第19話 『破滅の序曲──暴走する誇り、動き出す禁忌』
王都の裏路地。
冷たい夜風が吹き抜ける中、レオナールは震える拳を握りしめていた。
砕け散った剣。
遠ざかるユークの背中。
「……嘘だろ……」
「取り戻す」と息巻いていたのに、ユークはただ冷たく「終わった話だ」と言い放った。
そして、実力の差は歴然だった。
(……こんなの、認められるか……!)
レオナールは、砕けた剣の破片を握りしめる。
それはまるで、自分のプライドそのもののようだった。
リーナとエレナも、呆然と立ち尽くしていた。
「う、嘘でしょ……ユークが、あそこまで強くなってるなんて……」
「こんなの……こんなの、間違ってる……」
彼女たちは信じたくなかった。
ほんの少し前まで、一緒に旅をしていた仲間が、まるで別人のように強くなっていたことを。
しかし——レオナールだけは、違った。
彼の目には、静かな狂気が宿り始めていた。
(まだ終わりじゃない……終わるはずがない……!)
一方、ユークは王都のとある小さな工房にいた。
木の棚には無数のガラス瓶が並び、淡く輝く液体や奇妙な鉱石が収められている。
ユークは静かに調合台に向かい、ある試薬を混ぜていた。
(……そろそろ、こっちの実験も形にしないとな)
ユークは「万能適応」の能力のおかげで、一度触れた技術を最適化し、独自のものに進化させることができる。
それは戦闘だけでなく——錬金術にも応用可能だった。
彼は過去に触れたポーションの調合法を基に、独自の「戦闘用強化薬」の開発を進めていた。
(通常のポーションは回復に重点を置いているが……俺が求めるのは“即効性”と“適応性”だ)
たとえば、戦闘中に素早く傷を塞ぎ、なおかつ疲労回復を最適化するポーション。
あるいは、敵の毒や呪いを解析し、瞬時に無効化する解毒薬。
ユークは慎重に薬品を混ぜ、静かに呟いた。
「錬成」
瞬間、試験管の中で液体が変化し、ほのかに金色の輝きを放つ。
——これが、ユークが生み出した「万能適応ポーション」だった。
ユークは工房を後にし、王都の市場を歩いていた。
すると、背後から声がかかる。
「あなた……ユーク・アーデルですね?」
振り向くと、そこには上品な装いの貴族風の男が立っていた。
「……あんたは?」
「私は王国の錬金術協会の者です。あなたの錬金術の才能について、ぜひお話を伺いたくて」
ユークの眉がわずかに動く。
(……錬金術協会?)
男は続ける。
「最近、あなたが“通常のポーションとは異なる効果を持つ薬品”を作成しているという噂を聞きましてね」
(情報が早いな……)
王都には、「錬金術師」として活動する者が数多く存在する。
だが、その中には——違法な研究を行い、禁忌の薬を生み出す者もいる。
ユークは、貴族風の男を見据えながら静かに答えた。
「俺は、ただ実験をしてるだけだ」
「ですが、あなたの才能は間違いなく本物でしょう。ぜひ、王国のためにその技術を提供していただきたい」
王国のため。
だが、ユークには「利用しようとしている」意図が見え透いていた。
ユークは淡々と答える。
「興味はない。悪いが、他を当たってくれ」
男は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んだ。
「……なるほど。しかし、あなたの才能を放っておく者はいませんよ」
その言葉を残し、男は静かに立ち去った。
ユークは、王都の空を見上げる。
(どうやら、俺の錬金術の知識も……余計な連中に目をつけられ始めたな)
同じ頃——
王都の地下に広がる闇の施設で、ある実験が進められていた。
暗い石造りの部屋には、無数の薬品が並び、異形の実験体が拘束されている。
それは、錬金術を悪用して生み出された「人造の怪物」だった。
その中心に立つ男が、冷たく笑う。
「ユーク・アーデル……興味深い存在だ」
その男こそが、違法な錬金術を操る王都の闇組織の首領だった。
「……万能適応その能力を奪えれば、我々の研究は次の段階へ進む……!」
ユークの力を巡る陰謀が、表の王国、裏の犯罪組織の両方で動き出していた。
夜の王都、大通り。
ユークは歩みを進めながら、周囲の気配を探っていた。
(……妙に静かだな)
すると、闇の中から、一人の男が現れた。
「ふむ……やはり、素晴らしい力だ」
ユークは目を細める。
「……誰だ?」
黒いローブを纏った男は、静かに微笑んだ。
「“王都の闇”……貴様には、そう呼んでおこうか」
ユークは剣を握る。
「俺に何の用だ?」
男は微笑みながら、こう言った。
「貴様は強すぎる。我々の計画には邪魔だ」
ユークの瞳が鋭くなる。
「なるほど……つまり、俺を消しに来たってわけか」
夜の王都。
ついに、「ユーク VS 王都の陰謀」が本格的に始まろうとしていた——。
読んでいただきありがとうごさいます!
この作品が面白かったら、感想、ブグマ&評価(下の星マーク)をお願いします!




