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第60話『《大図書館》への道』

 ユークとセリナは、《アルカナの塔》の長官室にいた。


 重厚な木製の扉が背後で静かに閉じる。

 室内には魔法灯の淡い光が揺らめき、壁には古い書物が整然と並んでいる。


 長官は椅子に腰を下ろし、鋭い視線をユークに向けた。


「……黒の書を封印したか」


「ああ」


 ユークは短く答える。


「だが、封印しただけだ。消滅したわけではない」


「その通りだ」


 長官が頷く。


「黒の書を完全に消し去ることはできない。

 なぜなら——それが《アルカナの塔》そのものだからだ」


「……どういう意味だ?」


 ユークが目を細める。


「黒の書に記された“禁忌”の力——

 それが《アルカナの塔》を支える根幹であるからだ」


「まさか……塔そのものが、黒の書の力で維持されている?」


「そうだ」


 長官が静かに頷く。


「この塔は、黒の書を封印するために築かれた。

 しかし同時に、黒の書の魔力を取り込むことで安定している」


「ならば、黒の書を封印したことで——」


「塔は徐々に力を失い始めている」


 ユークとセリナは顔を見合わせる。


「……つまり、このままでは塔が崩壊する可能性がある、ということ?」


「その通り」


 長官の表情は微動だにしない。


「しかし、黒の書を解放すれば——

 塔は元に戻る」


「それはできない」


 ユークが断言した。


「黒の書を解放すれば、禁忌の力が暴走する」


「ならば、選択肢は一つだ」


 長官が冷静に言い放つ。


「黒の書を——書き換えることだ」


「書き換える?」


「黒の書に記された“禁忌”を上書きし、新たな法則を刻む。

 それができれば、塔の崩壊も防げるだろう」


「……そんなことが可能なのか?」


「黒の書を書き換えるためには、書の“起源”を知る必要がある」


「起源……」


「黒の書がどのように生まれたのか——

 その答えが、《大図書館》にあるかもしれない」


「《大図書館》……」


 セリナが息をのむ。


「学都ルミナスの最奥にある、王家の特権者しか入ることができない場所……」


「そうだ」


 長官が深く頷く。


「《大図書館》には、黒の書に関する最古の記録が残されているはずだ」


「そこに入る方法は?」


「《王の鍵》を手に入れるしかない」


「王の鍵……?」


「《大図書館》への扉を開くことができる唯一の鍵。

 それを手にしているのは——ルミナス王家の現国王だ」


「つまり……王家に接触する必要がある、ということか」


「その通り」


 ユークの表情が険しくなる。


「だが、今の王家は《アルカナの塔》と距離を取っている。

 おそらく、黒の書に関する秘密を知っているからだろう」


「ならば、どうやって接触すれば……」


「一つだけ方法がある」


 長官が静かに目を細める。


「来週、王城で《魔導晩餐会》が開かれる。

 そこに“招待客”として紛れ込むのだ」


「……なるほど」


 ユークが腕を組む。


「王家と接触できれば、王の鍵の所在を探ることができるかもしれない」


「リスクは高いわ」


 セリナが不安そうに呟く。


「王家が敵に回ったら……」


「その可能性もある」


 ユークは低く言った。


「だが、やるしかない」


 ユークが剣を握る手に力を込める。


「俺たちが進むべき道は——一つしかない」


 セリナはユークを見つめる。


「……一緒に行くわ」


「セリナ……」


「ここまで一緒に来たのよ。

 最後まで付き合うわ」


「……ありがとう」


 ユークが小さく笑った。


「長官——晩餐会への“招待状”を用意してもらえるか?」


「すでに手配してある」


 長官が薄く笑う。


「君たちがここに来ることは、予想していたからな」


「……さすがだな」


 ユークが目を細める。


「その準備の良さ、逆に怖くなるぜ」


「賢明な判断を期待している」


 長官が立ち上がる。


「——晩餐会は七日後だ。

 それまでに準備を整えておけ」


「わかった」


 ユークが短く答える。


 長官が手を振ると、扉が静かに開く。


「さて——これからが本番だ」


 ユークとセリナは部屋を出る。


 扉が閉まる音が響いた後、長官は静かに呟いた。


「……果たして、君たちに“選べる”だろうか?」


 ——夜の空に、風が静かに吹き抜ける。


「ユーク……これからどうする?」


「決まってる」


 ユークが夜空を見上げる。


「黒の書の真実を探る。

 そのために——《大図書館》へ行く」


「でも……王家が敵に回ったら?」


「その時は……」


 ユークが剣を握る手に力を込めた。


「力尽くででも、真実を暴く」


 夜空に星が瞬いていた。


 ——《黒の書》の真実を巡る戦いは、まだ始まったばかりだった。

読んでいただきありがとうごさいます!

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