第67話 『王家の謁見』
《王家の聖剣》を手にした翌日。
ユーク・アーデルとセリナ・エルフェリアは、王城への正式な謁見を許可された。
長く続く大理石の回廊を歩きながら、ユークは無意識に剣の柄に触れる。
その重みが、これからの戦いを物語っているようだった。
「ユーク、大丈夫?」
セリナが心配そうに隣から顔を覗き込む。
「……大丈夫だ」
ユークは短く答える。
けれど、心の中には一つの疑念が渦巻いていた。
《王家の聖剣》を手に入れた時、フードの男が言った「代償」の言葉が、未だに頭から離れない。
(本当に……俺の命が代償になるのか)
「ユーク」
セリナの手がユークの腕にそっと触れる。
「考えすぎないで」
「……セリナ」
「どんなことがあっても、私はユークを守るから」
ユークはセリナの瞳を見つめ、そして静かに頷いた。
「ありがとう」
二人が歩みを進めると、やがて巨大な扉の前に辿り着いた。
「ユーク・アーデル殿、セリナ・エルフェリア殿」
扉の前に立つ騎士が二人を見やる。
「これより、国王陛下との謁見に入ります」
「……わかった」
扉が静かに開く。
その先に広がるのは、豪奢な玉座の間だった。
金色に輝く装飾が施された壁に、深紅の絨毯が玉座へと続いている。
そして、その玉座に座していたのは——ルミナス王国の国王、その人だった。
ユークは膝をついて頭を下げる。
「ユーク・アーデル、参上いたしました」
「セリナ・エルフェリア、参上いたしました」
セリナは膝をつかず、国王と同じ目線で立っていた。
その姿に、玉座の間にいた廷臣たちはざわめく。
「セリナ、お前は……」
「王族としての誇りにかけて、私は膝をつきません」
セリナの言葉に、国王は静かに微笑んだ。
「顔を上げよ」
王の低く威厳に満ちた声が響く。
ユークが顔を上げると、王の鋭い青い瞳がまっすぐにこちらを見据えていた。
「そなたが《王家の聖剣》を手にした者か」
「……はい」
「見せよ」
ユークは静かに腰に手をやり、剣を取り出して両手で掲げる。
剣の刃が光を反射し、玉座の間にきらめきを放った。
「確かに……《王家の聖剣》」
王が立ち上がり、ユークに近づく。
その表情は厳しく、しかしどこか寂しげだった。
「剣を手にした者よ……そなたはこの剣の意味を理解しているのか?」
「……はい」
ユークは静かに答える。
「この剣は、黒の書を封じるために生まれた聖剣。
しかし、それを振るえば代償として命を捧げることになる……そう聞いています」
「……そうだ」
王が深く頷いた。
「そなたは覚悟を決めているのか?」
「……まだ、決めきれてはいません」
「それで良い」
王がユークの肩に手を置く。
「人は簡単に命を賭けるべきではない。
しかし、剣を手にした者には——いずれその時が訪れる」
「……その時が来た時、私はどうすればいいのでしょうか」
「それを決めるのは、そなた自身だ」
王がユークの剣に視線を落とす。
「剣は使う者の意思に応える。
もしそなたが命を捨てる覚悟を決めた時——剣はその力を解き放つだろう」
「……」
「だが、忘れるな。
そなたには、守るべきものがある」
王がセリナに目を向ける。
セリナは驚いたように目を見開いた。
「ユーク……」
「……わかっています」
ユークは剣を収め、立ち上がる。
「その時が来るまで、俺は戦い続けます」
「良い覚悟だ」
王が静かに頷いた。
「そなたに……王家の祝福を授けよう」
王が右手を掲げると、黄金の光がユークとセリナを包み込む。
「この加護が、そなたたちを導くであろう」
「感謝いたします、陛下」
ユークが跪き、頭を下げる。
王が再び玉座に戻ると、扉が開かれた。
「ユーク・アーデル、セリナ・エルフェリア」
「……陛下」
「行け。そして——自らの答えを見つけるのだ」
「……はい」
ユークとセリナは謁見の間を出る。
扉が閉まる直前——王の静かな呟きが聞こえた。
「……剣に選ばれし者よ……その運命が、試される時が来る」
——静かに、運命の歯車が回り始める音がした。
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