第61話 『王の鍵』
《アルカナの塔》の重厚な扉がゆっくりと開き、ユークとセリナは静かにその中へ足を踏み入れた。
前回の長官とのやり取りを終えた後、二人は《黒の書》を巡る新たな使命——《大図書館》への侵入という難題を抱えていた。
「《王の鍵》を手に入れるには、王城で開かれる《魔導晩餐会》に参加するしかない……」
ユークは腕を組みながら、鋭い眼差しで窓の外を見つめた。月明かりが窓ガラスに淡く反射し、室内に静かな光を落としている。
「……王城、ね」
セリナが小さく呟く。
「どうした?」
「……ううん。ただ……懐かしい感じがしただけ」
セリナの表情に、一瞬だけ翳りがよぎった。
ユークはそれに気付きながらも、あえて深くは追求しなかった。
「《魔導晩餐会》が一週間後に開かれる。それまでに準備を整える必要がある」
「そうね」
セリナが頷いたその時、部屋の扉がノックされた。
「ユーク様、セリナ様」
扉の向こうから、長官の側近である執事が姿を現した。
「晩餐会への招待状が届いております」
ユークは無言でそれを受け取り、中身を確認する。
「……二人分、か」
「王城への入城許可も同時に下りております」
「意外とスムーズだな」
「長官の根回しでしょうね」
セリナが微かに笑う。
「それと……」
執事が続ける。
「国王陛下から、特にセリナ様には“特別な意味”でお会いしたいとの申し出がありました」
「……私に?」
セリナの表情が硬くなる。
「国王陛下がセリナを知っているというのか?」
ユークの目が鋭くなる。
「その可能性が高いでしょう」
「……思い当たる節はあるか?」
ユークがセリナを見る。
セリナは一瞬だけ目を伏せた。
「……あるかもしれない」
「どういう意味だ?」
セリナは、深く息を吸い込んだ後、ゆっくりと語り始めた。
「私がまだ幼かった頃……父が王城に呼ばれたことがあるの。ルミナス王家と……私の王家は、昔から深く繋がっていたから」
「王家同士の繋がり、か……」
「でも、その時に……ある“事件”が起きたの」
「事件?」
セリナの表情が曇る。
「ルミナス王家の“王の鍵”が、一度行方不明になったの。だけど、なぜかその後……私の父がそれを見つけ出した」
「セリナの父が?」
「でも……それがどうして父の手に渡ったのかは、父自身も分からないと言っていたわ。ただ、父が鍵を返した後——ルミナス王家との関係は急に冷え込んでしまった」
「つまり……セリナの父は“王の鍵”に深く関わっていた?」
セリナは小さく頷く。
「もしかしたら、王家の中には“鍵を奪った犯人”がいて、それを父が突き止めてしまったのかもしれない。でも、父はそのことを最後まで話さなかった……」
「……なるほどな」
ユークは顎に手を当てる。
「王の鍵を巡る“謎”が、黒の書と繋がっている可能性がある、ということか」
「ええ」
「となると、セリナはすでに“王家に知られている存在”である可能性が高い」
「……たぶんね」
セリナの目に、不安の色がよぎる。
「ならば、王城での行動には注意が必要になるな」
「うん……」
ユークがセリナを真っ直ぐに見つめる。
「不安か?」
セリナは静かに微笑んだ。
「ユークが一緒なら、大丈夫」
「……セリナ」
ユークは彼女の肩に手を置く。
「どんなことがあっても、俺が守る」
「ありがとう、ユーク……」
その時——
窓の外から、低く響く鐘の音が夜空にこだました。
「時間だな」
ユークが窓を見上げる。
「準備を整えよう。晩餐会まで……あと六日だ」
「……うん」
セリナが小さく頷いた。
王の鍵を巡る謎、そして黒の書の真実。
物語の歯車が、ゆっくりと大きく回り始めていた——。
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