第56話 『第二の試練:心の間』
ユークとセリナが次の扉をくぐると、空気が一変した。
そこに広がっていたのは——
「……真っ白?」
視界いっぱいに広がる、白い空間。
床も天井も存在しているはずなのに、距離感がまるでつかめない。
「今度は戦闘じゃなさそうね」
セリナが弓を下ろし、慎重に辺りを見回す。
ユークも剣を抜いたまま、目を細める。
「これは……精神系の試練か?」
『——ようこそ、心の間へ』
声が響いた。
どこから聞こえてくるのか分からない。
まるで直接頭に語りかけられているような感覚。
『この試練では、お前たち自身の“心”と向き合ってもらう』
「心……?」
『己の中にある恐れ、過去、後悔——
それを乗り越えた時、試練は突破となる』
「そんな曖昧な条件でどうしろっていうんだ?」
『方法は自由だ。だが——』
——ザッ
ユークの前に、一人の男が現れた。
黒いローブを纏った、見覚えのある姿。
「……お前は——」
「久しぶりだな、ユーク」
ローブの男がフードを下ろす。
現れたのは、血の気のない顔。
ユークの記憶にこびりついた、忌まわしい存在。
「……お前は、死んだはずだ」
「そうだな。だが——俺はお前の“心”に刻み込まれている」
男が静かに微笑む。
「お前は俺を倒した。だが……本当に、俺は消えたのか?」
「……黙れ」
ユークが剣を構える。
「消えたかどうかは関係ない。俺はお前を——」
「ユーク!」
セリナの声が響いた。
彼女の前にもまた、一人の人物が現れていた。
「嘘……」
そこに立っていたのは——
「……お母さん?」
セリナの声が震える。
「どうして……ここに……」
「セリナ」
母親がゆっくりと近づいてくる。
優しい微笑みを浮かべながら——
「あなたは……わたしを助けてくれるのよね?」
「……そんな……」
セリナの瞳に迷いが生じる。
「セリナ、目を覚ませ!」
ユークが叫ぶ。
「それは……お前の“記憶”に現れた偽りだ!」
「でも……だって……」
「迷うな、セリナ!」
ユークは剣を振るい、ローブの男に向かって踏み込む。
「お前はただの幻影だ!」
——ギィィィン!!
剣と剣が激しくぶつかり合う。
男が不敵な笑みを浮かべる。
「本当にそう思っているのか?」
「……関係ない」
ユークの剣が再び振り下ろされる。
「俺は——お前に勝つ!」
ザシュッ!
剣が男の胸を貫いた瞬間——
——パリンッ!!
男の姿が砕け、霧散した。
「はぁ、はぁ……」
ユークが息を整える。
「セリナ!」
振り向くと、セリナは母親の幻影を前に、弓を震わせていた。
「お母さん……ごめんなさい……」
セリナは目を閉じ、深く息を吸う。
「あなたは……お母さんじゃない。
私の“迷い”が生み出した偽り……」
セリナがゆっくりと弓を引く。
「さよなら」
——スッ
矢が放たれ、幻影の胸を貫く。
母親の姿がゆっくりと消えていく。
「……よくやった」
ユークがそっとセリナの肩に手を置く。
セリナが微笑む。
「うん……ありがとう」
——パリンッ
白い空間が割れ、目の前に新たな扉が現れる。
『第二の試練、突破』
「……終わったか」
「まだよ」
セリナが新たな扉を見つめる。
「最後の試練が残ってる」
「……行くか」
ユークとセリナは扉に向かって歩き出した。
その背後で、ラザルフの声が響く。
『次が最後の試練——
全てを賭けた、真実の間だ』
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