第75話 閉ざされた学都
霧が晴れた学都の広場を、ユークとセリナは駆けていた。
戦いは終わったはずなのに、胸の奥に重くのしかかる違和感が拭えない。
ローブの男は倒した。だが……
「……ユーク、やっぱり妙だわ」
セリナが立ち止まり、目を閉じると、両手を胸の前で組んだ。
「……《魔力探知》」
淡い青白い光が、セリナの掌から広がる。
魔力探知——
それは、周囲に漂う魔力の流れを読み取り、隠された異常や痕跡を感知する技術だった。
高度な魔導士やヒーラーが用いることが多く、特に封印や結界の存在を見極めるのに適している。
セリナもこの技術を得意としており、治癒魔法の際に患者の魔力の乱れを察知するために鍛えてきた能力だった。
「……っ! これ……」
セリナが驚きに目を見開く。
「何か見つけたのか?」
「うん。でも……信じられない。まるで、学都全体に……何かの”封印”がかけられているみたい」
「封印……?」
「ええ。私たちが戦っていた間に、外側から何かが……」
セリナの顔が青ざめる。
「この学都は、今”閉じ込められている”のかもしれない……!」
ユークの目が鋭く光る。
(ローブの男の目的は……これだったのか!?)
ただの奇襲ではない。
ユークと戦いながらも、奴は別の”何か”を仕掛けていた——。
「……急ごう、セリナ」
ユークは迷いなく歩き出す。
「どこへ?」
「学長のところだ。もしこの学都全体に異変が起きているなら、学長が何かを知っているはずだ」
「分かった!」
セリナも頷き、ユークの後を追う。
学都の静寂の中、二人の足音だけが響いていた。
学長室へと続く扉の前——
そこで二人は異変に気づいた。
「……開かない?」
ユークが扉を押すが、びくともしない。
鍵がかかっているわけではない。だが、何か目に見えない力が扉を封じている。
「ユーク、これ……!」
セリナが扉に手をかざし、再び魔力探知を試みる。
だが、今度は先ほどと違い、強い拒絶の力を感じた。
「やっぱり……封印魔法がかかってる。でも、ただの結界じゃないわ。何か”内側”から抑え込まれてるような感じがする……」
「内側……?」
まるで、学長室の中にある何かが、外部との接触を遮断しているかのようだ。
「セリナ、解除できるか?」
「試してみるわ」
セリナが集中し、封印解除の術式を唱え始める。
だが——
「……っ!? こ、これ……!」
「どうした?」
「私の魔力が……吸われていく!?」
セリナが驚きの声を上げる。
封印を解こうとした瞬間、まるで魔力を逆流させるかのように、セリナの魔力が吸い取られそうになっていた。
「やめろ!」
ユークはすぐにセリナの肩を引き、封印から引き離した。
直後、扉に張られていた魔法陣が淡く光を放つ。
「……やはり、これは奴の仕掛けた罠か」
「でも、ローブの男は……!」
ユークの脳裏に、戦いの最中に聞いた言葉が蘇る。
「君の”選択”が……未来を決める」
その”選択”とは、一体何だったのか?
——その時、
バキィッ……!
扉の向こうから、何かが砕けるような音が響いた。
「今の音……!?」
セリナが息をのむ。
次の瞬間、扉の向こうから低く響く声が聞こえた。
「……よく、ここまで気づいたな」
——聞き覚えのない声。
「……誰だ?」
ユークは剣を構える。
「まさか、学長が……?」
セリナの声にも、不安が滲む。
だが、次に聞こえた言葉が、二人の予想を覆した。
「——お前たちは”鍵”に触れてしまったのだ」
扉に張られた封印が、一瞬だけ赤く光る。
何かが、動き始めている。
ユークとセリナは、ただならぬ気配を感じながら、学長室の扉を睨みつけた——。
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