第63話『王の条件』
静寂が広がる謁見の間に、重厚な扉がゆっくりと開く音が響いた。
ユークとセリナは、王座に座る国王の前に立っていた。
その横には、王家の宰相と護衛騎士たちが控えている。
「して……《アルカナの塔》の長官からの使者というのは、そなたたちか?」
王は威厳に満ちた声で問いかけた。
その声には圧倒的な存在感がある。
「ユーク・アーデル。そしてセリナ・エルフェリア。ご挨拶申し上げます、陛下」
ユークは膝をついて頭を下げる。
セリナも同様に頭を下げたが、王はじっとセリナを見つめていた。
「そなた……」
王の目が細くなる。
「どこかで見たことがあると思ったが……まさか、セリナ・エルフェリアとはな」
「……陛下は、私のことをご存知なのですか?」
セリナが驚いたように顔を上げる。
「知っているとも。そなたの母——ロゼリア・エルフェリアには昔、大きな借りがあるからな」
「母が……?」
王は静かに頷いた。
「そなたの母はかつて王家のために尽力してくれた。黒の書に関する調査にも深く関与していた。
……そして、彼女はそれが原因で命を落としたのだ」
「……!」
セリナの胸に衝撃が走った。
「母は黒の書のために……?」
王はゆっくりと立ち上がる。
「私は、ロゼリアに報いるためにも——そなたの頼みを無下にはできない」
王が玉座から降りると、ユークとセリナの前に立った。
その瞳には揺るぎない力が宿っている。
「だが、《王の鍵》はそう簡単には渡せぬ」
「……条件がある、ということですか?」
ユークが鋭く問いかける。
「その通りだ」
王は静かに頷いた。
「《王の鍵》を授けるためには、ひとつ試練を受けてもらう。
それは……“王家の聖剣”に触れる資格があるかどうかを示すことだ」
「王家の聖剣?」
セリナが反応する。
「王家に代々伝わる聖剣——それに認められた者だけが《王の鍵》に触れる資格を持つ」
「聖剣……」
ユークが目を細める。
「その剣に認められるには、何をすればいい?」
「王家の聖剣に触れた者の“心”が試される」
王の目が鋭く光る。
「その剣は、“持つ者の心”を映す。正しき心を持つ者でなければ、剣は拒絶する。
もし不純な心であれば——剣は持つ者を焼き尽くすだろう」
「……なるほど」
ユークが剣を握る手に力を込める。
「だが、それなら問題はない」
「強気だな。だが、覚悟はできているのだろうな?」
「もちろんだ」
ユークはまっすぐに王の目を見据えた。
「それで、王家の聖剣はどこにある?」
「《聖なる間》だ」
王が玉座の後ろにある大きな扉を示す。
「王家の聖剣はそこに眠っている」
「すぐに試すことは可能か?」
ユークの言葉に、王は小さく笑った。
「今すぐにでもな」
ユークはセリナと一度視線を交わし、頷く。
「行くぞ、セリナ」
「……わかった」
ユークとセリナは王に一礼し、《聖なる間》の扉の前に立った。
「最後にひとつ、言っておく」
ユークが扉に手をかける直前に、王の声が響いた。
「王家の聖剣は心を試すだけではない。
その剣に拒絶されれば——命を失う可能性もある」
「……それでも、やるしかない」
ユークは力強く言った。
「黒の書を巡る真実を知るためには、ここを乗り越える必要がある」
「……ならば、見届けさせてもらおう」
王が静かに目を閉じる。
ユークは深く息を吸い込み、扉を押し開いた。
重厚な扉の向こうには、神聖な光が広がっていた。
中央の台座には、美しく輝く剣——王家の聖剣が静かに浮かんでいる。
「……これが王の剣か」
ユークは剣を見据えながら、ゆっくりと歩みを進める。
——その瞬間。
剣が強烈な光を放ち、空気が張り詰めた。
「ユーク!」
セリナの声が響く中、ユークは迷わず剣に手を伸ばした。
「試してやる——俺の覚悟を!」
ユークの手が剣に触れた瞬間、空間が一気に光に包まれた——。
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