魔女達と同じように、付き添いの従者達もお茶を囲んで座っていた。
巨大な植物を背景に、けれど主催者の従者が展開した結界魔法で身の安全は保証されている。綺麗な花が鳥を呑み干した姿を横目に見ながら、彼らはそれぞれ自己紹介をしていた。
と言っても、名前は呪である。
彼らは魔女ではないが、魔女に近しいものなので、なるべく名乗らない方向で意見は纏まっていた。
何せ、長い時を生きる魔女達の集会は数十年ぶり。つまり次の開催も数十年後。
となると、今のメンバーが集まるとは限らない。
そう考えると一度限りの邂逅になる可能性が高く、奇妙な縁にどうしたものかと黒の従者はお茶を飲みながら視線を彷徨わせた。
「うーん、こういう時って何を話せばいいか悩みますね」
そう言って明るく笑ったのは緑の従者だ。シャツに緑のエプロンをした、ひょろりとした男。
「そうだね。まさか僕と似た立場の人がこんなにいるとも思わなかったし」
小さく頷いたのは、小柄で華奢な男。上下とも真っ黒で、夜になれば闇に溶けて見えなくなってしまいそうだ。
「俺も驚いています。ですが女性の話は長いと言いますし、ただ黙って彼女たちを待っているのも暇ですから是非お話しましょう」
うっすら微笑みながらそう言ったのは眼鏡をかけた長身の男。銀のフレームが、巨大な植物たちの合間を縫って差し込む陽光をキラリと弾いた。
「と言っても……俺たちの場合、共通する話題なんて」
筋肉質な身体を丸めてちびちびお茶を飲んでいた大男は、話題と一緒に視線のやり場に困ってうろうろ目を彷徨わせた。
魔女の従者なので、話題と言えば魔女の話になる。
魔法の話も興味深いが、魔女の従者だからって全員が魔法に詳しいわけではない。
見た目の印象だが、それぞれ趣味も違いそうだ。
さてどうしたものか。
会話の隙間が生まれ、思わず黙り込む。
主催者の従者が口を開くより先に――その隙間に、赤の従者がすっと割り込んだ。
「みんなは魔女と既成事実つくれた?」
「「猥談かよ!!」」
ガッターンッと音を立て、黒と緑の従者が勢いよく立ち上がった。
「ちょっと待ってタイム! タイム!! おかしくない? おかしくない!? 魔女の従者の集会と銘打ってまずする会話がおかしくない!? 従者としてNGな内容じゃない!?」
「そ、そもそもっ! 俺とあの人はそんな関係じゃなく……!!」
「うわゴリラ顔真っ赤」
「アンタ失礼だな!」
巨体をもじもじさせる黒の従者は汗をかくほど赤くなっていた。その姿を見て思わず緑の従者が安堵する。
「いやその筋肉の割に純情なんだね君。俺はすごく安心した」
「アンタはちょっと筋肉付けろ!」
「付かないんです仕方がないんですー! 戦うのは俺に向いていないんですー! でも魔女さんは俺に戦闘を求めていないからそれでいいんです! 俺はあの人が満足する日常を提供できればそれでいいんでー!」
引きつりながら胸を張る緑の従者に、銀の従者が該当人物を探して頷いた。
「貴方の魔女様は……あのふわふわした緑色の方でしたね」
「アッもう一回。もう一回言ってください最初の一言」
「貴方の魔女様」
「銀色の従者良い人!!」
「アンタちょろいな!?」
わっと盛り上がる黒と緑の従者に、銀の従者は男が盛り上がるのはいつだってこの話題かと頷いた。
そもそも全員、魔女に対して恋愛感情を抱いているのか、など聞かない。
好きだろ。
反応から見て、詳細はともかく、好きだろう。
ちなみに言い出しっぺの赤いの従者は、じっと盛り上がる彼らを凝視している。暗闇から様子を窺う黒猫のようだった。
そしてチョロいと言われた緑の従者は、唇を尖らせながら黒の従者に向き合った。
「ゴリラの魔女は……確か、黒かったね」
「あの人がゴリラみたいな言い方やめろ!」
呼び方が失礼すぎる為、感動も何もなかった。
