第52話 『——学都ルミナスへの旅立ち』
王都を出発してから、三日が経っていた。
ユークとセリナは王国の主要な街道を歩き、目的地である学都ルミナスへと向かっていた。王都での戦いの余韻がまだ胸に残っているものの、二人の足取りは軽かった。
セリナは横で歩きながら、弓を背負っている。彼女の金色の髪が、柔らかな風に揺れていた。
「ユーク、学都ルミナスって行ったことある?」
「いや、初めてだ」
ユークは前を見据えたまま答える。
「俺がいたパーティーは、ああいう知識の集まる場所とは縁がなかったからな」
「なるほど。まあ、あなたたちは“実戦派”だったものね」
「……そんなところだ」
ユークはふと昔の仲間の顔を思い浮かべたが、すぐに振り払った。
過去は過去だ。もう振り返る必要はない。
「セリナは行ったことがあるのか?」
「一度だけ。父が魔導院に用事があった時に、一緒に連れて行ってもらったの。でも、その時はただ建物を見て回ったくらいだったわ」
「魔導院か……」
学都ルミナスには、王国最大の魔導院——《アルカナの塔》がある。
世界中の知識と魔法が集められたその場所には、王国のトップクラスの魔導士たちが集っていると言われている。
「“黒の書”の手がかりは、そこにあるかもしれないってことか」
「ええ。でも、簡単には手に入らないと思う。黒の書は“禁忌”の扱いを受けているから」
「禁忌か……」
“黒の書”——古い伝承に記されている禁断の魔導書。
死を操る力を持つと言われており、歴史の中で何度か存在が確認されたが、その都度消えてしまったという。
「でも、もしそれが本当に存在しているなら……」
「俺たちが手を伸ばす必要があるかもしれない、ってことか」
「……ええ」
セリナの声が少し硬くなる。
「黒の書の力は、扱い方によっては世界を滅ぼす可能性があるわ。だから、悪意のある者に渡ったら……」
「ローブの男……」
ユークの目が鋭くなる。
ローブの男——アイツが黒の書を探している可能性は高い。
となれば、先に手を打たなければならない。
「ユーク!」
セリナの声に反応して剣を抜く。
——ザッ
道の先、森の影から何者かの気配が近づいてきた。
黒いフードをかぶった三人の男たちが、道を塞ぐように現れる。
「……何者だ?」
「旅の者か? ここを通りたければ、金を置いていけ」
先頭に立つ男が、ニヤリと笑った。
「山賊か……」
「どうする、ユーク?」
「決まってる」
ユークは剣を構える。
「……邪魔するなら、容赦はしない」
「ククッ、面白い。やってみろよ!」
男が叫ぶと同時に、二人の仲間が短剣を抜きながら突っ込んでくる。
——シュンッ!
ユークは即座に距離を詰め、剣を振るった。
一瞬で一人の山賊が吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。
「な……!? こいつ……速すぎる……!」
もう一人が怯えた声を上げるが——
——バシュッ!!
セリナが放った矢が、その男の足元を正確に射抜く。
男がバランスを崩した瞬間、ユークが一気に間合いを詰める。
「……終わりだ」
剣の刃が男の喉元に当てられる。
「ひ、ひぃっ……! わ、悪かった! 見逃してくれ!」
「……二度と旅人を襲うな」
ユークは剣を下ろし、男を睨みつける。
「消えろ」
「わ、わかった!」
山賊たちは転がるように逃げていく。
「……手際がいいわね」
セリナが微笑む。
「別に、あいつらに本気を出すほどじゃなかっただけだ」
「ふふっ、そうね」
ユークは剣を鞘に収め、歩き出す。
「学都ルミナスに着くのは、あと二日くらいか」
「ええ。そこからが本番よ」
「……わかってる」
ユークとセリナは再び並んで歩き出した。
“黒の書”の真実に近づくために——
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