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第24話 『王都で生きるなら、王女を利用しろ?』

 王都の片隅、小さな宿屋。

 剣を手入れしながら、ユークは静かに息をついた。


 昨夜の暗殺未遂。

 それが「ただの始まり」にすぎないことは分かっていた。


 王都は、戦場だ。

 貴族派、ギルド、錬金術協会、裏社会……それぞれが影で動き、己の利益を追求する。

 その渦中に放り込まれたユークが、無傷で済むはずもない。


「……さて、どうするか」


 コン、コン。


 扉を叩く音。


 ユークは警戒しながら立ち上がる。

 この宿に訪ねてくる者など限られている。


 剣に手を添えながら、ゆっくりと扉を開けた。


 そこに立っていたのは——。


「おはようございます、ユーク・アーデル様」


 夜明けの光を背に、金色の髪が美しく輝いていた。

 王女セリナが、優雅に微笑んでいた。


「……ずいぶんと大胆だな」


 ユークは目を細めた。


 王女が、たった数人の護衛を連れてこんな安宿に?

 それは、ありえない選択だった。


 しかし——セリナは涼しい顔で微笑む。


「あなたが私の呼び出しを断る可能性がありましたので。直接お邪魔した方が確実かと」


「ご苦労なことだ」


「それだけ、あなたには価値があるということです」


 ユークは腕を組みながら、椅子に腰を下ろす。


 セリナはためらうことなく、向かいの椅子に座った。

 その動き一つすら、計算された優雅さを感じさせる。


「わざわざ王女自ら、俺に何の用だ?」


 セリナはゆっくりと、カップに口をつけた。

 上品な動作——だが、その視線は鋭い。


「あなたを、私の側に置きたいのです」


 ユークは無表情を崩さないまま、答える。


「また婚約の話か?」


「それも、一つの手ですね」


 セリナは、まるで「ユークの答えなど最初から決まっている」とでも言いたげな笑みを浮かべる。


「単刀直入に言いましょう」


 カップを置き、組んだ指の上に顎を乗せる。

 王族の威厳と、個人の魅力が混ざり合うその仕草に、どこか危うい色気が滲む。


「あなたは、このままでは王都で生き残れません」


「……」


「貴族派、ギルド、錬金術協会、そして裏社会の者たち。

 彼らがあなたを放っておくと思いますか?」


 ユークは短く息を吐く。


「確かに、昨夜の暗殺未遂はいい教訓になったな」


「でしょう?」


 セリナは微笑んだ。


「だからこそ、私はあなたに提案するのです。私の側につきませんか?」


「つまり、俺を利用したいってことか」


「あなたは私を利用する気はないの?」


 ユークの目が、一瞬だけ揺れた。


「……何?」


「利用するか、されるか。王都では、それが生き残る唯一の方法です」


 セリナは静かに続ける。


「あなたは、この王都で力を振るいたいのでしょう?」


 ユークは言葉を返さない。


「ならば、王族である私と手を組むのが最善の選択です」


 セリナは立ち上がり、ゆっくりとユークの前へと歩み寄る。


 至近距離。


 その青い瞳が、ユークを捉えた。


「あなたは、私のものになるべきです」


 ユークはわずかに笑う。


「ずいぶんな言い方だな」


「私のものになれば、王都での自由も手に入るのですから」


 セリナは指先でユークの顎を持ち上げるような仕草をする。


「悪い話ではないでしょう?」


 一方、その頃——王都の貴族街。


 屋敷の奥で、密かに開かれる会合。


「……王女がユーク・アーデルと接触したそうだ」


「奴を取り込む気か……!」


「ならば、こちらも動くしかあるまい」


 薄暗い部屋の中、重い空気が漂う。


 その中心にいる男が、静かに呟いた。


「《深淵の手(アビス・ハンド)》に接触しろ」


 その名を聞いた瞬間、場の空気が凍りついた。


「……本気か?」


「王女が動くなら、我々もそれに応じるまで」


 次なる陰謀が、静かに動き出す。



 宿を出た王女セリナは、馬車に乗り込んだ。


 侍女が心配そうに尋ねる。


「……ユーク様は、お味方になってくださりそうですか?」


 セリナは、静かに微笑んだ。


「ええ……いずれ、彼は私のものになるでしょう」


 青い瞳が、王都の遠くを見つめる。


「だって、彼には私しか頼る者がいないのだから」


 その言葉は、静かに、けれど確かに王都の未来を決定づけるものだった。

見ていただきありがとうごさいます!

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