第49話 『再開の時』
夜の森は静まり返っていた。木々の隙間から差し込む月光が、地面に揺れる影を刻んでいる。ユークはその場に立ち尽くし、目を閉じたまま微かに漂う魔力の波動を感じ取っていた。
(……来た)
空気がざわめく。次の瞬間——
バッ
闇の中から放たれた刃がユークの顔をかすめた。ユークは一歩も動かずに剣を振るい、襲い来る攻撃を弾き飛ばす。
その剣撃は鋭く正確だった。まるで敵の動きを完全に読んでいたかのように。
「——やはり、君は素晴らしい」
暗闇から、低く冷たい声が響いた。
フッと闇が揺らぎ、そこにローブを纏った男が姿を現す。顔は影に隠され、表情は読めない。ただ、その黒衣の隙間から覗く瞳だけが赤く鈍く光っていた。
「……次に来たら、殺すと言ったはずだ」
ユークが剣を構え、冷たく言い放つ。
「覚えていますとも。ですが——」
ローブの男はゆっくりと手を上げると、彼の指先に闇が集まり始めた。
「君には“選ばれる資格”がある。だからこそ、君を試す必要がある」
「資格……?」
「“黒の書”の主になる資格だよ」
その瞬間——
ズンッ
地面が揺れ、周囲の木々が軋んだ。ローブの男の足元から闇が這い上がり、空間が歪む。
「試してあげよう。君が“器”にふさわしいかどうかを」
「……ふざけるな」
ユークが足を踏み出した瞬間、ローブの男が闇を纏って一気に間合いを詰める。
ガキィィン!!
剣と短剣が激しくぶつかり合う。ユークは衝撃を受け流しつつ、逆手に剣を持ち替えて切り上げる。
「——遅い」
ローブの男が影の中に消える。
——ザッ
ユークの背後に現れると同時に、短剣がユークの首筋を狙った。
ガキィン!
ユークは即座に反応し、剣を裏手で受け止める。
「本気を出せよ、ユーク。君の“力”を見せてくれ」
「……そんなもの、見せるまでもない」
ユークの瞳が鋭く光る。
次の瞬間、ユークが地面を蹴った。
バッ!!
一瞬で距離を詰めると、剣を水平に振るう。ローブの男が後方に跳び、ユークの一撃を紙一重で避けた——が、ユークの追撃は止まらない。
「はぁぁッ!!」
ユークの剣から蒼白い光が溢れ出す。
「——“刃閃”!」
ギィィィィン!!
剣閃が奔る。ローブの男は闇の障壁を展開して防ぐが、その瞬間——
「……ッ!」
ユークが視界から消えた。
「な……」
——ドンッ!
ユークの剣がローブの男の腹部に突き刺さろうとした瞬間——
「……ふっ」
ローブの男の姿が歪んだ。
ユークの剣は虚空を裂き、ローブの男はその場から消えていた。
「……幻影か?」
「いや、これは“試験”だよ」
ローブの男の声が空間に響く。
「君は確かに強い。だが……その力は未完成だ」
「……何が言いたい?」
「君がその力を完全に覚醒させる時——“黒の書”が君を選ぶだろう」
「ふざけるな……!」
ユークが怒りを込めて剣を振るった瞬間——
——パキンッ
闇が砕け、ローブの男の気配が完全に消える。
「……黒の書が……俺を選ぶ?」
ユークは剣を下ろし、息を吐いた。
「ユーク!」
セリナが森の奥から駆け寄ってきた。
「大丈夫!? さっきの魔力……尋常じゃなかった!」
「ああ……大丈夫だ」
ユークは剣を鞘に収める。
「でも、次は……」
彼は静かに目を閉じ、低く呟いた。
「今度こそ、本当に殺す」
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