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第80話 刻印の書を開く者

 黒い霧の獣が断末魔のような唸り声を上げ、霧散していく。


「……終わった?」


 セリナが慎重に魔力探知を行う。


「ええ。もう敵の気配は完全に消えたわ」


 ユークは剣を収め、前方にそびえ立つ石造りの扉を見上げた。戦いの余韻を残しつつも、そこに新たな変化が生じていた。


 扉に刻まれた古代文字が淡く発光し始める。


「守護者を倒したことで、封印が緩んだのか……」


 やがて、扉はゆっくりと開かれていった。


 その奥には、静寂に包まれた地下の一室が広がっていた。中央には厳重に固定された台座があり、その上には一冊の分厚い書物が鎮座していた。


「……これが、刻印の書」


 ユークは慎重に近づき、表紙を確認する。黒い模様が絡み合うように描かれたそれは、ただの書物ではないと直感的に理解できた。


「間違いないわ。学長——グラン・ロウヴァンが話していた、封印を解く鍵よ」


 セリナも確信を込めて頷く。


 ユークはゆっくりとその本を開こうとした——その瞬間。


 バチッ——!


 鋭い魔力の衝撃が発生し、ユークとセリナは反射的に後退する。


「っ!?」


「……拒絶反応?」


 セリナが眉をひそめる。ユークはじっと刻印の書を見つめた。


「この書、簡単には読ませてくれないみたいだな……」


 ユークは剣の柄を握りながら、慎重に近づく。


「試してみる」


「え……?」


 セリナが止める間もなく、ユークは再び刻印の書に手を伸ばした。


 その瞬間——


 バチバチッ……!


 本が淡い光を放ち、ユークの手に熱が走る。


「っ……!」


 だが、今度は弾かれなかった。むしろ、ユークの手が書に吸い寄せられるように感じる。


「ユーク……あなた……」


 セリナの瞳が揺れる。


 ユークの脳裏に、グランの言葉が蘇る。


「封印を解くためには、三つの条件がある」


「魔力探知を極めし者」


「刻印の書を解読する者」


「適応する者」


 ——適応する者。それが、ユーク自身。


「……だから、俺はこの書に拒絶されなかったんだ」


 ページがゆっくりとめくられ、古代文字が浮かび上がる。


「読める……」


 ユークは驚きと共に呟いた。


「えっ……? 私には、ただの古い文字の羅列にしか見えないけど……」


 セリナが覗き込んでも、その文字を解読することはできなかった。


 ——ユークだけが、読むことを許されている。


「この書は、適応する者——俺のために開かれる本だったんだ……」


 彼こそが、「封印を解く資格」を持つ者。


 そして、この学都ルミナスに施された封印を解く鍵を握る者——。

読んでいただきありがとうごさいます!

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