第22話 『王都の策謀、王女の望み』
王都・アルザディアに到着して数日。
ギルドでの登録更新を終えたユークは、王都の街を歩きながら情報を集めていた。
錬金術協会、ギルドの上層部、そして貴族たち。
彼に興味を持ち、接触を図ろうとする者は多かった。
だが——。
「王宮からの正式な招待状、です」
ギルド本部で、受付嬢が恭しく差し出したのは、金色の封蝋が施された書状だった。
「王女セリナ・アルヴェイン様が、ユーク・アーデル様とお話をしたいと」
周囲の冒険者たちが一斉にこちらを振り向く。
「王女直々に? なんで……?」
「アイツ、ただの冒険者じゃないのか……?」
「いや、ドラゴンを討伐したSランク……むしろ当然か?」
ざわめくギルド。
ユークは書状を開き、その内容を確認する。
「本日夕刻、王宮にて謁見を希望する」
「……俺に断る選択肢は?」
受付嬢は困ったように微笑む。
「王宮からの招待を断る方は、あまりいませんね……」
「そうか」
ユークはため息をつきながら、王宮へと向かうことを決めた。
王宮の扉が開かれると、豪華な装飾が施された謁見の間が広がっていた。
天井には巨大なシャンデリアが輝き、整然と並ぶ兵士たちが王家の威厳を示している。
その中央——。
王女セリナ・アルヴェインが、優雅に椅子に座っていた。
金色の長髪に、青い瞳。
気品と知性を兼ね備えた佇まい。
彼女はユークを見つめ、微笑んだ。
「ようこそ、ユーク・アーデル様」
ユークは軽く頭を下げる。
「王女様が直々に呼び出すなんて、光栄なことだな」
「ふふ、あなたのことを一度この目で見ておきたくて」
「俺がそんなに気になるか?」
「ええ。あなたは、今や王都で最も注目されている人物の一人ですから」
セリナは静かに続ける。
「Sランク冒険者、ドラゴン討伐の実績、そして……“万能適応”という特異な才能」
「よく調べてるな」
「王都において、あなたほどの力を持つ者が自由に動くのは、少し困るのです」
「……つまり、俺に“おとなしくしろ”って言いたいわけか」
「いいえ」
セリナは微笑んだ。
「あなたを“利用”したいのですが、どうでしょう?」
ユークはわずかに目を細めた。
「利用、ね……どういう意味だ?」
ユークが探るように問うと、セリナは優雅に微笑んだまま答えた。
「貴族派の一部は、あなたを危険視しています。強すぎる力を持つ冒険者は、彼らにとって制御不能な存在」
「……なら、俺を追い出そうとするってわけか?」
「ええ。ですが、それを防ぐ方法が一つだけあります」
セリナはゆっくりと立ち上がり、ユークへと一歩近づく。
そして——。
「私と、婚約するというのはどうでしょう?」
ユークの思考が、一瞬止まった。
「……は?」
「あなたが王族の一員となれば、貴族派も手出しできません」
「いや、ちょっと待て。俺は冒険者だぞ?」
「もちろん、あなたの自由を奪うつもりはありません。ただ……あなたが“私の婚約者”という立場になれば、王都での居場所を保証できます」
王宮の中が、静寂に包まれた。
「つまり、これは“政略婚約”ってことか」
「そうとも言えますし、そうでないとも言えます」
セリナは意味深な笑みを浮かべる。
ユークは、王都の「ルール」を思い返していた。
貴族社会の中で力を持つには、身分が必要。
そして、王族と関わることは、確かに“自由”を手に入れるための手段にもなる。
だが——。
「悪いが、俺は誰かの“駒”になるつもりはない」
ユークは静かに断った。
「そう……ですか」
セリナの表情が、わずかに寂しげに揺れる。
「ですが、私は諦めませんよ?」
「……めんどくせえな」
一方、王宮の外。
王都の貴族派の屋敷では、一部の貴族たちが密談を交わしていた。
「王女が、あの冒険者と接触したそうだ」
「放っておけば、あの男が王都の力を乱す……」
「ならば、“排除”するしかあるまい」
王都の影で、ユークを巡る策略が動き始める。
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