第59話 『隠された真実』
《アルカナの塔》の最深部を後にし、ユークとセリナは静かな夜の学都ルミナスを歩いていた。
街を包む夜風が頬を撫でる。空には満天の星が瞬き、静けさが辺りを支配している。
「……終わったわね」
セリナが隣で小さく呟く。
「ああ」
ユークはポケットに手を入れながら、ゆっくりと歩を進める。
《黒の書》は封印した。
ラザルフは意識を失っていたが、命に別状はないはずだ。
「黒の書を封印したことで、何かが変わった感じがする……?」
「いや」
ユークは首を振る。
「黒の書が完全に消滅したわけじゃない。封印しただけだ」
「……やっぱり」
セリナが俯く。
「いずれ、封印が破れる可能性もあるってこと?」
「可能性はゼロじゃない」
ユークの目が鋭く光る。
「だが、今はそれより——」
ユークは視線を上げ、塔の方を振り返る。
「ラザルフが“黒の書”の存在を知っていた理由を知る必要がある」
「そうね……あの時のラザルフの様子……」
セリナも考え込む。
「まるで、最初から黒の書が存在することを知っていたみたいだった」
「その通りだ」
ユークが鋭く言った。
「ラザルフがなぜ黒の書を知っていたのか……そして、どうして“万能適応”がその鍵になると知っていたのか」
「……つまり?」
「この件は、《アルカナの塔》の上層部が関わっている可能性がある」
ユークの目が険しくなる。
「ラザルフだけが独断で動いていたとは思えない」
「確かに……ラザルフは副長官。上層部に許可なく黒の書に関与することは難しいはずよね」
「となると、塔の長官か——あるいは、それ以上の存在か」
ユークの推測に、セリナの表情が強張る。
「黒の書を使って、何かを企んでいた……?」
「その可能性は高い」
ユークが立ち止まる。
そして——
「おかしいと思わないか?」
「……何が?」
「黒の書は“存在しない”と言われてきた。
それが、なぜ《アルカナの塔》にあった?」
「確かに……」
「黒の書が塔の最深部に眠っていたということは——」
ユークがゆっくりと口を開く。
「最初から《アルカナの塔》が黒の書を保管していた可能性がある」
「えっ……?」
「存在しないはずの黒の書が、塔の深部に封印されていた……」
ユークは険しい顔をする。
「つまり、塔の長官——あるいは、それ以上の存在が、意図的に黒の書を隠していたと考えるべきだ」
「それって……まさか……」
セリナの声が震える。
「もし、その黒の書を解放しようとしたのが……」
「塔の上層部自身だったとしたら?」
ユークが鋭く問いかける。
「ラザルフの言動を思い出せ。あれは“黒の書を解放”しようとしていた」
「でも……ユークが封印したから——」
「封印しただけだ」
ユークの声が低くなる。
「封印を解く方法を知っている者がいるなら、いずれまた動き出す可能性がある」
「……だとしたら?」
「——黒の書の本当の意味を探る必要がある」
ユークは目を細める。
「次は、黒の書の起源を辿る」
「でも、それって……」
「《アルカナの塔》ではなく——
《大図書館》に行く必要がある」
「大図書館……」
セリナが息を飲む。
「学都ルミナスの最奥にある、王家の特権者しか入れないと言われる場所……」
「そうだ。あそこなら黒の書に関する記録が残されているかもしれない」
「でも、どうやって入るの?」
「方法は——」
ユークが口を開こうとしたその時——
——ガチャッ
遠くで扉が開く音がした。
「誰……?」
セリナが振り返る。
「……まさか」
ユークが剣に手をかける。
すると——
「待っていたぞ」
影から現れたのは、黒いローブを纏った老人だった。
「……お前は……」
老人はフードを下ろし、にやりと笑う。
「初めましてだな。私は《アルカナの塔》の長官——」
「長官……?」
「黒の書に触れた者よ。
お前たちに話すべきことがある」
ユークの瞳が鋭く光る。
「……話してもらおうか」
ユークが剣を構え、セリナが杖を握る。
「ふむ……賢明な判断だ」
老人は笑みを浮かべ、ゆっくりと歩を進める。
「黒の書の真実を知る覚悟があるなら——ついてこい」
「……行くしかないみたいね」
「覚悟はできてる」
ユークはセリナと視線を交わし、ゆっくりと歩き出す。
——黒の書の真実が、今明かされようとしていた。
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