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魔女達のティータイム  作者: こう


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あの日の手の平2


 月日が、過ぎる。

 村の悪習は続いており、何年かに一度、魔女は山に捨てられた子供を連れて戻ってきた。

 同郷の人間ということもあり世話を任されることも多く、年を取り青年となった子供は魔女が望む通りに子供たちに学を与え、里親を探し、子供たちをよその村へと逃がし続けた。


「……あの村はいつまで続けるつもりなのかしら……このままだと里親を見つけるのも苦労するわ」

「……大丈夫。僕が何とかするから」

「たまには私が里親探しをするわ。魔法で人間らしくすることだってできるし、前はずっとそうしてきたんだもの」

「ううん、僕にやらせて。僕にはそれくらいしかできないから」

「まったく……なら任せるわ」


 困ったように微笑みながら、魔女は優しく青年の頬を撫でる。

 幼い日から続く、慈雨の愛撫。指先からの愛している。青年はそれを、静かに受け止めた。

 この魔女がそう触れてくれるのが、何よりの喜びだった。


 そんな会話をした、数日後のこと。


 魔女がまた、幼い子供を拾ってきた。

 かつての自分と同じように、生贄にされた子供。

 今までも何度か見てきたのと同じように。魔女に怯えて人間の青年に安堵する――ことはなかった。

 その子供は、かつての自分と同じように。

 自分を撫でる魔女の腕に、縋りついていた。


「坊や」


 優しい眼差しで、痩せた頬を撫でる。

 愛しさを滲ませた目で、哀れな子供を包み込む。


「坊や」


 その目は、こちらを見ていない。

 腕に抱いた幼子に向けられている。

 優しい指先の愛撫も、眼差しの慈雨も。


 ―――違うでしょう。


「坊や?」


 不思議そうな黄金が、やっとこちらを見た。


「……貴方は、僕だけのものだ」


 一体何が起きたのか。


 魔女が拾って来た幼子は、その腕から青年に引きずり出された。止める間もなく翻った銀色が、幼子の首を掻き切っていた。

 足元に転がる小さな身体に見向きもせず、青年は愕然とした魔女を掻き抱いている。その力は強く、我に返った魔女には振り解くことも突き放すことも出来そうにない。

 魔女は、魔は強いが筋力は普通の女と変わらなかった。


「なんてことを……なんてことをするの坊や。こんな……」

「今までだって、こうしてきたよ」

「坊や?」

「助けてくれた貴方を恐れるような奴らは、全部僕が切り刻んできた」


 貴方に気付かれないように。

 里親に出したなんて嘘をついて。

 切り刻んで川に捨てた。


「貴方の愛は僕にだけ。僕にだけ与えてくれればそれでよかったのに……貴方を愛するのは僕だけで良かったのに」


 それでも優しい貴方は、自分を理由に捨てられた子供を見捨てられない。

 恩知らずな子供たちを処理し続けた結果、魔法の腕は身につかなかったけれど、肉を切り刻む技術と証拠隠滅はどんどん上手になっていった。


 魔女はいつもと変わりない声音で、しかし真っ赤に染まった青年に戸惑いを隠せない。

 だってこの子は今、自分が抱いていた幼い子供を。

 足元を見下そうとする動作は、青年の抱きしめる力が強くて邪魔される。頑なに、下を見ないよう固定されていた。

 唇が震える。


「……この子は、まだ、なにも」

「ううん、僕にはわかる。この子はあなたを愛するよ。誰よりも何よりも」


 僕がそうだったように。


 ただただ肯定し、慈しみ、愛する。

 弱った心に、魔女の愛は強すぎる。


 魔女の見た目を恐れていた愚か者ならばいい。愚か者は見目の恐怖だけでその愛を拒否するから。魔女は悲しがるが、その分受け取られなかった愛は彼のものになる。

 ――見目を恐れない者はダメだ。愚かでないからこそ、その愛が偽りないと分かるからこそ、独占したくなる。

 捨てられたものにとって、無償の愛が存在しないことはわかり切ったこと。その愛を手に入れる為なら、何だって出来る。

 なんだって。


「もっと早く、決断するべきだった……あの村の奴らを皆殺しにしてくる」


 まるで、お使いに行くことを報告する気軽さで。


「だってあの村の習慣はなくせない。そうなるとあなたはこれからも子供を拾ってくる。優しいあなたは見捨てられない。じゃあどうすればいいか」


 これでもずっと考えていたんです。同じ境遇の子供たちを処理しながら。

 繰り返される悪習。その度子供を拾ってくる魔女。分け隔てなく愛情を持って接する、慈悲深き魔女。

 どうすればあなたの愛が、僕にだけ向けられるかを。


「簡単なこと。村がなければいい」


 無くなればいいとは何度も思ったのに、それを自分でしようと思わなかったことが敗因だったと青年は笑う。


「ほら、そうなれば、もう誰も捨てられない。貴方は誰も拾ってこない。貴方の愛は僕だけのモノ」


 なんて素敵なことでしょう。青年はうっとりと、陶酔した笑顔を浮かべる。

 戸惑ったまま揺れる魔女の手を取って、その手の平に唇を寄せた。

 手の平から手首へと唇が移動する。柔らかな唇から覗く白い歯が、魔女の浅黒い肌を食んだ。

 あの村で人喰い魔女と恐れられる存在に、牙を立てる。


「僕だけを見て。僕だけを愛して―――僕だけの魔女様」


 愛に飢えた青年は、誰もが恐れる人食い魔女に喰らいついた。





「……馬鹿な、子ね……」


 白んだ空の光がうっすら差し込む部屋の中。

 安心したように隣で眠る青年の髪を撫でながら、魔女は擦れた声で繰り返した。


「貴方は本当に、賢いのに馬鹿な子……」


 並ぶ子供達を始末しなくても、ずっと傍にいてくれる青年を、魔女は特別に想っていたのに。


「馬鹿な子……」


 魔女はハラハラと涙を流し、血に塗れた檻に自ら入った。



・赤の魔女

浅黒い肌。三つ編み赤毛に爬虫類見たいな黄金の目。とんがり帽子のつばで顔を隠す。

・赤の従者

拾ってきたの? 僕以外を……?

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