第71話 選択を迫る影
学都の朝。
朝霧が薄く漂う石畳の道を、ユークは静かに歩いていた。
昨日、ローブの男が姿を見せたことで、学都内に微かな緊張が広がっている。
だが、ユーク自身はそれに動じることなく、冷静に状況を整理していた。
(黒の書……それを持つ者の狙いは何だ)
選択の間で交わされた言葉が脳裏にこだまする。
ローブの男の不気味な存在感と、彼が語った「選択」の意味——。
「ユーク!」
振り返ると、セリナが小走りに駆け寄ってきた。
彼女は少し息を切らしながら、ユークの横に並ぶ。
「朝から一人で出歩いて……何かあったの?」
「……考え事をしていた」
「ローブの男のこと?」
ユークは小さく頷く。
「昨日のこと、引きずってるの?」
「引きずっているわけじゃない。ただ——」
ユークは目を伏せる。
ローブの男が語った「選択」という言葉が、胸に引っかかっていた。
「……ユーク」
セリナはユークの顔を覗き込む。
「私にも話して。あなた一人だけで抱え込む必要はないわ」
「……セリナ」
「一人で戦おうとしないで。私はあなたの味方だから」
セリナの真っ直ぐな瞳が、ユークの視線を受け止める。
彼女の言葉に、一瞬ユークの胸にわずかな温かさが広がった。
「……わかった」
ユークが小さく息をついたその時——
「……ッ!」
ユークの表情が鋭くなる。
「どうしたの?」
「……嫌な気配だ」
ユークは剣を抜き、セリナを庇うように前に出る。
朝の霧の中に、黒いローブの影がゆっくりと現れる。
「待っていたぞ」
ローブの男の声が広場に響く。
「また……お前か」
ユークの目が鋭く光る。
「今度こそ、お前に選ばせてもらおう」
ローブの男は微かに口元を歪めた。
「選ばせる……?」
「次の選択が——お前の運命を決める」
ユークは剣を構え、ローブの男を睨み据える。
「……なら、その選択——受けて立つ」
剣先が朝霧を切り裂いた瞬間——
ローブの男が静かに笑った。
「——面白い」
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