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第28話 『最強冒険者が挑む王都の闇と王女の危機』

  王都の中央広場は、賑わいに満ちていた。


 噴水の周囲では子供たちが楽しそうに駆け回り、果物や焼き菓子を売る屋台が立ち並んでいる。

 通りには絹織物を広げた商人が声を張り上げ、騎士団の一行が整然と行進している姿が目に入った。


 「新鮮なリンゴだよ! 一個で二枚銀貨!」「焼き立てのパイはいかが? 蜂蜜がたっぷりだよ!」


 威勢の良い呼び声が次々と響き、陽射しを受けて彩られた果物や布が色鮮やかに輝いている。


 音だけでなく、匂いも漂ってくる。

 焼き立てのパンの香ばしい匂い、果物の甘い香り、そしてスパイスの刺激的な香りが入り混じっている。


 ユークはそんな喧騒の中を、セリナと並んで歩いていた。


 「……前に来た時とは随分違うな」


 「昼下がりの広場は、市場が終わった後でもまだ活気がありますから」


 セリナは微笑みながら、噴水の近くに目をやった。

 水しぶきがきらきらと輝き、その周囲には恋人同士らしき男女が腰を下ろして談笑している。


 「あなたは……ここに馴染んできたように見えます」


 「……そうかもな」


 ユークは腕を組みながら広場を見渡した。

 自分がこの王都で「生きる」と決めたのは、昨日のことだ。

 セリナに強制されたわけではない。

 ユークは「自分の意志」でここにいる。


 (だったら、どう動くかも俺が決める)


 「ユーク?」


 セリナが微笑みながら、ユークの腕を軽く引いた。


 「どうした?」


 「どうしたもこうしたもありません。昼食を取らずに外に出たでしょう?」


 「特に必要はない」


 「あなた、魔法や剣技であれだけ動いたのですから、栄養補給は必要です」


 ユークは微かに口元を歪めた。


 「……相変わらずよく見てるな」


 「当然です」


 セリナはユークの隣に並び、肩を並べて歩き始めた。


 その瞬間、近くで子供の甲高い声が響いた。


 「きゃっ! ボールが……!」


 小さな女の子が誤って転がしたボールが、ユークの足元に転がってきた。


 ユークは剣を持ったまま、軽く蹴ってボールを拾い上げる。


 「ほら」


 ボールを差し出すと、女の子はぱっと顔を輝かせた。


 「ありがとう、お兄ちゃん!」


 「別に気にするな」


 女の子はボールを受け取ると、ぴょんぴょんと跳ねながら戻っていった。


 「……案外、優しいのですね」


 セリナがくすっと笑いながら、ユークを見つめる。


 「……ただの反射だ」


 「ふふ、素直じゃありませんね」


 セリナはユークの腕にそっと触れた。


 ユークは王都の冒険者ギルドに足を踏み入れた。


 石造りの壁に掲げられたクエストボードには、討伐や探索、護衛任務などがびっしりと貼られている。

 ギルド内には他の冒険者たちが集い、酒を飲みながら談笑していた。


 ユークが扉を開けて入ると、瞬間——空気が少しだけ変わった。


 「……おい、あいつ」


 「Sランク冒険者……ユーク・アーデルだ」


 「王都にいるって噂は本当だったのか」


 視線が集まる。

 敵意ではなく、純粋な「興味」。


 ユークは無表情を崩さず、受付に向かう。

 カウンターの奥に座っていたギルド職員の女性が目を見開いた。


 「あ、ユークさん……! 王都のギルドに来るのは初めてですよね?」


 「ああ。顔を出しておこうと思ってな」


 「なるほど……」


 職員の女性は納得したように頷く。


 「王都ではSランク冒険者には専用のクエストや情報が提供されます。

 ユークさんなら、その権利がありますので、正式に登録を更新しておきますね」


 ユークはギルドカードを取り出してカウンターに置いた。


 「ついでに、情報が欲しい」


 「情報……ですか?」


 「《深淵の手(アビス・ハンド)》の動きについて、知っていることがあれば聞きたい」


 職員の女性は少し顔を曇らせた。


 「《深淵の手(アビス・ハンド)》については、あまり詳しく話せることは……」


 「……なるほどな」


 ユークは腕を組み、静かに考えた。


 《深淵の手》は王都の裏社会に深く根を張る組織だ。

 ギルドにすら圧力をかけている可能性がある。


 (つまり、正面から探っても限界があるってことか)


 「でも……」


 ふいに、女性職員が小声で言った。


 「《深淵の手》が最近、“闇市”に関与しているという噂があります」


 「闇市?」


 「はい。王都の地下で行われている非合法の取引所です」


 ユークは微かに口元を歪めた。


 「……なるほど。そこを探れば、何か掴めるかもしれないな」





 ギルドを出ると、セリナがユークを待っていた。


 「どうでしたか?」


 「《深淵の手(アビス・ハンド)》が闇市に関与している可能性がある」


 「……闇市、ですか」


 セリナは静かに考え込む。


 「王都の地下組織は貴族派とも繋がっています。

 手を出せば、王国全体を敵に回すことになるかもしれません」


 「それでもやる」


 ユークはきっぱりと答えた。


 「奴らが動くなら、こっちも動かなきゃならない」


 セリナは静かに笑った。


 「やはり、あなたは素晴らしい」


 「……何がだ?」


 「あなたが“自分の意志”で動き出していることです」


 ユークは微かに口元を歪めた。


 「……そうかもな」


 「では、私も同行します」


 「お前も来るのか?」


 「ええ。あなた一人では危険でしょう?」


 セリナは笑いながらユークの腕にそっと手をかけた。


 「私たちの“仕事”が始まりますね」


見ていただきありがとうごさいます!

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