第45話 『残されたもの、残された意味』
ユークとセリナは広間を後にし、静まり返った廊下を歩いていた。
「……ヤツの痕跡を探すって言ったけど、具体的にどうするつもり?」
セリナが問いかける。
「“アイツ”がここに現れたってことは、何かしらの痕跡が残っているはずだ」
ユークは剣の柄を軽く叩きながら答える。
「それに……このまま何も分からずにいるのは気に入らない」
「……ふふっ、ユークらしいわね」
セリナが微かに微笑んだ。
「なら、まずは”魔力の残滓”を探るのがいいかも。強力な魔術を使った痕跡が残っていれば、それを辿れる可能性があるわ」
「そういうのはお前の得意分野だな。頼む」
「ええ、任せて」
セリナは軽く息を吐き、集中する。
両手を軽く前にかざし、細かく詠唱を始めた。
——スゥッ……
空気が微かに揺れ、周囲の魔力の流れが可視化される。
「……これは……」
セリナの表情が険しくなる。
「どうした?」
「普通なら、魔力の残滓は時間とともに薄れていくものなのに……ここにある魔力は異様なほど濃いわ」
「濃い?」
「ええ。それも、ただの魔法じゃない……“何か”の影響を受けている」
セリナの指先が震える。
「……これって、もしかして”呪詛”の類かもしれない」
「呪詛?」
ユークの目つきが鋭くなる。
「つまり、アイツはただ”蘇った”わけじゃない……何者かによって”縛られていた”可能性があるってことか?」
「……そう考えるのが妥当ね」
セリナはゆっくりとうなずいた。
「でも、こんな強力な呪詛を施せる存在なんて、そう簡単にいるはずない……」
「……だな」
ユークは腕を組み、考え込む。
(アイツを蘇らせた術者がいる……そして、そいつは相当に強力な魔術を扱うことができる……)
「となると、次に探すべきは”その術者”か」
ユークは剣の柄を握りしめる。
「こんなことができる奴……心当たりはあるか?」
セリナは少し考えた後、小さく息を飲んだ。
「……“黒の書”」
「黒の書?」
ユークが聞き返す。
「古い伝承に出てくる禁断の魔導書……“死を操る力”を持つと言われているわ」
「そんなものが……本当に?」
「ただの伝説だと思っていたけど……もし、それが現実だったとしたら……?」
セリナの目が揺れる。
「黒の書……」
ユークはその言葉を噛みしめる。
(もしそれが本当に存在するなら、これまでの常識が覆るかもしれない……)
「……とにかく、“黒の書”について調べる必要があるな」
「そうね。でも、こんなものを知っている人なんて……」
「……一人、心当たりがある」
ユークはふと、ある人物の顔を思い浮かべた。
「……学都ルミナスの”賢者”か」
セリナが驚いたように目を見開く。
「えっ、彼に聞くつもりなの?」
「ああ。“知識の魔術師”なら、この手の話に何か手がかりを持っているかもしれない」
「でも、彼はかなり気難しいことで有名よ? 会えるかどうか……」
「それでも、行く価値はある」
「——行くぞ、セリナ」
「……分かった!」
ユークは学都ルミナスへ向かうことを視野に入れつつ、まずは王都でできる限りの調査を行うことを決めた。
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