第54話 『アルカナの塔への訪問』
宿を確保したユークとセリナは、すぐに《アルカナの塔》へと向かっていた。
「……本当にこんな時間に行くの?」
セリナが隣で呆れたように言う。
「早い方がいい。情報は鮮度が大事だからな」
ユークは淡々と答えながら、石畳を踏みしめる。
夕暮れに染まり始めた学都ルミナスの空は赤く、通りを行き交う人影が長く伸びていた。
「《アルカナの塔》は街の中央にあるって言ってたわね」
「ああ。早めに話を通しておきたい」
二人は通りを進み、やがて巨大な塔が視界に入った。
黒と白の大理石で築かれたその塔は、夕陽に照らされ、不気味なほどの威圧感を放っている。
——アルカナの塔。
魔導に関するあらゆる知識と記録が収められた、学都ルミナスの象徴。
入り口には二人の守衛が立っていた。
彼らは無表情で、ユークたちに視線を向ける。
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ」
「俺たちは“黒の書”について調べている。責任者に話を通してくれ」
ユークが一歩踏み出すと、守衛が目を細めた。
「“黒の書”? そんなものは存在しない」
「存在しない? それなら、なぜそんなに警戒している?」
「……それは——」
守衛が言い淀んだ時——
「話を聞こう」
低く響く声が割って入った。
黒いローブを纏った男が、塔の奥から現れる。
鋭い目つきと落ち着いた表情。その威圧感から、ただ者でないことがすぐに分かる。
「私は《アルカナの塔》の副長官、ラザルフだ」
ユークとセリナを見据えたまま、ラザルフは薄く笑った。
「“黒の書”について知りたいのだな? ならば、応えてやろう」
「本当に教えてくれるのか?」
「情報には“代価”が必要だ」
ラザルフの瞳が鋭く光る。
「試練を受けてもらう。その結果次第で、君たちに“黒の書”の情報を与えるとしよう」
ユークが目を細める。
「試練、か……」
「どうする? 逃げ出すなら今のうちだぞ」
「……冗談だろ?」
ユークは剣の柄を握り、口元に薄く笑みを浮かべた。
「試練とやら、受けてやるさ」
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