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第29話 『最強冒険者、王都の闇市で《深淵の手》と接触』

 王都の夜は、昼間の賑わいとはまるで別の顔を見せる。


 繁華街の灯りが通りを彩る一方で、細い路地には闇が満ち、影が蠢いている。

 通りの隅で何かを売り買いする人々、フードを被った人物が密かに会話を交わし、裏道に消えていく。


 そんな闇に、ユークとセリナは足を踏み入れていた。


 「本当に行くのか?」


 ユークは隣を歩くセリナを一瞥した。

 セリナはフードを目深に被り、優雅な足取りでユークと並んで歩いている。


 「もちろんです。あなた一人では危険でしょう?」


 「そっちが狙われる可能性もあるが」


 「ええ。でも、あなたが守ってくれるでしょう?」


 セリナは微笑んだまま、軽くユークの腕に手を添えた。


 「……まあ、無理はするなよ」


 「あなたに言われたくありません」


 ユークは短く息を吐き、路地裏を進んだ。


 ギルドで聞いた情報によると、闇市への入り口は王都の地下にある。

 しかし、正規の入口は存在しない。

 闇市に行き着くためには、「案内人」を見つける必要がある。




 「——おや、Sランク冒険者がこんな場所に来るなんて、珍しいですね」


 路地裏の暗がりから、艶のある声が聞こえた。


 フードを被った男が闇から現れる。

 男の顔は半分覆われていたが、口元には薄い笑みが浮かんでいた。


 「お前が案内人か?」


 ユークが剣に手をかけながら問いかける。


 「さて、どうでしょうね」


 男は懐から銀のコインを取り出して軽く回す。


 「何を知りたい?」


 「《深淵の手(アビス・ハンド)》が闇市に関与していると聞いた。

 それについて知っていることを話してもらおうか」


 「ふむ……それ相応の“対価”を払っていただけるなら」


 男はにやりと笑った。


 「いくらだ?」


 ユークが短く問うと、男は指を二本立てた。


 「金貨二枚」


 「安いな」


 ユークは即座にポーチから金貨を取り出し、男に渡した。


 男は金貨を確かめると、薄く笑った。


 「闇市には正規の入り口はありません。

 ですが……“目印”を知っているなら話は別です」


 「目印?」


 「《深淵の手》の関係者は、闇市に入る際に“黒薔薇”の紋章を示すんです」


 男は懐から黒い布を取り出し、そこに薔薇の紋様が刻まれているのを見せた。


 「これを持っていれば、闇市の入り口が開かれるでしょう」


 「……なるほどな」


 ユークは布を受け取り、ポケットに収めた。


 「では、健闘を祈ります」


 男はフードを被り直し、闇に溶けるように姿を消した。



 ユークとセリナは、王都の地下に続く細い路地を進んでいた。


 壁は苔に覆われ、どこからか湿った冷気が漂ってくる。

 暗闇の奥で、小さな笑い声や呻き声が微かに響いていた。


 「ここが……闇市」


 セリナが息を呑んだ。


 前方には巨大な鉄の扉が立っている。

 扉の中央には黒薔薇の紋章が刻まれていた。


 ユークは黒薔薇の布を掲げた。


 ゴゴゴ……


 扉がゆっくりと開かれる。

 奥からは、酒と香料の混じった甘ったるい香りが流れてきた。



 ユークとセリナが扉をくぐると、視界が一変した。


 広がっていたのは、王都とはまるで別世界だった。


 赤いランタンが天井から無数にぶら下がっている。

 商人たちは大きな布を広げ、怪しげな薬や魔法具を売っている。

 獣人、エルフ、ドワーフ、そして見たこともない種族が入り混じり、低い声で取引をしていた。


 「呪いの指輪、五千金貨でどうだ!」

 「このポーションなら、不老不死が手に入るぞ!」


 金貨が飛び交う音、酒を煽る音、そして時折聞こえる悲鳴——。


 「……なるほどな」


 ユークは辺りを見渡しながら、低く呟いた。


 「噂以上に、腐ってやがる」


 その時——。


 「ようこそ、Sランク冒険者様」


 背後から声がした。


 振り返ると、フードを被った人物がそこにいた。


 「《深淵の手》か」


 ユークは剣に手をかけた。


 「歓迎させてもらいますよ……」


 男は薄く笑った。


 「死ぬ覚悟があれば、ですがね」



 「行きますよ」


 セリナがユークの隣に立つ。


 「後戻りはできないぞ」


 「もちろん」


 ユークは剣を引き抜いた。


 「……なら、暴いてやる」



見ていただきありがとうごさいます!

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