第44話 『残された痕跡』
ユークの決意が、静かに燃え上がった——。
広間に重苦しい沈黙が落ちる。
「……アイツは本当に”消えた”のか?」
ユークは剣を握りしめたまま、男が立っていた場所をじっと見つめる。
そこには黒い霧のような残滓が、ゆっくりと消えかけていた。
まるで、最初から存在していなかったかのように——。
「……だが、確かに”いた”」
ユークは深く息を吐く。
確かに、あの男はここにいた。
そして、“真実を教える”と言い残して消えた。
「……フン、勝手なことを……」
ユークは剣を鞘に収め、広間を見渡す。
——その時だった。
ガランッ
崩れかけたステンドグラスの破片が、微かに音を立てる。
ユークはすぐさま振り向き、身構えた。
「……誰だ?」
「ユーク!」
姿を見せたのはセリナだった。
焦った表情のまま、ユークの元へ駆け寄ってくる。
「無事だったのね……! いきなり大きな魔力の波動を感じて……何があったの?」
「ああ……だが、説明は後だ」
ユークは男が消えた場所を指差した。
「ここに、“ヤツ”がいた」
セリナは一瞬息を飲み、慎重にその場を観察する。
「……もう、何も感じないわ」
「俺もだ。だが、確かにいたんだ」
ユークの目はまだ鋭さを失っていない。
「死んだはずのアイツが、“ここに”いたんだ」
セリナは眉をひそめる。
「本当に……? じゃあ、一体どうやって……」
「分からない。ただ、ヤツの最後の言葉が気になる」
ユークは拳を握る。
「“お前に真実を教える時が来る”——そう言い残して、消えた」
「真実……?」
セリナが困惑した表情を浮かべる。
「考える時間はある。だが、次に現れた時……」
ユークの瞳が鋭く光る。
「——今度こそ、本当に”終わらせる”」
静かな怒りと決意を胸に、ユークは再び剣を握りしめた——。
広間を後にしたユークとセリナは、廊下を進みながら情報を整理していた。
「”死んだはずの男”が現れ、“真実を教える”と言い残して消えた……」
セリナが呟く。
「確かに奇妙ね。普通なら、死者が蘇ることなんてありえない。でも……」
「何か心当たりがあるのか?」
ユークの問いに、セリナは一瞬口をつぐんだ後、小さく頷いた。
「完全には確証がないけど……“蘇りの秘術”、って聞いたことがあるわ」
「蘇りの秘術?」
ユークは眉をひそめる。
「死者を完全に生き返らせるものではないけど……ある条件のもとで、魂を一時的にこの世に留めることができる。けれど、それは古代の魔術師たちの禁忌とされた術……」
「禁忌の術、か」
ユークは顎に手を当て、考え込む。
「となると、アイツは……何者かによって”蘇らされた”ということか?」
「……可能性はあるわね。でも、もしそうだとしたら……」
セリナの顔が険しくなる。
「誰が、何の目的で……?」
その問いに、ユークは静かに目を閉じた。
「考えられるのは、俺に”真実を教える”と言っていたこと……つまり、アイツは何かを伝えるために蘇った……」
「でも、それならどうして直接話さずに消えたの?」
「それが分かれば苦労しないさ……」
ユークは軽く肩をすくめたが、その瞳は鋭いままだった。
(まだ何かが隠されている……)
——男が伝えようとしていた”真実”。
それが何なのかは分からない。
だが、それが重要な意味を持つことは確かだった。
そして、ユークには一つの疑問が浮かんでいた。
(もし”ヤツ”が本当に蘇らされたのだとしたら……)
(それを成した”術者”がいるはずだ)
「……セリナ、すぐに動くぞ」
「えっ?」
ユークの急な言葉に、セリナは驚いた顔を見せる。
「まだ”ヤツ”の痕跡が完全に消えたとは限らない。情報を集めるなら今しかない」
「……分かった!」
セリナもすぐに気を引き締める。
二人は迷いなく、次の手がかりを求めて歩き出した——。
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