第26話 『深淵の手、襲来』
夜の王宮に、不吉な音が響いた。
ガシャン!
遠くで聞こえる金属音。
警戒の声が重なり、騎士たちの足音が廊下に反響する。
「来たか……」
ユークは剣を抜きながら、周囲に目を走らせた。
王女セリナは静かに立ち上がり、余裕の笑みを浮かべている。
「やはり動きましたね」
「《深淵の手》か」
「ええ。私とあなた、両方を消すつもりでしょう」
ユークは目を細めた。
王女が消される理由は理解できる。
彼女は王都の権力構造を揺るがす存在だ。
だが、なぜユークまで?
「……貴族派は、俺が生きていること自体が都合が悪いと?」
「当然です。あなたが私の側につけば、権力構造が崩れますから」
セリナは言いながら、ユークに歩み寄る。
青い瞳がじっとユークを捉えた。
「あなたがいるだけで、この王都の勢力図は変わる。
だからこそ、彼らはあなたを恐れているのです」
「ふん……買いかぶりすぎだろ」
「いいえ、まだ気づいていないだけです」
セリナは微笑んだまま、ユークの顔に手を伸ばす。
「でも、私はあなたの価値を知っています。
だから……あなたを逃がすつもりはありません」
ユークは剣を構えながら、口元を歪める。
「……あいにく、俺も逃げるつもりはない」
その瞬間——。
バンッ!!
廊下の扉が勢いよく吹き飛んだ。
そこから現れたのは——漆黒の装束を纏った男たち。
顔を布で覆い、鋭い殺気を放っている。
「……ようやく来たな」
ユークは剣を引き抜き、静かに目を細めた。
「さぁ……始めようか…」
「標的確認。殺せ」
黒装束の男が短く合図を出すと、瞬時に六人がユークとセリナを取り囲んだ。
彼らの動きは無駄がなく、明らかに熟練した戦士のそれだった。
「あなたは下がって」
ユークはそう言いながらセリナを背後にかばう。
「そんなに弱くはありませんよ」
セリナは笑いながら、それでもユークの言葉に従って一歩引いた。
「まあ、見ていろ」
ユークは低く構え、剣を握った。
そして、左手をかざしながら魔力を練る。
「《ファイアランス》」
ボウッ!!
鮮烈な炎の槍が生まれ、闇を裂いた。
「なっ……!」
暗殺者の一人が驚き、寸前で飛び退く。
だが、炎の槍は寸分の狂いもなく彼のマントを焼き払った。
「こいつ……魔法も使えるのか!?」
「いや……それだけじゃない」
ユークは剣を構えたまま、左手に青白い光を宿した。
「《アイスバインド》」
ガシュッ!
氷の鎖が地面から伸び、暗殺者の足元を瞬時に拘束する。
「くそっ……!」
動きを封じられた男の首元に、ユークの剣が一閃する。
「一人目」
その瞬間、別の暗殺者が背後から短剣を振り下ろす。
「後ろだ!」
セリナの声が響いた。
「《ウインドスラッシュ》」
ユークは振り向きざまに風の刃を解き放った。
シュンッ!
風の刃が暗殺者の腕をかすめ、短剣が床に転がる。
ユークはすかさず接近し、肘打ちを喉に叩き込む。
「二人目」
残る四人が距離を取り、気配を研ぎ澄ませる。
「こいつ……同時に複数の属性魔法を……!」
ユークは剣を肩に乗せ、口元を歪めた。
「それが《万能適応》ってやつさ」
「《サンダーボルト》」
ユークが右手を掲げると、青白い雷光が奔る。
ゴゴゴゴゴ……!!
雷撃が空間を裂き、暗殺者たちの体に弾ける。
同時にユークは跳躍し、氷と雷を同時に展開。
「《フリーズブレード》」
ユークの剣に氷と雷が絡みつき、刃が蒼白く光る。
「くっ……!!」
暗殺者たちが懐に飛び込もうとした瞬間、ユークは剣を振り下ろした。
ザシュッ!!
衝撃が炸裂し、氷と雷が広範囲に拡散。
暗殺者たちの動きが一瞬で止まる。
「……終わりだ」
ユークが最後の一人を斬り伏せると、セリナが静かに歩み寄った。
「……やはり素晴らしい」
セリナはユークをじっと見つめる。
「これほどの力を持っているのなら、
やはりあなたは私の側にいるべきです」
ユークは剣を収めながら、セリナを見た。
「……お前、本気でそう思ってるのか?」
「当然でしょう」
セリナはユークの胸元に手を当てた。
「これで、あなたは私の騎士になったのですから」
ユークはセリナの手を振り払うことなく、彼女の顔をじっと見つめた。
「……お前の騎士になるつもりはない」
セリナの表情がわずかに曇る。
だが、ユークはそのまま続けた。
「だけど——」
ユークは剣を軽く握ったまま、窓の外に目を向ける。
「俺を消そうとする連中を放っておくつもりもない」
セリナの瞳が、静かに揺れる。
「つまり……?」
ユークはゆっくりと振り返り、セリナを見つめた。
「俺は王都で生きる。お前を守るとか、王国のために戦うとか、そんなつもりはない。
だが——」
「俺を狙った以上、そいつらを潰すまで引き下がるつもりはない」
ユークの瞳に、鋭い光が宿った。
「だから……結果的に、お前の側にいることになるかもしれないな」
セリナは短く息をつき、ゆっくりと微笑んだ。
「……それで十分です」
セリナはユークの胸に手を当てたまま、静かに囁いた。
「私はあなたに守られるつもりはありません。
でも……あなたが隣にいてくれるなら、それでいい」
ユークは無言のまま、セリナの手をそっと振り払う。
そして、剣を収めて歩き出した。
「……さて、仕事が増えそうだ」
「ええ。これから忙しくなりますよ」
セリナは微笑みながら、ユークの背中を見つめる。
「これで、あなたは王都の駒ではなく……王都の剣となる」
ユークは振り返らずに答えた。
「……駒じゃない。
俺は俺の意志で戦うだけだ」
王都の夜に、ユークの決断が静かに響いた——。
見ていただきありがとうごさいます!
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