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第69話 静かな夜に現れる影

 学都の夜は静かだった。


 夜空に浮かぶ満月が、石畳を淡く照らしている。


 その光の下を、ユークとセリナが並んで歩いていた。


「……静かね」


 セリナがポツリと呟く。


「そうだな」


 ユークは短く返事をしながら、月を見上げた。


「最近、少しは落ち着いたか?」


「ええ……でも、まだ不安になる時があるわ」


 セリナは静かに微笑む。


「あなたがいてくれるから、なんとか持ちこたえているのかもしれないけど……」


 ユークは無言でセリナの手を取った。


 セリナは一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに穏やかに微笑んだ。


「ユーク……?」


「俺がいる。だから大丈夫だ」


 セリナの頬が、わずかに赤く染まる。


「……ありがとう。でも、私もあなたを支えたい」


「お前がいてくれるだけで十分だ」


 セリナはユークの言葉を聞いて、優しく微笑んだ。


 その時——


「……ユーク」


 セリナが小さく声を漏らす。


「どうした?」


「……なんだか、視線を感じるの」


 ユークの表情が鋭くなる。


「どこだ?」


「……あっちの路地……」


 ユークは素早く視線を向ける。


 石畳の奥、薄暗い路地に影が一つ——


「……気のせい、じゃないな」


 ユークは剣に手をかけながら、ゆっくりと歩み寄る。


 だが、ユークが一歩踏み出した瞬間——


「……久しいな」


 低く冷たい声が、路地から響いた。


 影から現れたのは、黒いローブを纏った男だった。


「……お前か」


 ユークの表情が、はっきりと険しくなる。


「なぜ、ここにいる」


 ローブの男は、フードの奥から不気味な笑みを浮かべた。


「フフ……再会を喜んでくれよ、ユーク」


「喜ぶだと……?」


 ユークの手が剣の柄を強く握りしめる。


「選択の間でお前が言ったこと……あれはどういう意味だった」


「意味? そのままの意味さ。お前の“選択”が本物かどうかを——」


「ふざけるな!!」


 ユークが怒気を含んだ声をあげた。


 セリナが驚いてユークの袖を掴む。


「ユーク、落ち着いて……!」


「落ち着けるわけがないだろう!!」


 ユークの視線が鋭くなる。


「選択の間でお前が言った“可能性”……あれが何を意味しているのか、俺にはわかっている」


「そうか」


 ローブの男が口元に笑みを浮かべる。


「ならば、話が早いな」


「俺を試すつもりか」


「そうだ」


「……何が目的だ」


「それを知る必要があるのか?」


 ユークの目が鋭くなる。


「あるさ。お前をここで消す理由になる」


 ユークが剣を抜いた瞬間、ローブの男が一瞬目を細める。


「……怒っているのか?」


「当然だ」


 ユークが低く言い放った。


「俺に“選ばせた”くせに、その結果を試すだと? ふざけるな!!」


「フフ……」


 ローブの男は微笑む。


「だからこそ、試す価値がある」


「……なら——」


 ユークが一歩踏み出した時——


「待って!!」


 セリナがユークの腕を掴む。


「ユーク、やめて! これは罠よ!」


 ローブの男がクスリと笑った。


「賢明な判断だ……だが——」


 次の瞬間——


「ッ!」


 ユークとセリナの周囲に、黒い魔力の波動が広がる。


「くっ……!」


「お前がどれほどの力を持っているか——それを知るのが、私の目的だ」


 ユークは剣を構え、ローブの男を鋭く睨みつける。


「……試すというなら、受けてやる」


「フフ……その時が来ればな」


 ローブの男が指を鳴らした瞬間、彼の姿が黒い霧となって消えた。


 ユークは剣を収めながら、深く息を吐く。


「……なんだったの……?」


「わからない……だが、これが“始まり”だ」


 ユークは険しい顔でセリナを守るように歩き出した。


 その瞳には、確かな怒りと決意が宿っていた。


読んでいただきありがとうごさいます!

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