第23話 『暗殺未遂──王都の闇が動き出す』
王宮での謁見を終え、ユークは夜の王都を歩いていた。
王女セリナの「婚約」という言葉が頭の中に残っている。
——婚約すれば、俺の身は安全になる?
——貴族派も黙る?
——王都で自由に動ける?
だが、それと引き換えに俺は何を失う?
「……面倒ごとは、増えそうだな」
ふっと空を見上げる。
王都の夜空は星が少なく、城壁の向こうには見えない影が蠢いているようだった。
そして——その予感は、すぐに現実となる。
スッ……スッ……
僅かに響く足音。
気配が増えた。
(……つけられてるな)
ユークは気づかぬふりをして歩き続ける。
その足取りはわざとゆっくりと、影たちを誘うように。
そして、ある路地の角を曲がった瞬間——。
「——やっと捕まえたぞ、Sランク冒険者」
静かな声が響いた。
路地の奥と出口を塞ぐように、黒装束の男たちが立ちふさがる。
その動きから、ただのゴロツキではないことは明らかだった。
ユークは周囲を見渡しながら、淡々と問いかける。
「歓迎が手荒いな。これが王都の流儀か?」
「お前がここで消えれば、王都の秩序は保たれる。そういう話だ」
暗殺者の一人が、短剣を抜いた。
「安心しろ。痛みは最小限にしてやる」
ユークはわずかに首を傾げる。
「……はあ。いちいち回りくどいな」
次の瞬間、男たちが一斉に動いた。
最初の一撃は、素早く、鋭い。
だが——ユークの動きは、それよりもさらに速かった。
シュッ!
回避と同時に、敵の懐に踏み込み、肘打ちを喉へ叩き込む。
「ぐっ……!」
次の男が短剣を振り下ろす。
それを受け流し、カウンターの膝蹴り。
「がっ……!」
二人が崩れ落ちる。
残る四人が、ユークとの距離を取りながら包囲を固めた。
「……噂通り、いや、それ以上か」
暗殺者の一人が呟く。
「どうする? 仕留められるのか?」
「やるしかない」
彼らが短剣を構え直した、その時——。
ユークは剣を抜かず、右手を軽くかざした。
《重圧の魔法》
ゴッ……!
空気が一気に沈み込み、暗殺者たちの動きが鈍る。
「なっ……!? 体が……重い……!」
ユークは剣を鞘に収めたまま、一歩前に踏み出す。
「忠告しておく」
男たちの額に、冷や汗がにじむ。
「俺を殺すなら、一撃でやれ。二度目はないぞ」
視線だけで威圧すると、暗殺者たちはすぐに撤退した。
一方、その頃。
王都の貴族街にある一つの屋敷。
その奥の一室で、数名の貴族が密かに会合を開いていた。
「……暗殺は失敗した」
重い沈黙が流れる。
「やはり、Sランク冒険者は甘くなかったか」
「王女が彼を味方につける前に、手を打つべきだったが……」
貴族たちは顔を見合わせた。
そして、一人の男が、低く囁く。
「ならば……裏の連中に頼むしかないな」
王宮の書斎。
王女セリナは、報告書に目を通していた。
ユーク・アーデル、襲撃される。
暗殺未遂——だが、犯人の特定は困難。
「……やはり、動いたわね」
ユークを排除したがる者がいる。
だが、それは貴族派だけではないはず。
セリナは机に肘をつき、考え込んだ。
ユークは強い。
しかし——この王都では、「強さ」だけでは生き残れない。
「……直接、会いに行きましょう」
彼女は立ち上がり、侍女に命じた。
「ユーク・アーデルを探して」
彼を、王都の陰謀に飲み込ませないために——。
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