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魔女達のティータイム  作者: こう


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あの日の温もり2


 不安の原因はわかっている。

 他の魔女の従者たちが、自分と比べて本当に規格外な輩だったのだ。


 他の魔女さんたちの従者みたく体は大きくならなかったし、頭もよくないし、すさまじい執念を持っているわけでもない。

 小柄な魔女さんの身長は追い越せた。抱き上げられていたあの日と違い、魔女さんを抱き上げることだって出来る。


 だけどそれだけなのだ。

 本当に、身体が成長しただけ。

 勉強しても魔法は使えない。武器を握ってみても怪我をするだけだった。


 ――俺って、役立たずじゃない?


 この魔女は、別に従者を比較して優劣をつけたりしない。

 他の魔女だってそうだろう。

 だが従者自身がどうしても比べてしまうのだ。


「でも甘えん坊なところはなかなかなおらないわね~」

「……別にあれはそういうんじゃないから!!」


 魔女さんの一番になりたくて、でも息子枠を抜け出せなくてどうしたらいいかわからず走った奇行だったと今なら思う。

 事を進めるつもりはなかった。ただ男として意識してもらえたら……そう突き進んだ結果、押し倒していた。

 嫌われる……拒否られる可能性もあり、行動に出た青年は恐慌状態だったのだが。

 押し倒された魔女はきょとんとした目をした後、晴れやかな笑顔を浮かべて青年の頭部をぎゅっと抱きしめ、背中をポンポンリズミカルに叩いて滑らかに寝かしつけた。


 寝かしつけられた。

 お休み三秒だった。


 違う、そうじゃない……!

 朝起きて隣に愛らしい寝顔があってもときめきより先に脱力感が勝った。

 嫌われなくて安堵したが、久しぶりに甘えられたと受け取り喜ぶ魔女さんも魔女さんである。違うってば!


「いつでも甘えてくれていいのよ~。お母さんその方が嬉しいわ!」

「だから違うってば……もう俺そんなに子供じゃないですしぃ……? あと母親より……」


 もごもごと、後ろの言葉はなかなか口に出せずに飲み込んだ。

 行動で伝わらないのなら、言葉にしなくてはいけないと分かっている。むしろ言葉にしてから行動するのが普通だ。何をとちくるっていたんだ過去の自分。


 しかしそれが出来ない。突き動かされる様な行動は出来ても、言葉にしようとすれば急に喉がきゅっとして、詰まって、声が出なくなる。


 言葉にしたら、言葉が返って来るのが当然だ。

 言葉に出したら、それを撤回することなどできない。

 だから、彼はその言葉を口にできずにいた。


 だってこの人に捨てられてしまえば、否定されてしまえば。

 世界から否定されるのと同じだ。


 もごもごし始めた青年を見て、魔女さんはくすくす笑う。

 こちらの気持ちなどお構いなしに……もしかしたら、全部わかった上で、それでも仕方がない子ねと言うように。


「可愛い子」


 そう言って、笑うのだ。

 その言葉に、甘えていた。


 それから数か月後。

 死の病が流行り出した。


 どんな薬も効かない不治の病。

 老若男女関係なく死に追いやるその病。


 ―――王宮から逃れた白の魔女が、病を運んできたという噂が、病と同じ速さで駆け巡った。


 魔女だ。魔女が病を持ってきた。

 魔女を捕らえろ。魔女を許すな。魔女を殺せば病は治るに違いない。


 賢者と呼ばれた緑の魔女は。

 病に対抗すべく薬を研究していた魔女は。

【魔女】だからと、村人たちに拘束された。


「ふざけるな……!!」


 悪しき魔女を火炙りにしろ。

 そう叫ぶ民衆の中、人々を必死に掻き分けて広場の中央へと向かう。

 殴られて、斬りつけられて、青年の身体はボロボロだった。それでも足を止めるわけにはいかなかった。


 死の病を運んだ魔女の仲間だと断じられて、緑の魔女が村人たちに連れて行かれた。

 その時傍に居た彼は、魔女を守ろうと必死に抵抗したのだが、男一人と武器を掲げた村人では数も力も圧倒的に負けていた。囲まれて殴られ気絶して、目を覚ましたら荒らされた家しか残っていなかった。


