その頃彼らは
急遽行われた魔女集会に問答無用でくっついてきた従者達は、黒の魔女によって別室へ放り込まれた。
魔法で拡張された客室は、黒の従者がしょっちゅう掃除をしていたので埃一つない。ちなみに人数分の椅子は用意されたが、それだけだった。後は知らねぇ自分で用意しろ、という魔女無言の訴えが聞こえる。
その部屋で従者達は。
ある者は両の握りこぶしを高く天に掲げ。
ある者は椅子に座って拍手を送り。
ある者は地面に四つん這いになり。
ある者はテーブルに突っ伏して頭を抱えていた。
「やりやがったよ、こいつやりやがったよ!」
頭を抱えた緑の従者は、会ってすぐ勝利のポーズをとった銀の従者の意図を察してしまい思わず叫んだ。
「なんでだ……なんでこんな短期間に……!」
「時間じゃなくて覚悟とタイミングだから」
「ぐぅ……!」
地面に突っ伏して嘆くのは黒の従者。彼は全く進展しない自分と違い一気に進展した従者への嫉妬と祝福で身悶えていた。そんな彼にとどめを刺すのは、殺傷力の高い攻撃に自信のある赤の従者だ。
無言で勝利をアピールしていた銀の従者は、すっと拳を降ろした。
やり遂げた男は、頬を染めながら満足げだった。
「あれから魔女様が、俺を見るたび冷静な自分を保てなくてオロオロする様子がとても……とても可愛らしいのです」
「わかるな……僕を見るたび震えてこちらを伺ってくる様子がとても……閉じ込めたいほどに愛おしいよね」
「ねえそれ、本当にわかり合えている?」
頷き合っているのに温度差が違う気がして緑の従者は顔を引きつらせた。
銀の従者は浮かれているが、赤の従者はひんやりねっとりとした湿度を感じる。
「そもそも! 二人そろってなんで育ての魔女さんをGETできてんですか! おかしくない!? 魔女様達って結構な強引マイウェイなのに!!」
「さっきも言ったけど覚悟とタイミングだよ」
「後は強気の一手ですね。落とすと決めたのなら殺される覚悟で迫らなければ」
「覚悟が思ったより重い!」
大真面目な顔をして返された言葉にドンびく緑の従者だが、黒の従者は頭を抱えて唸りだした。
「強気……やっぱり今の関係性を壊す覚悟と行動力がないとダメなのか……? 自分の意志をゴリ押すなら、力の限り行かないと……?」
「ゴリラさんしっかりして! 君の場合は返り討ちにあう未来しか見えないから!」
「いい加減ゴリラって呼ぶな!」
「もう印象がそれなんですよなんだよその筋肉羨ましいな!」
いつの間にか膝を抱えて小さくなっていた黒の従者の背を、緑の従者が叩く。
手の平が真っ赤になった。
その様子を見ていた銀と赤の従者が、呼び名について考える。
「ゴリラが嫌なら豆腐かな」
「豆腐メンタルからですか。どちらがいいですか」
「何その究極の選択。しかも正反対すぎる」
「外見と中身の強度が伴ってない所為かな」
肉体は強靱なのに、精神が惰弱過ぎた。
「と言うかほんとになんでです!? 俺なんて魔女さん押し倒しても普通に寝かしつけられて終わったのになんでですか! なんで君らは成功してるんですか!」
「アンタ実行済みだったのか!」
覚悟と強気の一手を繰り出して失敗したらしい緑の従者に、一気に哀れみの視線が集まった。
「タイミングが、悪かったのかもしれませんね……」
「脈なしなだけじゃないかな」
「畜生!」
憐れみを隠さずフォローする銀の従者に対して、赤の従者は容赦なかった。緑の従者は涙目で丸くなる。オロオロした黒の従者がそっと卵を触るような手付きで背中を撫でた。
「どんなシチュエーションだったのか知らないけど……本当に自分だけの魔女にしたいなら、もっと死に物狂いで動かないとあっという間に死ぬよ。僕たちが」
「やめろ抉るな……! 共通の問題だろそれは!」
「時間問題だしてこないでー!」
赤の従者の言動は、いつだって殺傷力が高かった。
浮かれていた銀の従者も、スンッと表情を無くす。
「……俺も突き刺さりました。魔女様を手に入れて満足で終わってはいけませんね」
「そう。そこが終わりじゃないから。僕は僕の魔女がいつまでも僕のもので居て欲しいから、生きている間にすることが多くて暇じゃないよ。目指したい関係があるなら動かないとあっという間に時間がなくなるのは僕らの方なんだから」
赤の従者の目はいつだって狩りをする猫のように爛々としている。
「こいつ目はやばいけど真理なんだよね……目はやばいけど」
「一体何をする気なんだと気になるけど知りたくない」
「俺は魔女様と話し合ってから色々決めたいですね」
「強引だっただろうに、そこ良心的なんだね君……」
むしろ手に入れてからが本番だったと、銀の従者は気を引き締めた。
時間は、誰にも手を出せない領域だ。銀の従者は身長も見た目も魔女を追い越した。作業によっては魔女より上手く熟せる自信もある。しかしこれからは魔女を置き去りに、自分はどんどん成長していく。
強引に迫ったが、悲しませたい訳ではない。
捕まえることばかり考えていたが、捕まえたからには、逃げられないようにしなくては。
銀の魔女は流されやすい部分があるので、こちらの意見ばかり押しつけないよう気を付けなければならない。
その辺り自覚のある銀の従者だった。
