第76話 封印の鍵と学長の決断
ルミナス学都の中心部にそびえる学術院本館。その最奥に位置する学長室の扉を、ユークは強く叩いた。
「……入れ」
中から響いたのは、低く威厳に満ちた声。
ユークとセリナは目を交わし、ゆっくりと扉を開ける。
重厚な書棚に囲まれた部屋の奥、巨大な机の向こうに座る男——学都ルミナスの学長、グラン・ロウヴァンが鋭い眼差しを向けてきた。
「ようこそ、ユーク・アーデル。君とはいずれ話す機会があると思っていたが……まさか、このような状況で訪れることになるとはな」
長い白髪を背に流し、深い蒼のローブをまとった老賢者。その瞳には、全てを見透かすような光が宿っている。
「学長……単刀直入に聞きます」
ユークは鋭い視線を向け、言葉を続けた。
「この学都には封印が施されている。そして、それはローブの男が仕掛けたものだ」
「……ほう」
グランは目を細め、深く頷く。
「なるほど。やはり君は気づいたか」
その言葉に、セリナが驚いたように顔を上げた。
「学長……ご存じだったのですか?」
「無論だ」
グランは静かに立ち上がり、壁に掛けられた古びた地図を指し示した。
「このルミナス学都は、かつて“古の封印”の守護を担う地だった。そしてその核となるのが——封印の鍵だ」
「封印の鍵……!」
ユークは眉をひそめる。
「それが今、どうなっているのか知っていますか?」
グランは一瞬だけ沈黙した後、静かに答えた。
「……おそらく、ローブの男が奪った」
「……ッ!」
セリナが息を呑む。
「では……この封印は?」
「既に発動している。君たちが戦っている間にな」
グランは重々しく言葉を紡いだ。
「学都は、外界から完全に遮断された。今この瞬間、誰もこの地を出ることはできない」
ユークは拳を握りしめる。
(奴の目的は、俺たちをここに閉じ込めることだったのか……)
「だが」
グランはユークの表情を見据え、続ける。
「封印は完全ではない」
「……どういうことです?」
「“封印の鍵”は奪われた。しかし、封印そのものを解く手段がないわけではない」
グランは机の引き出しを開き、一冊の分厚い書物を取り出した。
「これは、“古の封印”について記された文献だ。ここに記されている方法を用いれば、封印を強制解除できる可能性がある」
ユークはその本を受け取り、パラパラとめくる。
そこに記されていたのは、封印を打ち破るために必要な三つの鍵——
1.魔力探知を極めし者
2.刻印の書を解読する者
3.“適応する者”
「……適応する者?」
ユークは違和感を覚えた。
(まさか……)
グランはユークを見据え、ゆっくりと頷く。
「“万能適応”を持つ君こそ、この封印を解く鍵の一つなのだ」
「……俺が?」
ユークの目が鋭く光る。
封印を破るために必要な三つの要素——
そのうちの一つが、まさか自分自身だったとは。
「……面白くなってきたな」
ユークは剣の柄を握りしめ、ゆっくりと息をつく。
(だったら、やるしかない)
封印を破るため、そしてローブの男の本当の目的を探るため——
ユークは、次なる行動を決意した。




