幕間I『王都の歯車が回る時──操られる者、狙われる者』
王都・アルザディアの中心、王宮。
黄金に輝く広大な玉座の間で、王女セリナは報告を受けていた。
「……例の冒険者、ユーク・アーデルが王都へ向かうとの情報が入りました」
王女は静かに頷いた。
「やはり、彼は来るのですね」
宰相は淡々と続ける。
「彼の力は既に王都の貴族たちの間で話題になっています。ドラゴンを討伐し、Sランクに認定され……さらに、錬金術の才能もあるとか」
王女の青い瞳が鋭くなる。
「問題は、その力を王国にとって“益”とするか、“害”とするか、です」
宰相は頷く。
「一部の貴族は彼を利用しようと動いています。しかし、騎士団や王国魔術師協会の中には、“管理できぬ力は危険”と考える者も」
セリナは玉座から立ち上がる。
「……どちらにせよ、ユーク・アーデルが王都に入る前に、私たちの手で“答え”を出さなくてはなりません」
王女は窓の外を見つめる。
遠く、王都の入り口へと続く街道が見える。
彼女は、まだ見ぬその男に対し、“好奇心”と“警戒心”の入り混じった感情を抱いていた。
一方、王都の学術地区にある「王国錬金術協会」。
そこでは、複数の研究者たちが静かに会議を行っていた。
「……本当にそんな逸材が?」
「間違いありません。ユーク・アーデルは、通常の錬金術師とは異なる才能を持っています」
部屋の中央に座る、壮年の男が口を開いた。
彼こそが、王国錬金術協会の長であるマルクス・エルヴェインだった。
「彼の“万能適応”という能力……それをもし、我々の研究に取り込めれば」
錬金術師たちは息をのむ。
「……まさか、“神秘の錬成術”を?」
マルクスは冷笑する。
「錬金術の究極形は、人を超えた存在を作り出すこと。我々が目指すのは、その領域に至ることだ」
彼は手元の書類に目を落とす。
そこには、ユーク・アーデルの詳細な戦績と、彼が独自に開発した錬金薬のデータが記されていた。
「ユーク・アーデル……彼の力を手に入れた者が、錬金術の未来を支配することになるだろう」
王都の地下深く、隠された研究施設。
そこでは、異形の存在が蠢いていた。
巨大なガラスの容器の中で、人間の形をしていながら歪んだ肉体を持つ者たちが眠っている。
禁忌の錬金術によって生み出された「人造兵士」だった。
その中心に立つ男が、不気味な笑みを浮かべる。
「ユーク・アーデル……奴の能力さえ手に入れば、この実験も次の段階へ進める」
違法な錬金術組織、深淵の手の幹部、ヴェルナー。
彼は、ユークの存在をすでに把握し、次の行動を決めていた。
「王都に来るなら……歓迎の準備をしてやらねばな」
王都の地下では、すでにユークを狙う罠が張り巡らされていた。
王都冒険者ギルドの本部では、ギルドマスターが机に肘をついていた。
「ユーク・アーデルか……また厄介なヤツが来るもんだ」
Sランク冒険者が王都に来るとなれば、ギルドの中でも大きな影響がある。
他のSランク冒険者や、Aランクの実力者たちがどんな動きをするのか。
「彼の実力は確かですが、王都ではルールを守ってもらわねぇとな」
ギルドマスターは、遠くを見つめる。
「問題は、コイツが“ギルドの秩序に従うタイプ”なのか、それとも“好き勝手やるタイプ”なのか……」
王都のギルドもまた、ユークをただの冒険者として扱うつもりはなかった。
その頃、ユークは王都へと続く街道を歩いていた。
遠くに見える城壁。
その向こうに広がる巨大な都市。
「さて……王都ってのは、どんなもんかな」
彼はまだ知らなかった。
すでに自分を巡る戦いが、王都の至る所で始まっていることを。
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