「ちなみに、世間に目を向けるのも大事だよ。世界は僕たちだけで完結してくれないからね。油断していたらどこの馬の骨とも知らない男が魔女様に近寄る可能性だってあるんだ。自分だけが魔女の特別と思っていたら痛い目を見るよ」
「君本当に抉って来るね!!」
「全部殺して証拠隠滅してもバレる時はバレるから」
「君本当に危ない子だね!」
ちなみに彼らは赤の従者の所業を知らないが、なんとなく醸し出す空気からやってそうだなと察していた。
言葉の刃で刺された従者達は気を引き締めたが、黒の従者はしおしおと萎れていた。
「俺は……別に恋人とか、そう言う関係にならなくてもいいから……一緒にいられる間は一緒にいたい……」
黒の魔女のことは大好きだ。きっとこれは恋だろうと、自覚している。
しかし恋人のようになりたいかと問われれば、頷けない。だって魔女と彼ではあまりにも立場が、生物としての価値観が違いすぎる。
大事にされている自覚はある。あの魔女は、無価値なものに興味を示さない。
だから彼は、命の続く限り……彼女の傍にいたいと、ずっとそう願っている。
愛されているなら、恋してくれなくてもいい。
想い合ってしまえば、魔女を置いて逝く未来が耐えられない。こちらが勝手に想っているだけだから、勝手に傍にいたいと思っているだけだから、それを許してくれるだけでいいと思っていた。
豆腐メンタルと言われる彼は、すっかり消沈していた。
しかし彼らは容赦なかった。
「ゴリラさん泣き入っちゃった」
「ゴリラの目にも涙だね」
「もう豆腐さんでいいのでは」
「アンタら俺に辛辣だよな!」
誰も慰めてくれなかった。
そもそも、と緑の従者はしょぼくれた黒の従者の肩に手を置いた。全力で揺さぶる。
「一緒にいたいとか、それ大前提ですから! ずっと一緒にいられる関係になりたいから必死なの、わかる!? ずっと一緒にいるための関係ってあるでしょ! それになるため必死なんだよこっちは!」
「わかったから肩から手を放せ! 揺らすな!」
「何で俺ががくがく揺さぶってるのにびくともしないのこの筋肉! 俺が揺れるだけってどゆこと!? 憎らしいな筋肉!」
「全員で行けば揺れるかも」
「魔法を付け足したら倒れますかね」
わらわらと黒の従者を倒そうと近付く従者達に、黒の従者はハッとひらいめいた顔をした。
「……わかったぞアンタら単に筋肉に嫉妬してるだけだな! 揃いも揃ってもやしだから!」
全員の顔から表情が消えた。
図星だった。
黒の従者はすぐにしょげる精神だが、肉体は屈強だった。男の憧れる筋肉を持っていた。
それで魔法が使えないならまだ許せたが、この男、魔法も使える。脳筋に見えて、魔法陣の計算ができるのだ。
つまり魔法戦士。
男が一度は憧れる「魔法も戦闘もできるハイパー戦士」だった。
そして他の従者。
……残念なことに、悉く筋肉の付かない体質だった。
とくに……幼少期の貧困で肉が付きづらく、身長にも恵まれなかった赤の従者が、すっと懐からナイフを取り出した。
「……その喧嘩買う。暗殺技術なら僕の方が上」
「知識量で俺に勝てると思わないでくださいね」
「俺に求められてるのはそこじゃないんで別に? 気にしていませんし? ……ってガチでやめてくださいよ!? 君たち半分人間やめてる部類だってわかってる!? 一般人が実は俺だけだって気付いてます!? やめて壁壊さないで! 魔女さーん!! お宅の従者が! やばい奴です!!」
暴れ出す従者達に、危険を覚えた緑の従者が思わず叫ぶ。
その通報を受けて、暴れ出した従者三人を、家主の魔女が鎮圧した。
黒の魔女は連帯責任と言って、従者全員を庭に埋めた。
「前回といい今回といい、おい。いい加減にしろよテメェら。大人しく待てができないなら次から拘束しとくからな。こんなふうによ。図体ばっかでかくなっただけの餓鬼どもが。魔女の本気がそんなに知りてぇのかこら」
「おやめなさい黒の! 貴方の本気は流石にダメよ!」
「お願い殺さないであげて! いい子なの! 本当はとてもいい子なの!」
「でも暴れようとしたのはよくないわね~。ここは黒の魔女ちゃんのお家だし。皆ちゃんとごめんなさいしましょうね?」
他の魔女達の取りなしによって、なんとか謝罪は受け入れられた。
土だらけになった従者達のしょんぼりした顔を眺め、黒の魔女は解散の空気になったのを確認して嘆息した。
「つーかもうこれ魔女集会っつーよりただの女子会じゃん?」
「今までこんなに短期間で顔を合わせたことなかったわね」
「お願い次もなるべく早く……他の意見が聞きたいの……!」
「次も近いうちに会いそうね……」
「皆に会えるの嬉しいわ。また今度、女子会しましょう!」
「女子会でいいのかよ」
黒の魔女は呆れたように笑い、緑の魔女は明るく笑った。
銀と赤の魔女は視線を交わし、困ったように微笑み合う。
笑顔を零す魔女達を見て、従者達も肩の力を抜いていた。
――約束は、呪である。
わかっていたから、彼らは誰も頷かなかった。
大騒ぎする男子生徒に制裁を下す女子生徒みたいな流れ。
ちなみに従者達が埋められるのは二度目。茶会の度に埋められている。
予定話数を大幅に超えて16話で完結します。




