第94話 『沈んだ都と、ねじれた回廊』
久しぶりの投稿になってしまい申し訳ございません。
古びた井戸の前に立ち、ユークは重い空気を肌で感じていた。
地下から吹き上げてくる風は、ただ冷たいだけでなく、何か“異質なもの”を含んでいる。
(……魔力の流れが乱れている。何かがおかしい)
万能適応の効果で、ユークの五感は自然とこの異常を察知していた。
まるでこの地の空間そのものが、外の世界と“ずれて”いるような感覚。
「ここが、“ナスラム”の入口かしら」
セリナが井戸を覗き込みながら呟く。
ユークは階段の縁に足をかけ、静かに降りていった。
井戸の底から続いていたのは、滑らかに削られた石の回廊。
だが、十数歩進んだところで、ユークは足を止めた。
(……重力の感覚が、変わった?)
気づけば、壁だと思っていた面が足元になり、天井だったはずの空間に階段が続いていた。
目の錯覚ではない。空間が“ねじれている”。
「ユーク、これ……地形がおかしいわ」
「ああ。普通の構造じゃない。これは……魔法でもなく、もっと根源的な“歪み”だ」
ユークは壁に手を触れた。硬いはずの石が、わずかに鼓動するような感触を返してくる。
(この場所……生きてるのか?)
そんな馬鹿な、と思いながらも、万能適応が警戒信号を発し続けていた。
この空間には、理屈では説明できない“何か”がある。
さらに奥へ進むと、広大な空間が開けた。
だが、そこに広がっていたのは――逆さまに浮かぶ建物、空中にねじれた橋、止まったままの砂の川。
すべてが、「常識」とは違う法則で存在していた。
「これが……“ナスラム”の残骸?」
セリナは辺りを見渡すも、目に映るものの意味を理解しきれず、ただ息を呑んだ。
「……違う」
ユークは小さく呟いた。
「これは、“都市の遺跡”なんかじゃない。“誰かの精神”が具現化した空間だ。思考の迷路みたいなもんだ」
万能適応の感覚は、どこからともなく微弱な“敵意”のようなものを感じ取っていた。
この都市は、何かを拒んでいる。侵入者を――“排除しよう”としている。
その瞬間、空間の片隅で音がした。
「……誰か、いるの?」
セリナが小声で尋ねる。
ユークは剣に手をかけ、答えた。
「いや。何かが、俺たちを見てる」
次の瞬間、遠くから“笑い声”が響いた――
子供のような、高く、不気味な声。
その音に導かれるように、ねじれた橋の奥から“影”が現れた。
(来るか……!)
ユークは構えを取りながら、静かに言った。
「ここから先は、気を抜くな。何が起きても不思議じゃないぞ」
読んでいただきありがとうごさいます!
この作品が面白かったら、感想、ブグマ&評価(下の星マーク)をお願いします!




