第72話 選ばれし者
ユークの剣先が朝霧を切り裂く。
——だが、ローブの男は微動だにしなかった。
その薄ら笑いを浮かべた表情は、まるで結果を知っているかのような余裕に満ちている。
「さて……どうする?」
ローブの男の声が響く。
その瞬間、空気が変わった。
「……ッ!」
ユークの足元に、漆黒の魔力が広がる。
次の瞬間——
「ユーク!!」
セリナがユークの腕を掴む。
ユークは即座に剣を振るい、足元からせり上がる闇の触手を断ち切った。
ギィィィン!!
「さすがだな」
ローブの男が口元を歪める。
「何を……企んでいる」
ユークは剣を構えたまま、冷たい視線を向ける。
「お前の目的は黒の書ではなかったのか?」
「黒の書? ……ふふ、そう焦るな。黒の書は、ほんの一部に過ぎない」
「……どういう意味だ」
「君は”選ばれた”のだよ。だからこそ——私の示す道を進むべきだ」
ユークの表情が険しくなる。
「……選ばれた?」
ローブの男はゆっくりとフードを押さえ、瞳だけをユークに向ける。
「“選択”の先にある未来——君はその”鍵”だ」
「ふざけるな……!」
ユークが踏み込む。
剣が鋭くローブの男を斬り裂こうとする——
——だが、ローブの男は影となって霧の中に溶け込んだ。
「逃がすか……!」
ユークは即座に動こうとしたが——
「ユーク、待って!」
セリナが腕を掴む。
「今、追っても……罠かもしれない」
「……っ」
ユークは歯を食いしばりながら剣を納めた。
「まだ、終わりじゃない……」
ユークは低く呟く。
その時——
ザッ……ザッ……
足音が響いた。
ユークとセリナが一斉に振り返る。
霧の向こうに、再び黒いローブのシルエットがぼんやりと浮かび上がる。
「……消えていない?」
セリナが驚きの声を漏らす。
「……消えたんじゃない。存在を”隠した”だけだ」
ユークの声が低く響く。
ローブの男が、口元を歪める。
「フフ……さすがだな。だが、理解したところで意味はない」
「なぜだ」
「君が”選ばれた”以上、君の運命は既に決まっている……」
ユークが剣を握る手に力を込めた瞬間——
「いずれまた会おう——“鍵”よ」
霧が濃くなる。
ローブの男の姿が薄れていく——だが、完全には消えていない。
その瞳だけが、じっとユークを見据えていた。
「ユーク……」
セリナが不安そうにユークを見つめる。
「行ったか……?」
「いや、まだだ」
ユークは剣を下ろしつつ、霧の中に残る僅かな魔力の気配を感じ取っていた。
(奴は……この学都に潜んでいる)
ローブの男の気配が遠のいていく中、ユークは瞳を鋭く細めた。
「次こそ——決着をつける」
「ユーク……」
セリナがユークの手をそっと握る。
ユークは軽く頷いた。
その時——
ビリ……ビリ……!
「……ッ!?」
突如、空間が歪む。
ローブの男が残した魔力が、闇となって広がり始める。
「これは……!」
ユークが剣を構える。
「さあ、選べ」
ローブの男の声が、空間に響く。
漆黒の魔力が触手のように絡みつき、ユークとセリナを包み込もうとする。
「選ばせる気か……!」
ユークの瞳が鋭く光る。
「——万能適応!!」
ユークの体から光が放たれる。
手にした剣に赤と青の魔力が絡みつく。
「フレイム・スラッシュ!」
燃え盛る炎を纏った剣が、漆黒の触手を一閃する。
炎が闇を焼き尽くす——
「やるじゃないか」
ローブの男が笑う。
「——だが、次はどうかな?」
「なら……試してみるか」
ユークは剣を持ち直す。
「フロスト・エッジ!」
剣に宿った青い魔力が、空気を凍てつかせる。
氷の刃が地面を伝い、触手を次々と凍らせていく。
「まだだ……!」
ユークは更に剣を振るう。
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