第62話 『王の間への招待』
夜の空に、鐘の音が静かに響く。
ユークとセリナは《アルカナの塔》の広間に立っていた。淡い魔法灯の光が二人の影を長く床に落としている。
「……明日が晩餐会か」
ユークが低く呟いた。
長官から晩餐会への招待状を受け取ってから、すでに六日が経過していた。その間、ユークとセリナは王城に関する情報を集め、可能な限り準備を進めてきた。
「思ったよりも、情報が少なかったわね」
セリナが腕を組みながら言う。
「王城の見取り図は手に入ったが、王家の動きや《王の鍵》に関する記録はほとんど残されていない」
「隠している可能性が高いわね……それに、王の鍵を管理しているのが“国王”となると、そう簡単には近づけないはず」
「だからこそ、明日の晩餐会が重要になる」
ユークの表情は険しい。
「直接、国王と話す機会を作れればいいが……」
「でも、警戒されている可能性もあるわよね?」
「ああ。だからこそ、セリナ——お前にかかっている」
セリナがユークの言葉に目を見開いた。
「どういう意味?」
「王家とお前の王家が繋がっていたことが本当なら、お前が接触することで国王が反応を示す可能性がある」
「……挑発するつもり?」
「挑発ではない。だが、王がセリナに興味を示せば、自然と“王の鍵”に繋がる話が出てくるかもしれない」
セリナは一瞬、考え込むように視線を落とした後、小さく頷いた。
「……わかった。やってみる」
「無理をするな。俺もそばにいる」
ユークはセリナの目を真っ直ぐに見た。
「何が起きても——俺が守る」
「……ありがとう、ユーク」
セリナの表情が、少し和らぐ。
「さて——」
ユークが静かに立ち上がった。
「準備を始めよう。明日、すべてが動き出す」
翌日——
王城の門の前に、華やかな馬車が続々と到着していた。
晩餐会の夜——王族や貴族たちが集うこの夜は、一年の中でも特に格式の高い儀式であり、王国内外の有力者が一堂に会する特別な夜だ。
「すごい……」
セリナは豪華な衣装に身を包みながら、王城を見上げていた。
彼女が着ているのは深紅のドレス。ユークは黒のタキシードに身を包んでいる。
「似合ってるぞ、セリナ」
「ユークも……」
セリナは少し頬を赤らめながら、ユークの姿を見つめた。
「行くぞ」
ユークがセリナの手を取る。
二人が王城の門をくぐると、中庭にはすでに多くの来賓が集まっていた。
「……警備が厳しいな」
ユークが辺りを見回す。
王城の至るところに王家直属の騎士たちが立っていた。
「普通の晩餐会とは思えないわね……」
「何かがあるのかもしれないな」
「とにかく、自然に振る舞いましょう」
二人は用意された席に向かって歩き出した。
「おや……?」
突然、場内の一角から声が響いた。
「この場に“王家の血”を引く者がいるとは……」
声の主は、王城の執事長だった。
ユークとセリナがそちらに目を向けると、ゆったりとした紫のローブを羽織った壮年の男が、鋭い目つきでセリナを見ていた。
「まさか……セリナ様?」
「あなたは……?」
「私は王城の執事長、ダリウスと申します」
ダリウスは深く頭を下げる。
「まさか、“あの家”の娘がここに現れるとは思いませんでした」
「“あの家”……?」
ユークが眉をひそめる。
「セリナ様——あなたは王家にとって“特別な存在”です」
「どういうこと?」
ダリウスはセリナをじっと見つめた。
「国王陛下がお待ちです。ぜひ、謁見の間へお越しください」
「……謁見の間?」
「はい」
ダリウスは微笑む。
「陛下が“直接”お会いになりたいと仰っております」
ユークとセリナは目を合わせる。
「行くか?」
「……行くしかないわね」
二人は静かに頷き、ダリウスの後を歩き始めた。
——王の鍵と黒の書の謎。
その答えが、ついに王の間で明かされようとしていた——。
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