幕間II『王都の夜』
王都の夜は静かだった。
戦いの喧騒が消え去り、人々はようやく安堵の中で眠りにつき始めている。
瓦礫に覆われていた通りは整えられ、折れた建物には修復の手が入れられていた。
王都の回復はまだ完全ではない。それでも、確かな前進が感じられる空気が街に漂っている。
そんな王都の一角——ギルドの屋上で、ユークは夜空を見上げていた。
満天の星が、静かに輝いている。
「……終わった、か」
ローブの男との死闘。
あの剣撃の感触はまだ手に残っている。
だが、アイツは最後に何かを呟いていた。
『——“黒の書”の本質を知る時、お前は絶望する』
あの言葉の意味——
黒の書は本当に存在するのか?
そして、それを追ってローブの男は再び姿を現すのか?
「考えたって、仕方ないか……」
ユークは小さく息をつき、剣の柄に手を添える。
「どうしてそんな顔してるの?」
振り返ると、セリナが屋上に上がってきていた。
彼女は弓を背にかけ、柔らかく微笑んでいる。
「……顔に出てたか?」
「ユークは分かりやすいから」
セリナはユークの隣に腰を下ろし、夜空を見上げる。
「“黒の書”のこと、気にしてるんでしょ?」
「……ああ」
「でも、焦る必要はないわ。ローブの男を撃退したのは、紛れもない事実なんだから」
ユークはセリナの横顔を見る。
彼女の金色の瞳には、月光が映り込んでいた。
「それに、黒の書が本当に存在するなら……学都ルミナスで何かわかるはずよ」
「……ルミナスか」
学都ルミナス——王国で最も知識と魔法が集まる地。
もし黒の書の真実を知る人物がいるとすれば、きっとあの場所にいるはずだ。
「私もついていくから」
セリナの声が優しく響く。
「一人で背負い込まないで。これからは、私がいるんだから」
ユークは少しだけ目を伏せ、微かに微笑む。
「……頼りにしてる」
「ふふっ、当然よ」
夜風が静かに二人を包む。
戦いの疲れがようやく体から抜けていく。
遠くで鐘の音が響く。
新たな旅の幕が、ゆっくりと上がろうとしていた——。
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