「離れるのを不安そうにしていたあなたに、さっさと行けと顎で示した姿は、とても漢らしい魔女様だと思ったのですが……」
「というか、貴方の筋肉はあの魔女に鍛えられたの?」
銀と赤の従者の言葉に、黒の従者はグッと何かを堪えるように頷いた。
「……魔法も武術も教えてもらった……一度も勝ったためしはないけど……!」
「わかる……」
「勝てませんね……」
「押し倒したら勝てるんじゃない?」
「出来るわけがない!」
「あっ、だめだこの人そもそもそっちの根性がない」
わっと真っ赤な顔を覆って小さくなった黒の従者から視線をずらして、緑の従者は座ったままの二人を振り返った。
「銀の従者の魔女様は眼鏡の知的美人……だったよね。従者も眼鏡ってのがインテリ組って感じで面白いね」
「本当に失礼ですね君。まあ、インテリは否定できませんけど」
そう言って展開している魔法陣を見る。
人が魔法を使うのに必要な魔法陣。これは、緻密な計算が必要になるので強い魔法が使える人ほど知能が高い。
つまりそういうことだ。
「銀の魔女さんすごいイケナイ女教師って感じ強かった。俺はふわふわしている女の人のほうが好きだけど」
「色気が強烈だったな。俺はさばさばしている方が好きだけど」
「僕は頼りになるのに自信なさげな方が好き」
好き勝手言う面々に、銀の従者が嘆息した。
「あなた方、自分の欲求に正直ですね……まあ、あの人を狙うならそれ相応の覚悟を持って死んでもらいましたけど」
「「ですよね」」
「多分それはみんなが思っているよ」
意見の一致に、全員が頷いた。
してはいけない部分での満場一致。
「ちなみに既成事実はそのうち作るつもりです」
「まさかの問題発言!!」
「なんだこのお色気眼鏡主従はっ」
「俺はあの人以外のものになる気はないし、あの人が誰かのものになるのも許せないので」
「うん、よくわかる」
「……」
「……」
視線を交わし合った銀と赤の従者は、無言で互いの手を握り合った。
「無言で握手するのやめてくれます!?」
「いや待て言い出しっぺ……アンタまさか……!」
ここで黒の従者が気付いた。
言われて緑の従者もハッとした顔をした。
銀の従者は先達者を見るような眼差しで赤の従者を見ている。
赤の従者は、感情の読めない顔でふと息をつき。
「ところで僕の村では魔女が子供を食べる言い伝えがあったんだけれど」
何か語り出した。
「急な話題転換」
「ああ、ありますよねどこにでもそう言う出鱈目」
「どこでもやっぱり恐れられているのか……」
「僕の魔女はそんなことをしない心優しい魔女だったんだけど、」
赤の従者はそこで言葉を止めた。
伝える事を迷い、考え―――。
「色々あって」
端折った。
「食べてくれなかったので、僕が食べました」
「「審議!!」」
大事な部分をカットした赤の従者に、黒と緑の従者が喚く。しかしその騒ぎを無視して、銀の従者が問いかけた。
「どうやったらそんな流れに持って行けますか」
「僕の魔女様は押しに弱いから死ぬ気で押しに押した。銀の魔女様なら自分のペースを崩されるのに弱そうだから、立て直す暇を与えなければいけるかと」
「やっぱりそう思います?」
「逃げて銀の魔女さんマジ逃げて!」
やっぱりとか言っている時点で計画がありそうで怖い。
そこでようやく、赤の従者が二人を振り返る。
「緑の従者さんは親子意識改革からだと思う」
「デスヨネ知ってた!!」
「ゴリラさんはご自身のメンタル強化から頑張って!」
「ここ一番のいい笑顔!!」
「誰が豆腐メンタルだ!」
わあわあ大騒ぎした結果、従者達は「煩い」と黒の魔女に纏めて巨大植物の隣に埋められた。
その年の魔女集会は、そんなぐだぐだで幕を閉じたのだった。
タイプの違う男達だけれど、幸いなことに皆魔女一筋だったので争いが起こらなか……起こっている。
似た境遇の人が居てちょっとテンション上がっていた。




