ティータイム再び1
ある日突然、黒の魔女の家が魔女集会の会場になった。
「魔女集会を、開催します……!」
「なぁなんであたしの家ではじめた? でもって今回、開催期間狭くない?」
「いつもは数十年後なのに、数年後にまた顔を合わせるなんて思わなかったわ~」
「一体何があったのかしら……? 顔色が悪いわよ、銀の魔女」
突然銀の魔女からの招待状が届いたと思ったら開催場所が拠点だった黒の魔女は不満そうに部屋を拡張した。
呼ばれて素直に赴いた赤の魔女と緑の魔女は、不思議そうに首を傾げている。
銀の魔女は項垂れるようにティーテーブルに肘を突き、深刻そうに呻いた。
「今回の議題は従者の子についてよ」
「前回も似たような結果で終わったじゃねーか。語り足りないってのか。親馬鹿か?」
「そうじゃない。そうじゃないの!」
(どうしましょう……シンパシーを感じるわ)
不満そうだった黒の魔女だが、銀の魔女の様子を見て次第にニヤニヤと笑い出した。一方赤の魔女は、頭を抱える銀の魔女を見て察してしまった。
兎に……なったのね……と。
「急だったからお茶菓子持ってこられなかったのよね。でもお茶は持って来たのよ! 気分が落ち着くハーブティーを入れるわね~」
一人緑の魔女は、取り乱す彼女の為にお茶の用意を始めた。
魔法で現れたティーポット。くるくると水を操り沸騰させる所からはじめた緑の魔女を横目に、銀の魔女の呻き声は続いた。
「優秀な子に教育していたはずなのに……いい子に躾けていたはずなのに……とても勉強熱心ないい子に育ったのに……それなのに何故、あんなイケナイ子に育ってしまったの……!!」
「あっ、これ食われたな」
「あけすけすぎるわ黒の!!」
ニヤニヤと面白そうに笑う黒の魔女は完全に小悪魔だった。
赤の魔女は大変共感できたので、銀の魔女に寄り添って背を撫でた。そんな彼女に、銀の魔女が縋り付く。
「助けて赤の魔女! もう訳がわからないわ! あの子を見るだけでおかしな動悸がしてくるの!」
「わかるわ、わかるから落ち着いて銀の! いつも冷静な貴方を取り戻して!」
「アンタもな」
普段の冷静沈着をどこへ置いてきたのか、涙目で狼狽える姿は焼き菓子が進む。黒の魔女は自分の前にだけクッキーを出して傍観の構えになった。
「お茶を淹れてきたわ~。皆で温かいお茶を飲んで一息つきましょう~」
「うわ緑の魔女強い」
しかしにっこり笑顔の緑の魔女によって、強制的に参加させられた。
魔女の得意分野は、それぞれ違う。
黒の魔女は暴れるのが大好きだ。
銀の魔女は学ぶのが大好きだ。
赤の魔女は育てるのが大好きだ。
そして緑の魔女は、薬を作るのが大好きだ。
そんな緑の魔女は薬草に詳しく、ハーブティーも鎮静の効果があったのか、あっという間に大人しくなった。
しおしおと、勢いの良かった銀の魔女が萎れていく。
「……わたくしは……わたくしは、教育者としてあの子を導いていたはずなのに……」
「ええ、わかるわ。育てている子の幸せを考えていたのに……」
「育て方を間違えたなどと言うつもりはないわ。あの子はとても優秀で、知的好奇心旺盛で、わたくしの期待にはいつも応えて……でも、でも違う……! わたくしは別に伴侶を育てていたわけでは……!」
「ええ、ええ。わかっているわ。私たちはただあの子たちが苦労しないようにと思って……」
鎮静効いているだろうか?
大声を出さなくなったが切々と訴える銀の魔女と共感する赤の魔女を見ながら、黒の魔女は行儀悪くお茶を啜った。
うまい。
「何より、あんなはしたないことをどこで覚えてきたというの……!」
「わかるわ! 教えていないのに一体どうして……!」
「雄の本能だろ」
「黙って黒の!」
育てた人間に下剋上された二人はひしっと寄り添いながら威嚇した。
「一体わたくしの何がいけなかったというの……?」
「教育の空気かな」
「わたくし何もしていないわ!」
嘆く銀の魔女を見ながら、いつも通りだったんだろうなと思う。
普通にしているだけでイケナイ空気を出してしまう魔女なので、結果としては当然の結果だ。しかも自覚がないので対策も何もない。天然である。むしろこの魔女と二人きりで、あの年齢までよく耐えたものだ。
「気まぐれだったのに……ちょっと育てるのが愉しくなったのは認めるけれど! 理想の異性を育てたつもりはないのよ……!」
「傍に理想の女がいたんだから、その女の理想を目指すに決まってんだろ」
「私の理想とだいぶかけ離れているわよ!?」
「やだ、最初から決まっていたというの!?」
「銀のは理想ばっちり合致なんだな」
「はっ……!!」
本当に迷走しているようで愉しい。黒の魔女はニッコニコだった。
黒の魔女は混沌がわりと好きだ。
「もしかして、二人は後悔しているのかしら?」
騒ぎの中、緑の魔女の言葉はやけに響いた。
黒の魔女の拠点が襲撃されたのは、黒の魔女は呼んでも来てくれない可能性があったから。