 目を覚ましてすぐ、青年は魔女を助けるために動き出した。


 不幸中の幸いとでもいうべきなのか、青年の身体はあちこちが痛むが走れないほどではない。彼は必死に走った。森を、道を、村を、人をかき分けて走った。


 そして辿り着いた広場の中央。

 十字架を模した木に括りつけられた、小柄な魔女の姿が目に映る。


 人ごみをかき分けて最前列に躍り出た青年と、今まさに火を掛けられそうな魔女の目が合う。

 魔女は驚いたように目を丸くして、それから焦ったように口を開く。


「来てはだめ!」


 そんなのもう、今更だ。


 魔女だけでなく、魔女を連れ去った村人も青年の姿に気付いていた。当然だ。血だらけの男が飛び出して来たら見る。それが、今まさに火炙りにしようとしている魔女の仲間――誑かされた人間だと、彼らは言っていた――だったらなおさらのこと。


 単騎突撃など莫迦のすること。

 もっと頭を使って、助けるために動くべきだ。

 だけどそんなことを考える余裕もなかった。時間もなかった。

 ただ認めたくなくて、我武者羅に走った。

 勿論そんな行動は、数の暴力の前にあっという間に抑え込まれた。


「放せ! やめろ! その人は悪くない! 病なんか持って来てない!!」

「煩い黙れ! 魔女に誑かされた人間め!」

「白の魔女は穢れを思わせないほど美しい女だと聞く。見た目に騙されるな! この魔女だって凶悪な化け物なんだ!」

「違う! 今までこの人の作る薬に助けられておきながら、おきながら……!!」


 何を叫んでも、取り押さえる手は止まらず、青年は地面に抑え込まれる。

 大量の罵声が飛び交い、誰が何を言っているのかわからない。悔しくて悔しくて、涙が溢れた。

 必死に足掻いて魔女の元へと足掻くが、青年一人を数人の大人が押さえているのだ。もがくことも難しい。


 涙に濡れた目で、必死に魔女を見上げる。

 見下ろせていた身長差はない。地面に抑え込まれる青年と、磔にされた魔女では幼いころよりも目線の高さに違いがあった。


「魔女さん……っ魔女さん!」


 貴方に捨てられたくなくて、ずっと傍に居たくて、そのために努力した。

 その多くは結果を出せずに終わったが、頑張る青年を励ます魔女はとても楽しそうだった。


 そんな日々が幸せだった。


 いつか別れがくることはわかっていた。

 自分が置いて逝くのだと分かっていた。


 でも、置いて逝かれるなど、考えたこともなかった!


 置いて逝かないで! 置いて逝かないで!

 置いて逝かれるくらいなら、今ここで一緒に――……!


「愛しているわ。可愛い子」


 罵声飛び交う喧噪の中。

 朗らかな、いつもの穏やかな声は、青年の耳によく響いた。


「可愛い子。例え血が繋がっていなくても、何も不安に思うことなんてなかったのよ」


 貴方が不安に思っていること、わかっていたわと魔女は言う。

 ずっと一緒にいたいと願われていたのも。

 母親に捨てられたから、親子関係ではずっと一緒にいられないと思っていたことも。

 だから傍に居るために、別の関係がなければいけないと思っていたことも知っている。ずっと一緒にいたいから、夫婦ならずっと一緒にいられると思っていたことも。


 困った可愛い子。


「貴方が私の目の届かない遠い場所に居ても。誰と幸せになっても。私はあなたのお母さんよ。ずっとずっと、愛しているわ」


 だから、ここで死んではだめよ。魔女と呼ばれた賢者は穏やかに告げる。

 その足元に、火をかけられても。

 ただ真っ直ぐ、育てた息子だけを見つめて。


「愛しているわ。私の息子」






「――――――お母さん!」



・緑の魔女

バブみが強い。息子(従者)が可愛くて仕方がない親馬鹿。いくつになっても我が子は可愛い。絶対捨てないと息子を安心させることができなかったのが悔やまれる。

・緑の従者

マザコン。母親(魔女)がいつまでも若く美しいのでずっと一緒にいる為に夫婦になるしかないのでは? と迷走していた。親に捨てられたので、親子関係はいつか捨てられて終わると思っていた。

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